第20話
仁井家の戦闘がはじまる数時間前。
蒼馬達は管理局のミニバンで教団天岩戸の本部だった場所に向かっていた。
ハンドルを握るのは
2列目のシートには蒼馬と紅音が、3列目には双羽、瞳、そして彼女らのあいだに資料室から付いてきた
本来、管理局員は二人一組で行動するのだが、縁はコンビを組む相手がいない単独行動が許された特権を持っているのだという。
先程から見ていても、お菓子やアイスを食べたり昼寝したりと見た目通りの自由な子供にしか見えない。
そんな縁はがシートのすき間から顔を出して蒼馬達に耳打ちした事。
瞳と双羽の父親、そしていま運転している奏美の兄がこれから向かう天岩戸の本部強制管理執行のときに命を落としているのだという。
元々本部の調査は根回しの一つとして話を通していたのだが、たまたま居合わせた瞳達が同行する予定はなかった。
本部に行くという話を聞いた瞳が自分達を同行させてほしいと脇坂にかけ合ったのだ。
10年前の事件の後、本部は封鎖され特別な許可をもらった局員しか入れず、おそらくこの3人は今回はじめてこの地を訪れる事になるということも縁は教えてくれた。
瞳の方は相変わらずだが、たしかに双羽は口数が減り、普段からは想像もできないくらい大人しくなっている。
そんな蒼馬をよそにアオマは別の考えを巡らせていた。
アオマが気になっていたのが当時、天岩戸のシンボル的存在であった「神子」の事だ。
あらゆる怪我や病を治癒する能力を持っていたとされる神子。
怪我を治す呪因も病を治す呪因もある。
しかし怪我と違って病はそれに対応した呪因しか効果が無く、治療する病の数だけ呪因を習得する必要がある。
複数の呪因師を用意して対応させたりあらかじめ治療を望む病を知ることで事前に準備するなど、方法はある。
しかし、天岩戸という名から連想する神人。
その彼が求めた人類を上位種に神化させるという行為。
その神化により得られる恩恵の一つがあらゆる病を跳ね除ける力だ。
もし神人がすでに神化した存在を生み出しており、それがこの神子だとしたら……。
資料では神子の存在については記されていたが、その存在がどうなったのかは書かれていなかった。
あの改造された子供達もそうだったが、その後の人生に配慮してなのか、それとも本当に行方がわからないのか。
そしてそれを知る可能性のある人物が今目の前にいる脇坂大樹だ。
誰でも閲覧できる資料に情報が無いのは、何かデリケートな理由の存在が考えられる。
何とか彼と二人きりになって神子の話を聴き出したいとアオマは考えていた。
当時、信者の一人に大地主がいてその人物が寄付した山の中に天岩戸本部はある。
蒼馬は山の中と聞いて舗装もされていない山道を想像していた。
しかし到着した本部入り口は引き戸式のカーゲートで仕切られており、アスファルトで舗装された道路が奥まで続いていた。
入り口の横にはプレハブの建物があり以前は管理局員が配備されていたと脇坂が教えてくれた。
「うちも人手不足でねぇ」
そう言って車を降りるとゲートについているダイヤル錠を解除して開けると車を入れさせる。
ゲートを閉めた脇坂を乗せて車は再び走り出す。
本部の敷地はゲート以外の部分を杭とロープという非常に簡素な方法で仕切られている。
入ろうと思えば誰でも入れそうなのだが、蒼馬でも分かるぐらいの侵入を阻む力がそこにはあり、一般人はもちろん、多少呪因をかじった程度の者でも侵入は難しいだろう。
『何重もの結界が張られているな。おそらく正規の手順でないとまともに入れないうえに、正規非正規関係なくここに入ったという情報は管理局に伝わる仕組みだろう』
人員が配備されていなくても管理下に置かれている事をアオマが説明する。
途中いくつも建物があり、道路自体も対向車が来ても余裕ですれ違えるくらいの幅がある。
これだけの施設を作るのにどれだけの資金が使われたのか。
もしかしたらあの子供達が売られたお金で……。
そんな、嫌な考えを巡らせていた蒼馬に、
「ついたぞ」
