第16話

『御堂が接触したというのがこいつらだな』


 新たに開いたページには「テラス会」という集団とそのリーダーとされる人物、笹上 総次ササガミ ソウジ


「たぶん、この方ですね」


 そう言ってパソコンを操作し、別の資料を開くとそこには教祖の佐渡修吾と一緒に写る笹上総次の姿があった。


 資料は当時、潜入した局員が撮った物だ。


『名前も顔も変えてねぇな。10年前の管理執行のとき、コイツは確認されてないんだよな』


「はい。そして数年前ひょっこりこの町に帰ってきてテラス会を開いたそうです。この人、黒幕候補ですよね」


『まぁ、そうだな……。あくまでもその可能性があるという事だが……』




『ここで一旦、話しを整理しよう。俺達の目的はあくまでも御堂だ。御堂を倒して箱から対価として囚われている連中を解放することだ』


 解放とはすでに亡くなった者たちを輪廻の輪に戻すということ。


 決してそれで誰かが救われるわけではなかった。


『それで御堂の目的だが、おそらく対価の収集』


 今、蒼馬達が拠点にしている下沢市の北に位置する大里おおさと市、その大里市のさらに北側に野谷のや市、大里市の東側に園令えんれい市、西側に和可部わかべ市となっている。


『この辺りじゃ大里市が一番人口が多い。ここを中心に周辺の4市、さらにその外側の市町村も巻き込んで対価を集める気だろう。そしてそれを効率よく行なうために龍脈、さらには神人の残した呪因の施設を利用するっていうのが俺の予想だ』


 実は御堂の行動を予測するうえで、アオマと紅音だけが知る情報があった。


 


 蒼馬に呪力を操る稽古けいこをつけていた頃、彼が疲れきって深い眠りについたのを確認し、アオマはその場に居合わせた凍牙を問いつめる。


『お前、御堂について……。いや、この事件についてなにか隠し事してんじゃねぇか?』


 御堂を蒼馬の中から見ていたときに感じた違和感。


 肉体と魂の波長のようなモノが合っていない。


 この状態からまず思いつくのが御堂は何者かに乗っ取られている可能性だ。


「すいません。隠すつもりはなかったんですよ。ただ、言い出すタイミングが難しくて……」


『蒼の字の事だろ。だから今、問い詰めてんだ』


 アオマと凍牙のやり取りを見守る紅音。


「わかりました。まずお二人は私が今、どういう状況か理解してますよね?」


『死んでそのコートに仕込まれた呪因でこの世に縛られているんだろ』


「そうです。そして私を殺してパンドラの箱を奪い取ったのが才外 直人サイガ ナオトという私の兄弟子で今、御堂要の中にいる呪因師です」


 パンドラの箱だけではなく、多くの凍牙の作品が持ち出されその収拾をつけさせるためにシスターことミサキが凍牙の魂を縛り、最悪でもパンドラの箱だけは何とかするように命じた。


「ですが今の私はこんな不完全な状態。加えて元から戦いとかは得意ではありませんでした」


『それで御堂を使ったのか』


「はい、箱を奪った才外が最初に大きく動いたのが御堂要の育った町である炎堂えんどう市でした。彼はここで約8000人の命を奪い、その対価を得ました。そしてその儀式を生きのびたのが御堂要でした。高い対価量と戦闘センスを持つ彼は、私にとって願ったりの存在でした」


『だが思惑通りにはいかなかった』


「……私は才外直人がどのような呪因師かどんな呪因を研究しているのか、まったく知りませんでした……。いえ、知ろうとしなかったのです。彼にかぎらず他の兄弟弟子達がどのような呪因師だったのか、まったく興味ありませんでした」


『自分の研究しか見えてなかったんだな』


 アオマの言葉に黙ってうなずく凍牙。


「才外は誰よりも自分の死を恐れていました。そんな彼の目的は自身の不老不死化とより高位の存在への神化。おそらくそれをあの箱に願うのでしょう」


『神化……ねぇ』


「私が誤算だったのは彼が造った呪因で、それは自身の命を奪った者にとり憑くというものでした」


『だから蒼の字か。魔傀儡を勧めたのは乗っ取りを見越してか』


 もし蒼馬が操る紅音が御堂を倒したとするとどうなるのか?


 まず、倒した紅音に取り憑くかどうかだが、御堂の乗っ取りを目のあたりにした凍牙はそれは無いと言い切った。


「あの呪因はあくまで人間用です。紅音には取り憑けません」


『なら次は紅音の所有者である蒼の字だな』


「まず、あなたという先客いますので難しいかと」


『仮に乗っ取られても御堂よりはどうにかなりそうだしな』


「あの、ちょっと待ってください。つまり御堂自身は操られているだけの被害者っていう事なんですか?!」


「そうです。だからこそ蒼馬君にはオフレコでお願いします」


 たしかにこの真実を知れば御堂と対峙したとき蒼馬に迷いが生まれるだろう。


 そしてそれは実戦では命とりになりかねない。


「わかりました。この件は我々だけの秘密ということで」


 紅音の言葉でこの密会は幕をおろした。




 御堂の中にひそむ才外直人。


 彼の目的は不老不死とより高位の存在になること。つまりは神化。


「ねぇ、この教団の資金源て……。なんか閲覧注意みたいなマークがあるんだけど……」


 アオマの考えをよそに蒼馬が別の話題をふる。


「これですね」


 と言いフォルダを開く紅音。


 そこにはアルファベットと数字だけで名前がつけられたファイルが並んでいた。


「動画と画像ファイルみたいですね。開けてみますか?なんか注意ってかかれてましたけど……」


「うん……、開けてみて。なんか気になるんだ」


 わかりました、と言い一番上の動画を開く紅音。


 イマイチ興味が持てないアオマだったがモニターに動画が映し出されると一気にそれに引き込まれる。


『なんだ……、これは?!』


 モニターに映し出されたのはこの世の者とは思えない、翼や尻尾、獣の耳や角などを生やした子供たちだった。

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