第26話

 総次は修吾に対して特別な思いを持っていた。


 彼が修吾に出会う以前、地元では有名なスポーツ選手だった。


 将来が期待され、地元紙に載る事もあった彼だが交通事故に合い将来の夢が絶たれるだけでなく、普通の生活すらできなくなってしまった。


 そんな彼に修吾は目をつけ、怪我を治してみせて地元の名士や権力者に顔を売った。


 総次も今はいい大人で呪因師としての修吾についてもよく分かっている。


 例え名を売るために利用したのだとしても、あのとき自分を救ってくれたのは間違いなく修吾だった。


 そして接触してきた御堂 要ミドウ カナメ


 彼の目的は神子の情報と子供達を改造した技術だ。


 子供達を改造したり神子を連れてきた人物。


 総次も何度か目にはしていたがよくは知らない。


 その情報を持つのが修吾だけだと知ると御堂はある提案をしてくる。


 それが因果獣を使った修吾の復活だった。


 御堂の呼びかけで教団天岩戸の生き残り達が集まってきたが、その大半は教祖の復活より御堂の計画とパンドラの箱に興味を持つ者達だった。


「外が騒がしいな……。まさか」


 鉄が言うと総次は静かに笑って亡骸の横に置いた古びた日本刀を手に取る。


「鉄さん、ありがとうございました。貴方は此処を脱出してください」


「……。そうか、短い間だったが世話になったな」


 2人は軽く会釈をすると鉄はさらに奥の裏口から外にでて、総次は入ってきた建物の入り口を目指す。




 外ではすでに教団員と管理局員の戦闘がはじまっていた。


 総次は空に向かった手をかざし複数の光の玉を出現させて管理局員達に向かって放つ。


 光の玉が正確に管理局員達を撃ち抜くと、


「皆さん、この場所は放棄して各々脱出してください。我々には佐渡様の御加護があります」


 言ってて笑いそうになる。


 自分も含め、教祖を偉大だなどと思っている人間は此処には一人もいないだろう。


 


 紅音の報告を受け県北支部から来た増援が先にテラス会に到着して戦闘がはじまっていた。


 現場に到着した脇坂達がまず目撃したのは、日本刀を携えた神父が光弾で仲間達を掃討している姿だった。


 すでに日も暮れ始めた頃。


 ミニバンから勢い良く双羽が飛び出す。


『まて、大ゴリラ』


 先程の戦闘での感想をまだ引きずっているのか、とうとう娘でもなくなった双羽は「後で覚えておいて下さいよぉ」という言葉を胸に秘めてリーダーらしき神父に自慢の錫杖を振り下ろす。


 だが次の瞬間、アオマの言葉がただの悪ふざけではない事を思い知る。


 男は双羽を一瞥することも無く紙一重で錫杖を回避する。


 厳しい訓練を受けそれなりの実戦経験も積んでいる双羽はこれが致命的な状況である事を理解していた。


 最小限の動作で錫杖を避けた男は最短の動きで刀を抜かずその柄で双羽の腹部を突く。


 ただの突きではなく何らかの力が働いている突きで、下手をすれば腹部を貫通しかねない。


 咄嗟に纒を集中させて致命傷は避けたものの、もんどり打って倒れる双羽。


「双羽?!」


 叫んだ瞳が地面を蹴ると、3体の龍の形の呪力の塊が地面を伝い神父に襲いかかる。

 

 神父は鞘に収まったままの刀を龍たちに向けると内2体は見当違いの方向に走っていき、残る1体も抜刀することなく鞘で突き刺し消滅させた。


『あの男も刀もただ者ではないな。あの刀、おそらく因果獣を封じた呪因具だ。刀を抜かないのではなく抜けないんだな。多分だが抜くと最悪、封じたヤツが出てきてしまう』


 ミニバンから降りた脇坂が瞳とふっ飛ばされた双羽の前に立ち神父と対峙する。


『ついでにあの因果獣は龍脈に干渉する能力があるみたいだな。龍瞳とは相性が良くないな』


「龍脈法だけが龍瞳のわざじゃないわ」


 そう言って前に出ようとする瞳を脇坂が制止する。


「瞳ちゃんは双羽ちゃんを見てあげて。ここはオヂさんがやるから」


 戦闘態勢をとる脇坂と神父の間に多数の剣が降りそそぎ地面に突き刺さる。


「班長は下がって下さい。私がやります」


 車を止めてきた奏美が突き刺さっている剣と同じ形状の物を以って駆けつける。


 剣は細身の両刃で剣身は60cmほど。


 それが奏美の右手に持ったものと合わせて12本、戦場に現れた。


「いきます」


 そう言って手に持った剣を神父に向けると地面に刺さっていた剣が一斉に空中に浮き上がり、男に切っ先を向ける。


 神父は左手に刀を持ち、右手で多数の光の玉を生成する。


 光の玉と宙に浮く剣が同時に発射されるが、剣が神父一人を狙うのに対して光の玉は奏美以外の脇坂や双羽達を狙い、それに気づいた脇坂が迎撃態勢をとる。


「心配ご無用です」


 神父への攻撃に参加した剣は空中に待機していた11本中7本で残りの4本は脇坂達の四方に突き刺さり、防御結界を構築していた。


 光の玉は結界にはばまれ消失し、奏美を狙ったモノも手に持った剣で迎撃された。


 一方神父の方は、発射時こそ同時だった剣だが、彼への攻撃は一本ずつ、間髪を入れない連続攻撃が続いていた。


 神父の光の玉と違い、攻撃が終わっても消えず次の攻撃に入る実体剣だからこそできる攻撃方だ。


 奏美は神父を建物の方に誘導し、壁で逃げ道を塞いで仕留める気だ。


 最初の攻防で、剣と接触した光の玉は一方的に消滅させられたため、神父がこれに対抗する手段は避けるか刀で受け流すしかなく、とうとう建物の壁まて追い詰められる。


 が、男は壁に鞘を突き刺すと壁が矢じりのように突起物が大量に生成されて発射される。


 矢じりは奏美と先程同様、動けない双羽とそれを守る仲間達に向けられている。


 と、同時に双羽達がいる付近が隆起し、結界が崩れる。


 一瞬焦りの色をみせた奏美だったがすぐに持っていた剣を空中に放ると12本の剣は規則性のある配置につき、それが呪力で結ばれ法陣を形成する。


剣戦陣 雷咬牙けんせんじん らいこうが


 奏美がそう叫ぶと無数の雷撃が放たれ、矢じりを全て撃ち落とし、神父にも襲いかかる。


 呪力による障壁と刀でなんとかしのぐ神父だったが自身の攻撃と雷撃の流れ弾で舞い上がった土煙に紛れていつの間にか間近まで迫ってい奏美が武器庫から召喚した刀を抜刀する。


 神父も鞘に収めた刀で応戦するが、奏美は抜いた刀の柄頭で体の外側に受け流しながら一太刀入れる。



 


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