第18話
彼女の名前は
歳は23歳、階級は1等管理官で瞳や双羽、さらには
『なるほど、水口か……』
名前を聞いて納得するアオマ。
後から聞いた話だが水口家という呪因師の一族は、ある理由から幼い頃に成長を止める薬を投与され、身体が幼いまま生涯を終えるのだという。
薬に耐えられる者は少数で、早い段階で投与を打ち切られたものはその後は普通に成長することが許され、その中から次の当主が選ばれる事になる。
しかし中には手遅れで、命を落とすものも少なくない。
「あたたたた……。あ〜、アタシのおサボりスポット、ばれちゃった〜」
「姿が見えない時がよくありましたけど、こんな所にいたんですか……」
瞳が呆れた様子で言う。
『顔面から落ちてたな』
そう言うアオマ(蒼馬)を見て、
「何か変わった人が居るね」
縁はあぐらをかいた状態でそう言うと、
「たつみや〜、ちょいちょい」
と言いながら双羽を呼ぶ。
「なんですか?センパイ」
そう言って中腰になり顔を近づける双羽。
「もっとちょいちょい」
と言って手招きをする縁。
もっと顔を近づけろという意味なのだろうか?
双羽はハイハイと言いながら膝を曲げ腰を落とす。
次の瞬間、縁は素早く双羽の肩に乗り、双羽は縁を肩車する形になる。
「なっ、何ですかこれは〜?!センパイ、ちょっとセンパ〜イ!!こんな所で寝ちゃわないでくださ〜い」
縁は双羽に肩車させた後、すぐにウツラウツラして、イビキをかきはじめた。
「ホントに何なんですかー!!」
お静かに、と書かれた資料室に双羽の叫び声が響く。
蒼馬が現在拠点としている下沢市の北東に位置する市町村で10年前、教団天岩戸の本部があった地域だ。
比較的開発が進んでいる下沢市に比べて自然が多く、あまり開発が進んでいない。
その中心あたりに
仁井家はすでに断絶した一族だが、長く体制側に仕えてきた一族で、ある重要な役目を担ってきた。
ある時代、20人以上の呪因師とその100倍の一般人を捕食し手がつけられないとされた因果獣を封じ、その封印を代々守っていた。
その封印は現在県北支部の管轄となっていたのだが、張られていた結界に異常があったため、ある小班が調査に来ていた。
泉田小班長こと
たまたま別件で近くに居たのを結界異常で仁井家の跡地に急行する羽目になった小班である。
「建物の中も庭もそれ以外もメチャクチャにされてますね」
「おそらく封印が何なのか、どこにあるのか検討すらつけてなかったんだろうな」
山のふもとのような所にある仁井家の敷地内には、お屋敷、蔵、門下生の住む宿舎や修練場があり、その内外が荒らされ、破壊されている。
この泉田兄弟、祖母が仁井家の出で、因果獣とその封印についての情報を持っていた。
「封の事は口にするなよ。どこで聞いているか分からないからな」
「でも……」
「……喋るな。俺達がここに来たのが偶然だと思うか?おそらく罠だ。俺達に案内でもさせる気だろ」
「それだと敵は僕達の動きを……」
「……油断するなよ。たとえ彼女たちでも」
暗に内通者がいると言っている兄。
同じ班の他二人にも気を抜くなという事だ。
ふた手に別れていた他二人、
本来は光一と鱗、光二と里穂がペアを組んでおり、ふた手に別れるならこの組み合わせになるのが普通なのだが、封印についての話をするため少班長特権で弟と二人っきりになっていた。
水野鱗は管理士として高い実力を持ち、頭も切れる。
おそらく今の行動の真意も読まれているのだろう。その上であえて何も言わないのが彼女を頭が切れると評するゆえんだ。
「一度ここから離れて増援待つ。もし、短時間でこれだけ荒らしたとなると大人数の可能性がある」
そう言って屋敷の敷地の外にある駐車スペースに向かう。
だが、一同は敷地を出たはずなのにまた敷地に居た。
全員、すぐに敵の攻撃だと悟り戦闘態勢に入る。
「おいおい、封印無視して帰る気だぞ、あいつら」
「奴らに案内させる計画は失敗だな」
「ならばプランBだ」
「分かった」
隠れて泉田小班を監視していた男達が動き出す。
姿をあらわした敵の数は4名。
身長180cmほどでガタイのいい男。同じく180cmほどだがヤセ型の男。あとの二人は170cmほどで、一人は槍を持ち、もう一人は剣を身につけている。
鱗は呪符を取り出すと呪因を発動させ自分の日本刀を召喚する。
これは主に管理局員たちが使う呪因で、各支部、本部には武器庫と呼ばれる局員の装備品を保管するスペースがあり、対応した呪符を使う事によって装備を召喚できる。
双羽のように携帯できる装備を持つものもいるが、多くの管理局員達はこの呪因を利用する。
鱗は居合の構えから剣を抜くと、炎を纏った斬撃が敵の一団に向かって飛翔する。
斬撃に炎を乗せて飛ばす呪因で、龍瞳の分家、龍崎家で習得したモノだ。
炎の斬撃は敵に命中するが手応えの無さを鱗は感じていた。
「気をつけて、あれは本体じゃない!」
注意を促す鱗。
しかしすでに光一は幻術師の位置を特定しており、ひそんでいるであろう場所に無数の小型の水弾をばら撒く。
チっ、と舌打ちし幻術を解除して防御に徹して攻撃をしのぐ痩せた男。
姿を晒した残りの三人も行動をおこす。
痩せた男が使っていた幻影蜃気牢は視界だけでなく五感に働きかけ、特定のエリアから逃げられなくする。
普通の幻術より強力な分使用者の負担も多くのスキもできやすい。
こうやって対峙してしまうと使えない。
槍使いは鱗に襲いかかる。
再び居合の構えから抜刀すると炎が広範囲に燃え広がる。
紅蓮火魔居太刀。
龍崎家の真空火魔居太刀のバリエーションだ。
炎を突っ切り鱗のいた場所に槍を突き刺す男。
しかしそこに彼女の姿はなく、突っ切った炎の中から反撃を受ける。
咄嗟に刺さった槍の後ろに自身を動かす事で槍で受ける体制を作り、その斬撃をしのぐ。
素早く槍を引き抜くと距離を取り仕切りなおした。
光二と里穂は剣を持つ男とガタイのいい男のコンビと対峙していた。
里穂が右手に持った呪符に呪力をこめると光の刃が伸びる。
左手の指にも呪符がはさまれており、呪符を使って戦うことが想像できる。
光二は集中し呪因を発動させると周囲に霧が立ち込めてくる。
ガタイのいい男は腰のあたりで地面に向けて手をかざすと獣の形をした炎が出現する。
ちょうど地面に向けてかざした手のひらが獣の頭を撫でるような形になる。
剣を持った男は特に動きを見せず、ニヤニヤと成り行きを見守っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます