第28話

 テラス会での戦闘に決着がついた頃。


 紅音は本部から少し離れた林の中にいた。


 追跡していた男がテラス会に入っていくのを確認した後それを報告した紅音だったが、裏口から逃る男に気づき彼を追った。


 男の事を報告した紅音にアオマが跡を追うように指示を出していた。




『アイツが抜けるならその分こちらが楽になる。お前は引き続きそいつをつけろ』


「大丈夫ですか?敵の本拠地なんですよ」


『まぁ、なんとかなるだろ。その男、契約が完了して逃げただけかもしれねぇ。が、御堂と繋がっている可能性も無くはねぇ』


「わかりました。どうかお気おつけて」




 もう少しで林を抜けるといったところで男が振り返り、


「いつまでコソコソ付いてくるつもりだ。そろそろ出てきたらどうだ?」


 と叫ぶ。


「よく気づきましたね。結構自身、あったんですけど」


 そう言いながら姿を晒す紅音。


「ああ、ヤマ勘だ」


 思わずズッコケそうになる紅音だが男は続ける。


「お前らの動きが早すぎたからな。俺がつけられている可能性をまず疑うさ。テラス会の連中には申し訳ない事をしてしまったがな……」


 そう言って剣を抜く男。


 紅音も戦闘態勢に入る。


 男の剣が青白い炎に包まれる。


 走馬刀の能力とは血液から記憶を読み取るというモノなのだが、この過程で呪力で造られた青い炎が使われる。


 走馬刀を使いこなす者はこの炎を操り攻撃などにも応用できるようになる。


 男が炎に包まれた剣を横一文字に振ると多数のレーザー状の熱線が放たれる。


 熱線は10本以上で速度も幻術使いの閃光より早い。


 しかし紅音はそれに反応し、回避行動をとりながら男との距離を詰める。


 男を中心に円を描くように近づいてくる紅音に対し男は先読みで上段の構えから青い炎の斬撃を飛ばす。


 だが紅音は速度を上げてその攻撃をスリ抜けてしまう。


 そしてお返しとばかりナイフのように伸ばした爪弾をを連続で発射し男を追い込む。


「只者でないのは察していたがそうか、人間ではないのか」


 交戦したことを少し悔いた男の足に痛みが走る。


 先程紅音がばら撒いた爪弾がマキビシのように変化し、男の足に刺さっていたのだ。


「まずい」


 そう判断した男は炎を纏った剣で自分の足ごと刺さったマキビシを焼いた。


 この娘の爪は本体から離れた後も形状を変えられるのだろう。


 マキビシで済めばいいが最悪そこから拘束されたり片脚を失う可能性を考えての行動だ。


 男の剣が激しく燃えはじめ、それを地面に突き刺すと周囲の草や木、そして紅音の爪を青い炎が包み込み、焼きつくす。


 これでさっき撒かれた爪への対処はできた。


 次に撃ってきたらなるべく炎で迎撃することを決めた。


 しかし次の瞬間、男の首に何かが巻きつく。


 自分の首から延びるそれを目で追うと少し離れた木の枝が変化したものだと気づく。


 先程爪弾が撃ち込まれた樹木。


 それさえも操れるのか。


 ふと男は首に巻き付いた物に気を取られ今戦っている少女の姿をした得体のしれない敵が意識から消えていたことを思いだす。


 少女はその一瞬の間に男の懐に入りこみ一撃を繰り出そうとしていた。


 剣で受ける、炎で迎撃する、バックジャンプで距離をとる。


 思いついたがどれも間に合わない。


 あの水術使いに言った言葉を今の自分に照らし合わせる。


 人に説教できる身分じゃなかったな……。


 そんな言葉を脳裏に浮かべながら紅音にぶっ飛ばされて林を抜ける。




 林を抜けた先にある街道のど真ん中で男は伸びていた。


 男を逃して跡をつけるという作戦は失敗してしまった。


 さてどうしたものか。


 このまま放っておいたら勝手に気がついてアジトとかにでも戻るのだろうか。


 だったら道路のど真ん中に放置するのはまずいから脇の方にでも寄せておくか。


 まぁ、この男ならすぐ気づくだろうなと泳がせるのはあきらめ、捕らえて尋問するという結論に達した。


 男に近づく紅音だったが、何かに気づき後方にジャンプすると先度までの紅音の進行方向に赤い炎の玉が突き刺さる。


「質量を持った火炎弾?」


 一般的に炎を使った攻撃呪因というのは熱によって焼き切ったりするもので重さを持たないのだが、今目の前で道路に突き刺さっているモノは高熱を纏った石のようだった。


 攻撃が飛んできた方に目をやると車が一台近づいてくるのが見えた。


 その車は屋根が開いており、そこから上半身を出した何者かが弓矢を構えるようなポーズを取っている。


「あの車からですか」


 そう言ってため息をつく。


 もう少し待っていれば仲間がたすけにきてたのかもしれない。


 そうすれば当初の予定通り跡をつけて新しい情報を得られてたのに。


 諦めて車の到着を待つとそれ以上の攻撃はなかった。


 車から降りてきたのは運転をしていた大柄な20代くらいの男と小柄な10代後半ぐらいの少年。


 そして車の屋根から紅音を狙い撃ちした人物が飛び降りる。


 それは長い黒髪で白いワンピースを着た10代後半ぐらいの少女だった。


「またあったね、お人形さん」


 少女の言葉から以前、遠藤 勇司エンドウ ユウジを操っていた呪因師を思い浮かべる紅音。


「貴女があの品のない呪因師でしたか」


「あぁー、やっぱ遠隔でもそういうのって伝わんのかー」


 と少年。


「まぁ、コイツはそういうの隠そうとしないからなぁ」


 大柄な男が続く。


「ちょっと、なんであんたらお人形さんの肩を持つのよ!」


 少女が2人に詰め寄ると、


「素直な感想だからな」


 少年が言うと


「裸で家ん中ウロウロするような奴に品なんてないだろう」


 大柄な男が止めを刺す。

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