と、脇坂が声をかける。
見ればたしかにひときわ大きな建物が建っており、10台以上とめられる駐車スペースも隣接していた。
「アオマさん、代わりますね」
『あぁ、そうだな。そうしてもらえるとありがたい』
そう言って身体の主導権をアオマに譲った。
主導権を譲られたアオマはすぐに地面にうつ伏せになり、右耳を地面に付ける。
「なんですか!奇行は水口先輩だけで十分何ですから」
双羽の発言にお前にだけは言われたくないと返したいところだったが、そこは我慢して意識を集中させる。
「双羽、黙って。龍脈を感知しているんだわ」
さすが、龍瞳の娘は察しがいいな。
そう思いながらさらに深く集中をするアオマ。
そんな中、蒼馬の身体をアオマが使う事を落ち着きのない様子で見守っていたのが紅音だった。
『見つけた!』
そう言って突然起きあがり走り出すアオマと追いかける一同。
「どこに行くつもりですか?」
身体能力で圧倒する紅音がすぐに追いつき尋ねる。
『こっちだ』
と、曖昧な返事をするアオマを紅音はお姫様だっこする。
『おい!』
「マスターは体力無いんですから無理させないでください。で、どこへ向かえばいいんですか?」
言っても無駄だと速攻で諦めたアオマは紅音の頭部に触れ自分が読んだ龍脈の情報を渡す。
「なるほど、龍脈の急所的な所ですか」
そう言ってさらに速度を上げる。
『あの本部はそちらに目を向けるためのダミーだ。おそらくこの山はこの場所のために譲渡された……』
二人が到着した建物。
それは、ここまで見てきた建物の中では平均的な大きさだ。
「鍵がかかっていますね」
そう言いながらドアノブをガチャガチャといじる紅音。
そこへ息を切らせながら脇坂達が追いついてくる。
「施設の鍵は全部持ってきているが車の中だな。ちょっと待っててくれ……」
言い終わる前に紅音がドアを蹴破る。
『俺は何も言ってねぇぞ』
ズカズカと中に入っていく紅音。
「あなたが来ないとはじまりませんよ」
そう言って再び抱きかかえようとする紅音に、
『分かった、行くから。自分の足で行くから』
と、紅音のエスコートから逃れるアオマ。
「あなたの、ではなくてマスターの足です」
訂正する紅音。
「あちゃー……」
と言いながら頭をかく脇坂。
天岩戸の本部のある敷地内には大小30を超える建物があり、そのほとんどは教団員の寝泊まりする施設と呪因の訓練をする修練場が占めていた。
脇坂は当時、一通りの建物を見て回っておりこの施設も過去に入っていた。
アオマの後をついて行きながら当時の記憶がよみがえってくる。
宿泊施設にしては簡素で修練場にしては手狭な印象だった。
『おそらく、この建物の小さい部屋は牢で大きい部屋は実験室。もしくは改造室と言ったところかな』
アオマは近くに紅音と脇坂しかいないのを確認してそう言った。
改造室という言葉に一瞬固まる脇坂。
『あの子供たちはここであの姿にされた。おそらくなぁ』
何か言おうとする脇坂の後ろから、双羽達の声が近づいてくる。
アオマが改造室と呼んだ大きな部屋に全員入れると入ってきた扉を閉める。
『隠れ里って言うモンがあってな、これは結界とかで空間をさえぎるモノと違って五大家の系統ではあまり知られて
いきなりのアオマの発言に首を傾げる一同。
『輪ゴムを思い浮かべてくれ。輪っかの内側が俺達の存在している空間だ。そして輪ゴムをよじるとその空間が二つになる。この2つめの空間が隠れ里だ。結界による分断とは根本的に違う』
そう言って入ってきた扉に向かって手印をかまえる。
親指、人差し指、中指を伸ばし親指と人差し指をつけた手印をアオマはよく使う。
そこに居た全員が空気が変わったのを感じるとアオマが扉を開ける。
そこには来たときには無かった地下へ続く階段があった。
「これって……」
何かを察した双羽が口を開くと、
『ああ、あの高校の地下にあった呪因施設と同じものだ』
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