第21話
アオマが発見した呪因施設の存在は県北支部、そして県本部に伝わり、人員が送られてきて調査がはじまった。
『此処のような隠れ施設がおそらく本命。他も一応重要拠点なんだろうが陽動の役目もあったんだろうな』
様子を見守りながアオマが言う。
「しっかしこれじゃ面目が立たないなぁ」
ボリボリと頭をかきながら脇坂が言う。
今回同行した管理局員の中では彼だけが10年前の事件から何度も此処を訪れていた。
『さっきも言ったが隠れ里自体、五体家や管理局と縁の無い技術だ。見破れなくても仕方ねぇよ』
そう言いながら周囲を見回すアオマ。
うるさい大娘達が見あたらないのを確認し、脇坂に小声で話しかける。
『少しいいか?』
そう言って人気のない方を目配せする。
当初の予定通り、脇坂と二人きりになる事に成功したアオマ。
とはいえ班長である彼を長く拘束する事はできないだろう。
単刀直入に行きたいところだが順をおって話をする事にした。
『管理局ができる前、五大家と俺達三凶が対立していた時代があったわけなんだがそれより前、四つの勢力が競っていた時期があってな。その一つが今の五体家の祖とも言える「
「一応その辺は訓練校時代に軽く習っているぜ。軽くだがな」
『管理局はなんだかんだ言って五大家の影響がデカイからな。だが他の勢力はどうだ?』
脇坂はボリボリと頭をかきながら、
「さらに軽くだが名前ぐらいは。「
『その霊力の巫女の一族が使うのがあの隠れ里術だ。今もあの連中はどこかにあの空間を作ってひそんでいるはずだ』
驚く脇坂に対しさらに続けるアオマ。
『言ったろ。お前らとは全く異なるルーツの呪因だと。つまりはそういうことだ。あとなぁ、お前さんたち根回ししているあの女。あいつがその一族の長だ』
「まじか……」
『あぁ、大マジだ。あいつらはいつの時代も権力と一定の距離を取りつつも影響力を持つ一番したたかな集団だ』
苦笑しながら話を続ける。
『あと月影家と言ったが正確には
「一族じゃ無い?そいつ一代で終わりなのかい?」
『そうだな。ただし普通の呪因師じゃねぇ。って言うか人間でもねぇ。ヤツは肉体が滅んでもどこか別の場所で再生する。不死ってヤツだな。そんなモンだから子をつくる必要もないわけで、ヤツには性別ってものが無かった』
「たしかに人間じゃないみたいだな……」
『この月影と刃沙魔が時の権力者に仕えていたんだがある時期、この二大勢力が衝突してな。月影の一派が敗北して刃沙魔が圧倒的な権力を持つようになったんだ』
「その影響力が今日まで続いているって言うわけか」
『ああ。っとすまねぇ、これは枝葉だったな。本題は巫女の一族と神人についてだ』
二つの名前に関係性を見いだせない脇坂。
『神人には子供がいた。巫女の一族の娘との間にできた子供だ』
「あぁっ?!そんな話聞いたことないぞ!!」
『そりゃ敵対していた五体家や管理局に知られるわけにゃあいかないだろ。必死に隠蔽したさ』
「それで、何が聞きたいんだ?あの施設と今の情報に見合うだけのモノが俺にあるとは思えないんだが……」
『教団の神子の話だ。俺はその神子が神人の子供じゃねぇかとにらんでいる』
固まる脇坂。
いや、実際はこの短い時間におそろしい程の考えを巡らせていた。
『俺はその神子がどうなったのかを知りたい』
しばらくの間をおいて脇坂が口を開く。
「すまねぇアオさん。どうしても言えないんだ。それだけは……」
悲痛な表情の脇坂を見てやはり無理だったかと諦めるアオマ。
『時間を取らせてすまなかった』
そう言ってその場を立ち去ろうとする彼の背中に脇坂が呼びかける。
「もし……、もしもだ。その娘が何か困った事になっていて、そこにあんたが居合わせたら……。助けてやってくれないか?」
ふり向くアオマにさらに続ける。
「勝手な言い分だってのは分かっている。嫌ならうるせぇ、このバカ野郎って一蹴してくれ……」
『うるせぇ、このバカ野郎。もしそんな場面に出くわしたら言われなくても助けてやるよ』
照れ臭そうに返すアオマ。
アオマの言葉を聞いていくぶんか表情がやわらぐ脇坂。
「アオマさん、今娘って」
『ああ、たしかに神人の子供ってのは女の子だった』
そんな中、脇坂のスマホが鳴り響く。
仁井家の結界に異常が有った事とそこへ泉田兄弟が向かった事が通話相手の奏美から脇坂へ伝えられた。
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