第15話

 呪因管理局県北支部、その資料室。


 資料室はパソコンのおかれた部屋と紙の資料が収められた部屋からなりたっており、蒼馬達はまず、パソコンで当時の出来事を調べることにした。


「天岩戸に改名したのは強制管理執行の1年ぐらい前ですね。改名前の名前は……」


 PCを操作する紅音。それを横から覗く蒼馬とアオマ。


佐渡 修吾サワタリ シュウゴをたたえる会……」


『俺も色んな組織をみてきたが、自分の名前を組織名に入れる奴は大抵ろくでもねぇな』


 この教団の旧名は紅音のデータにもあったのだが、この資料には紐づけされたファイルがいくつかありその中には当時の教団の問題を扱った週刊誌の切り抜きやワイドショーの映像などがあった。


 無茶な勧誘やお布施の要求、出家の強要などで社会問題になっていた。


『この男は治癒系と催眠暗示系の呪因を使うようだな。たしかに教祖さまをやって小銭を稼ぐには適した呪因だが……』


「それを取りしまるための呪因管理局ですからねぇ……」


 なるほど、と紅音の補足に納得する蒼馬。


 確かに管理局のような呪因を取りしまる機関がなければ、呪因師は一般人にやりたい放題だ。


 しかしそう考えると気になる点が出てくる。


 資料によると教団の設立は今から20年ほど前。


 強制管理執行の10年前なのだが、設立から5年で急激に大きくなり、週刊誌やワイドショーをにぎわす事になる。


『つまり管理局は5年間もこの教団を放置していたわけだ。まぁ、それもわからなくもえがな』


「小物すぎますものねぇ。この教祖さま」


 紅音の言葉を、ああっと肯定するアオマ。


 ミサキから提供された情報からたいした呪因師ではないことがわかっていた。


 その情報を踏まえたうえでアオマは語る。


『小物は小物なりの立ち回を心得ているもんだ。管理局や裏の組織なんかに目をつけられるようなリスクは絶対におかさない。こいつみたいな奴は金持ちだけを相手に小規模なコミュニティを作りそこから小銭をちょうだいするのが理想形だ』


 そのリスクを考えられない馬鹿でないとすれば……。


「まずは黒幕の存在説ですね。彼はあくまでおかざりということです」


『そしてもう一つ思いつくのが、どこかのタイミングで別人と入れ代わったか。自分の立場を売ったか無理やり奪われたかしてな』


「何にせよ裏があると思ったから調査に時間をついやしたのでしょうね」


『まぁ、一番の理由は教団がデカくなり過ぎた事だろうな。それだけ強制管理執行は一般人を巻き込む危険性がある』


「でも10年前、多くの一般人を巻きこんで強制管理執行は行われたんですよね」


『そこだな。当時の県本部は強制管理執行を命じていたが、県北支部側は更なる調査とこの件の格上げを要望していた』


 管理局が扱う事件や敵性呪因師はランク付けされており、この事件はランクB、支部レベルで対応となっていたのだがこの支部の担当はA以上にランクを上げるように言ってたという事だ。


 ちなみにランクAは県本部、または複数の支部が連携して対処するレベルとなる。


 Aの上にシングルSからトリプルSというのがあるが、これは総本部が主導で対応する非常に重大な事件という事になる。


 当時、県北支部の担当は総本部が出張でばる必要があるかもしれないと考えていたわけだ。


 しかしその願いはとどかず強制管理執行は予定通りおこなわれ、管理局と教団、双方多大な犠牲者を出す事になった。


 当時の県北支部の実務スタッフは257名、強制管理執行参加者は205名、殉職者154名と作戦参加者の約四分の一を失う結果となった。


 当然、県北支部と県本部の幹部達は責任を追求され重い処分を受けることになった。


「でも酷いですね、この県本部長。自分は何も聞いてない、知らされてないって」


 当時の資料に目を通しながら紅音が言うと、


『いや、本当に知らなかったのかもしれねぇぞ。担当班の班長の上申書をよく読めば調査期間の延長や危険度の再考が必要なのは伝わるはずだ。よほどの無能とかでなければな』


「それじゃあ、上申書がどこかで握りつぶされたと?」


『まぁ、それが妥当な筋だと思うんだが……』


 一瞬、静かになるアオマ。


『上申書を握りつぶして得する奴っていうのがここまでの登場人物にいないんだ』


「それってどういう……」


 蒼馬の言葉にアオマが応える。


『仮に、握りつぶした奴が教団側だったとしてだ、そうすることによって強制管理執行は決定的なモノになる。逆に上申書が通れば逃げ出す時間をかせげる訳だ。まぁ、あんまり利口なやり方じゃねぇが呪因師を雇って戦力を増強することもできる』


「でも、中途半端な戦力で攻めさせて返り討ちにするとかできない?」


『それだとその場はしのげるかもしれねぇが、結局その戦闘で得た情報を元にして十分な戦力を投入してくるだろうからな。逃げた方がマシなはずだ』


『それに危険度とそれに相当する戦力っていうのは管理局側を多めに設定していてな、多大な犠牲を出すが支部で危険度Sと戦うことも不可能じゃない。ただそれをやると、その事件は解決できても次が続かない。だから多勢でかかって消耗を減らすようになっているんだ』


 と、蒼馬の意見を否定したアオマだったが、


『けど蒼の字の考えも案外、まとをえているかもしれねぇ。こうなるように仕組んだのが教団側じゃなくて第三勢力だった場合だがな』


「やはりそういう仮説になりますか」


 と、紅音。


「でもいったい何者が?管理局の戦力を削ぐため?

それとも教団が邪魔な裏組織?」


『仮説に仮説を重ねることになるんだが、多大な犠牲者を出すことによって多くの対価を得る。それがこの第三勢力の目的なんじゃねえかと思っている』


 事実、この件では管理局員以上に教団側が犠牲者を出している。


 教団員達に、呪因具や呪因を与え戦力として投入してきたため、管理局員も敵性呪因師として対処せざるを得なかった。


『実際、呪因による対価の抽出より、血を流す方が価値が高いって奴らがいる』


 と、ひととおり話し終えたアオマだったが、


『しかしここまで御堂に関係するようなモノが見あたら無えんだよな……』


 と言ってしめる。

 

 たしかにここに来た理由は御堂と接触したという、教団の残党について調べるためだった。


 が、当時の事件のインパクトに飲まれてしまい、ついついそちらを深ぼりしてしまった。

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