第27話
そもそも無茶な計画だった。
今の組織は10年前の天岩戸とは比べ物にならないくらい弱体化していた。
生き残った者たちの中でも腕の立つものは組織から離れ独自に活動している。
以前のように多数の呪因師を雇える資金もない。
強制管理執行が行われる少し前に佐渡 修吾に破門を言い渡された笹上 総次。
後にそれが彼のなけなしの良心であったことを知る。
「そんな事だから貴方は小物だと言われるのですよ」
決して嫌味の類ではない。
彼が小物だったからこそ今日まで自分は生きてこれたのだ。
小物である事を笑う資格など無かった。
むしろ彼のその人間味が愛おしかった。
その後顔を変え、名前を変えひっそりと第二の人生を送っていたが、かつての仲間の生き残りが新たな組織をつくろうとしているのを知り、彼らに接触を試みた。
強制管理執行直前に姿を消した彼をよく思わない者達がほとんどだったが、佐渡の右腕として長く活躍した彼の手腕により、いくつかの拠点と資金源を持つテラス会が生まれた。
彼がかつての仲間達に接触した理由。
それは彼らに無茶な戦いをさせたくなかったからだ。
集まった者の多くはかつての戦いで親しい人などを亡くし、管理局。特に県北支部に恨みを持つ者達だった。
結局、中途半端な善意や甘さで行動する自分は佐渡の教え子なのだと自覚した。
完璧ではなくてもそれなりには上手く立ち回れたと思っていたのだが、御堂の干渉で一気に風向きが変わってしまった。
結局自分たちはこうなる運命なのだと総次は決意した。
奏美の一太刀を浴びた総次はある覚悟を決めた。
まだ戦えないわけではないがこの傷で彼等を掃討するのは不可能だろう。
地面を隆起させ奏美と距離をとると建物の奥へと逃げ込む。
佐渡の安置されている部屋に入り戸を閉めるとそこに奏美の剣が刺さっていく。
遺体の前で刀を抜きとある呪因を発動させるとその刃を自身の首にあてる。
「この命、お返ししますね」
そう言って自ら首を跳ねる。
神父を追い建物に入った奏美は彼が逃げ込んだ部屋の扉を蹴破ろうとして近づいた。
扉に触れるか否かのタイミングで部屋の中から膨れ上がった何かに弾き飛ばされ転倒する。
同時に建物の倒壊がはじまり、間一髪のところを追ってきた脇坂に助けられ外に出る。
「なんだありゃ」
崩れ落ちた建物から出現した巨大な因果獣を見て脇坂が言う。
『おそらくあの刀に封じられていたヤツだな』
アオマが見解をのべる。
そんな中、再び戦闘態勢を取ろうとする奏美を脇坂が制止する。
強力な呪因を使ったのもあるが、先程因果獣に食らったカウンターがかなり効いていたからだ。
「奏美ちゃんは休んでて。今度こそオヂさんの出番だから」
そう言って脇坂はファイティングポーズをとる。
突然現れた狼型の因果獣を見てアオマが呟く。
『外練じゃねぇな。ある程度呪因師や人間を食った因果獣は知性の証として額に第三の目が現れる。外練もそのはずだがこいつにはそれがねぇ』
「外練以外の因果獣……。戦争でもはじめる気だったのか。こいつら」
脇坂が呟いている間、因果獣から漏れる言葉に聞き入っていた。
「サワタ……リサ……、キイキテキキキ」
『まさか……、
「いんが……なんだって?」
アオマの態度と漏れた言葉に脇坂が反応する。
『因果獣ってのは大小差はあれ食った人間の記憶や人格を憶えるもんなんだ。それを利用してある特殊な呪因を施した遺体を因果獣に食わせることで死んだ人間を再現させる呪因。それが因果転生だ』
しかし、復活したこの因果獣が口にしたのはまだ新鮮な笹上 総次の亡骸だった。
何も施されていない総次の遺体を食したことで中途半端にその人格を移してしまったのだ。
『そもそも因果転生の器になりうる因果獣ってのはさっき言った知性の証のあるヤツだ。それがねぇコイツを使うってのは博打みてぇなもんだ。多分、外練を使いたかったんだろうな』
「死者の再現って……。まさか?!」
『まぁ、教祖様だろうな』
言っている間に因果獣が近づいてくる。
「まぁ、詳しい話は後で」
そう言うと脇坂は因果獣に向かっていく。
『あの男、武器を使うでもなく距離をおいて呪因を撃つでもない……。まさかな』
因果獣は脇坂に対し右前足を振り下ろすがそれを左手でしのぐような仕草をすると、その前足が吹き飛んだ。
それを見たアオマの目に好奇心が宿る。
『刻因拳の使い手か!』
脇坂はそのまま因果獣の頭部に右ストレートを打ち込み、ひるんだところに左で追撃する。
『一撃目で因果獣の呪力を掌握し、二撃目でその呪力を使って呪因を組む複合因だな』
アオマが感心すると同時に因果獣の頭部から吹き飛んでいく。
因を刻んで果を起こす。
自身のわずかな呪力を呼び水に使い、対象の呪力を利用して呪因を組む技法。
それが脇坂が使った刻因拳だ。
起源は古く、五体家の祖と呼ばれる刃沙魔家。
その門下の中でも古参と呼ばれる中にある練条家が編み出したのがこの刻因拳だった。
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