第11話
時を遡ること10数分前。
紅音は手に持ったブレザーの袖の片方をつかみ、鞭のようにふるう。
もう一方の袖が狙うのはスマホを持つ左手。
だかそれを勇司の右手がつかむ。
どうやら彼を操る呪因師は巡りや纏いと異なる方法。
おそらく強化系の呪因で身体能力を向上させているようだ。
「フッ」
と息をもらすと紅音はブレザーを持つ腕で円をえがく。
円はブレザーを伝わり庇っていた左手ごと巻き付き、両腕を縛られるかたちになる。
「こういうプレイがお好みなのかな?」
「品のない冗談はセクハラと同じですよ」
呪因師の問いを冷たくあしらうとグイッとブレザーを引っ張り両手を自分に向けさせるとスマホを蹴り上げる。
吹っ飛ぶスマホ。
紅音はそれに右手の人差し指で照準を合わせる。
その指の爪がナイフのように伸び、スマホめがけて発射される。
爪はスマホに命中すると、枝のように四方八方に刃を伸ばしスマホを四散させる。
これで当初の目的は達成できた。
が、
勇司の方に目をやると、彼の両手を縛っていたブレザーが燃えている。
今、彼を操っているのはモドキでは無い本物の呪因師。
スマホが無くても呪因が使える。
だが、スマホは勇司を遠隔で操るためのモノで必ず身につけているはずだ。
おそらく無線式のイヤホンを使い脳に干渉しているのだろう。
イヤホンを外すというのも手だ。
そんな可能性と対策を考えた末、紅音がとった行動は実にシンプルだった。
ブレザーを燃やし拘束を解いて距離をおこうとする勇司に対し、紅音は
わぁっ!
と大声を浴びせる。
魔傀儡である紅音がだす大声は普通の大声ではない。
音量も桁違いだが呪が上乗せされており、聞く者にダメージをあたえ、狙った部位に浸透する。
そしてさらに1つの呪因が組み込まれていた。
バタリと倒れる勇司。
駆け寄り両耳からイヤホンを外し握りつぶす紅音。
勇司の身体検査をし、呪因が起動中のスマホを見つける。
これも握りつぶしてひと安心の紅音。
「まだだよ」
暗闇の中から聞こえる声。
声のする方から何かがとんでくる。
カバンだ。
今朝、見た記憶のある勇司のカバンだ。
暗闇の奥から何者かが近づいてくる。
それは1人の少年。
蒼馬と同じくらいの年齢か。
背格好も同じくらいだ。
彼は右手に持っていたスマホを紅音に見せながらこう言う。
「そのイヤホン、右と左が別々の端末とつながってたみたいだね」
そう言うと右手に持っているスマホは何かの力で潰される。
「あなたは?」
という紅音の質問に少年は答える。
「管理局員。敵じゃないよ。一応ね」
彼はそう名乗った。
体育倉庫にて
双羽に抑え込まれる蒼馬の姿があった。
「さぁ、とっとと蒼馬さんの中からでていってくださいねぇ」
そう言うと双羽は蒼馬の右耳をつまんでその耳の穴に向かって勢いよく息を吹きかける。
『やめんか!この大娘‼』
「ちょっと双羽、何なのそれ?!」
抵抗するアオマと手は出さない瞳。
「これはですねぇ、こうして右耳に息を吹きかけると左の耳からブラック蒼馬さんが出でくるという寸法なんです」
『んなわけあるか‼』
事の発端はアオマが歩や夕美子の事を小娘と呼ぶのに対して瞳と双羽を中娘と呼んだことだった。
アオマにとって小娘とは呪因界隈に染まってない者の事で、中、大と小から遠のくごとに呪因界隈に染まったウブで無い娘と言うことらしい。
小娘と言うほど
「あんた、そのへんでやめときなさいよ。あの魔傀儡がこんな光景見たら大変なことになるわよ」
瞳がようやくブレーキをかけるが……。
入り口とは異なる方向の壁が吹き飛び、紅音が現れる。
「あらぁ〜、お姉さま。本日2回目の壁からのご登場ですねぇ」
「あなたにお姉さまと呼ばれる筋合いはありません」
『嫁と
「無ければ今すぐこさえますわぁ」
「何をどうやってこさえるおつもりですか……」
アチャ〜という顔をする瞳。
双羽の事を良く知る瞳にとって、暴走状態の彼女が簡単に止まらないことは身にしみていた。
そのためある程度溜飲を下げ手から制止するつもりだった。
「どういう事態、これ?」
遅れて入ってきた真壁英司の姿を見た瞳は、
「双羽スイッチが入っちゃいました」
と答える。
やれやれといった感じで呪因を発動させる英司。
すると蒼馬と双羽の間に壁が出現して2人を引き剥がす。
英司は間髪入れずにさらに壁を造りだし、彼女を壁で完全に囲む。
「センパァ〜イ、出してくださ〜い」
壁を叩いて
彼の使う壁の呪因は大きさや形を自在に変えられるが壁の総密度は変わらず、大きくすれば
射程はだいたい10mぐらいで突発的に壁を出現させる。
ガンガンと英司の造った壁を叩く双羽の姿をみて、
「ダメだよ」
と英司が言うと、彼女を封印している箱が小さくなっていく。
「センパーイ、酷いですぅぅぅ」
「龍宮、そのくらいの壁だと破って出てくるでしょ。大人しくしといてね」
壁を組み合わせた箱を、双羽がギリギリ入れるサイズにまで縮小して映司が言いきかす。
「じゃあ本題に入ろうか」
英司がこの地下施設について説明する。
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