第17話

 動画の内容に驚いていると音声が流れはじめる。


 


 この子供たちは教団員の身内やさらわれてきた子供、対価として買われてきた子供達です。


 このように身体を改造され、悪趣味な金持ち達に売られようとしていた。いえ、すでに多くの子供が売られていったようです。そしてそれで得られた資金で多くの呪因師が雇われ強制管理執行の障害となりました。


 総本部から来た管理官達によって解呪がこころみられましたが、存在のかなりの深いところまでイジられていて、完全に元に戻すのは非常に難しいとの事です。




 一通り改造された子供達の資料に目を通した蒼馬達。


 この資料にはあの子供達がその後どうなったのかは記されていなかった。


 子供達のプライバシーとかだろうか。


 せめて元の姿に戻れたのか?


 その事が気がかりな蒼馬だった。




 陰鬱な空気の中アオマが口を開く。


『俺達が三凶と呼ばれるずっと前に、海を渡ってこの国に来た呪因師がいてな。そいつは祖国を追われ、この地に自分の国を作る事を目的としていた』


 突然はじまったアオマの昔話にキョトンとする蒼馬。


 いいから聞けと言って続けるアオマ。


『そいつは人体改造の呪因に長けていてな、俺の知る限りこの分野のナンバーワン、神人がナンバーツーだな』  


「外来の呪因師。禍陰カインですね」


『ああ。禍陰は自分の支配地に住む人間を今で言うところの妖怪みたいに改造しちまったんだ。こうする事で他所に逃げても化け物として迫害される。領民達をにげられねえようにしていたんだ』


 アオマの昔話しがモニターに映し出された子供達とかぶった。


 こうなった経緯も目的も違うが、普通に生きるという、あたりまえの人生を奪われた。


 アオマの話とこの子供達、そして自分の目の前で灰になっていった故郷の住人達が蒼馬の中で重なった。


『神人の奴はそれを必死で解呪しようとしてたんだが……』


 それが禍陰が一番で神人が二番という事なのだろう。


 そしてそういう事もあって、妖怪、人外と呼ばれる者達は神人や彼の一派に好意的なのだとアオマは補足する。


『そしてこんな事ができる奴と聞かれてまず思いつくのが神人とその一派だ。他にも身体改造呪因のスペシャリストってのがいるのかも知れねぇが、管理局のトップクラスが匙を投げるレベルってなるとこれぐらいしかいねえ』


「その禍陰って人は?一派とか呪因技術を受け継ぐ人はいなかったの?」


『うーん、少なくとも俺の見た限りじゃぁアイツに仲間的な存在は居なかったな。アイツの配下はみんな改造された、元は普通の人間ばかりだからなぁ。だがもし、禍陰に弟子がいたとして、それが禍陰に近い実力者だとしたら何らかの形で情報が出まわると思うし、何より禍陰について調べまわっていた神人が何かを掴んでいたと思うんだよなぁ』


「しかし貴方と神人さん、最後の方では不仲だった様ですが、彼が全ての情報を開示していたわけではないのでは?」


『あぁ……、そうだな。俺もアイツの全てを知っているわけじゃない、何らかの形で禍陰の技術が残っていても不思議じゃねぇな』


 どこか悲しげに紅音の説を肯定するアオマ。


 その時、急に蒼馬の視界が歪む。


「あっ……、れ?!」


『なんだぁ?!』


 あわてる蒼馬とアオマ。


「失礼します」


 紅音は冷静にそう言うと、蒼馬の両耳のあたりに両手を伸ばす。


 耳から何かが取り除かれると視界がもとに戻る。


「紅音さん……?」


 自分の身に何が起きていたのか尋ねようと紅音に目をやると、彼女の手にはどこか見覚えのある眼鏡があった。


 アオマはすぐにその眼鏡の正体に気づいたらしく、


『げぇっ?!』


 と声を上げた。


「フッフッフッ、ここは私達のテリトリーですよ。チョット油断しすぎじゃありませんか?」


 声の方を見てみると、何やらカンフーのようなポーズをとって本棚にドヤる龍宮 双羽タツミヤ フタバの姿があった。


「それ本棚だから……」


 と、呆れた様子のツッコミを入れる声の主。


 一瞬誰だかわからなかったが、そこにはいつものは瓶底眼鏡を外し、三つ編みおさげをほどいた龍瞳 瞳リュウドウ ヒトミの姿があった。


「あなた達が来ているって聞いて、このすっ飛んで来たのよ」


 両腕を組んで少しのけぞりドヤる双羽。


「いや、誉めてないからね」


「でも、気配無く近づいてマスターに眼鏡をかける動作、とても素早くスムーズでしたね」


 紅音の言葉を聞いてさらにのけぞる双羽。


「いや、だから何で得意気なのよ」


 そう言ってさらに呆れる瞳。


 先日の戦いで、何度か眼鏡がズレてその凛々しい瞳の素顔を垣間見ていた蒼馬だが、あらためて彼女から凛としたイメージを感じていた。


「ちょっと……、なにみてんの……」


 蒼馬の視線に気づいた瞳が顔を赤らめ視線から逃れるように顔をそむける。


「ごっ、ごめん」


 つい、彼女を凝視していた事に気づき、謝る蒼馬。


「あ〜、気になっちゃいます〜?気になっちゃいますよね〜」


 そう言って双羽は瞳の背後にまわるとその両肩を掴み、蒼馬の方を向かせる。


「瞳ちゃんて同じぐらいの歳の男の子、苦手なんですよ〜」


「双羽……、おぼえてなさいよ……」


 そんな双羽の背後に静かに忍び寄る紅音。


 先程の双羽の動きを参考に素早く彼女の眼鏡を外す。


「はれ?!」


 気の抜けた声を出す双羽。


「先程のお返しです。後、お友達が嫌がることをしてはいけませんよ」


「かえしてください、お姉さまー」


 そう言って紅音の声のする方に向かっていく双羽だったが紅音の横をすり抜け、本棚に激突する。


 勢い良くぶつかったため一瞬本棚が倒れかけ、上から何かが落っこちた。


 棚におさまりきらない資料を棚の上にでも置いていたのが落ちたのだろうか。


 棚の裏に落ちた落下物を確認すると、それはタンクトップに短パン、ボサボサの髪を腰より下まで伸ばした少女だった。


 少女の身長は120cmほど。


 小学校低学年ぐらいか?


 その少女に向かって、


「水口1等?!」

「水口先輩?!」


 瞳と双羽が同時に名前を呼ぶ。

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