第9話
あの魔傀儡が向かった方が『因』、こちらが『呪』を担当しているようだな。
拘束されている小娘、尋常でない対価量の持ち主だぞ。
アレを用いた抽出呪因、効果範囲はこの学校だけではすまんな。
最悪この町の外まで被害がでかねん。
蒼馬の脳内の声が状況を説明する中、戦闘がはじまる。
トン、と軽く足で地面叩く瞳。
すると
周囲の地面が壁上に盛りあがり水晶の騎士達の攻撃を阻む。
「たあっ!」
と叫びながら飛翔した双羽がそのうちの1体を呪の込められた錫杖で壁ごと両断する。
「こっち!」
と叫びながら蒼馬の腕をつかみ双羽が倒した水晶の騎士を飛びこえて包囲網を脱出する瞳。
流石の手際に感心したのは蒼馬だけではなかった。
「アレを一撃で倒すなんて凄いのね」
そう言いながら取り出したスマートフォンのカメラで3人を撮りはじめる歩。
「このアプリはねぇ、一般人の対価の量を100として撮した人物の対価量を計るモノなの」
そう言ってスマ保の画面に目をやると瞳と双羽は緑の文字で、蒼馬は赤い文字でそれぞれERRORと表示されていた。
「凄いわねぇ、2人とも。管理局員でも1000あれば多い方だって聞いたけど、コレ4桁を超えると測定できないのよ」
それはつまり、瞳と双羽の対価量は10000以上あり、一般人の100倍以上の対価を持っている事になる。
「それにひきかえ……」
思わず笑いがこみ上げてくる歩。
「コレ、50未満でもエラーがでるのよ。あなたこんな対価量で御堂くんと戦うつもり?全然つり合わないわよ?」
確かにもとから対価の少なかった蒼馬だったが、紅音との契約で魂を一部失い、さらにその価値は下がっていた。
だからこそ本来、蒼馬と紅音は2人1組で行動することが推奨されてき。
「黙りなさい」
静に、力強く歩の言葉を制止する瞳。
「そんな玩具で人の価値を計って、自分が何か特別な存在にでもなったおつもりですか〜?」
攻撃的な口調で返す双羽。その言葉には憤りが感じられた。
「龍瞳さんも龍宮さんもありがとう。でも大丈夫、覚悟ならとっくにできているから」
そう言うと蒼馬の全身を呪が覆う。
「呪が練れるからって、そのぐらいの事でいったい何が……?!」
余裕を見せていた歩の表情が一気にこわばる。
因を使わない呪の代表的な用途が身体能力の強化。
これには大きく2種類あり、1つは全身を覆う
もう1つが血流に呪を乗せて内側から強化する
呪を練れる者ならば纏いの習得は数カ月だが、巡りの習得は数年かかると言われている。
身体を覆う纏は鎧を着込むようなもので、防御力にかたよって強化されるが、血流から強化する巡りは、全身体能力を強化する。
蒼馬はこの2つを同時に使い、残った水晶の騎士を全滅させた。
瞳と双羽もどちらか片方だけなら使えるが、同時使用は不可能である。
あわててスマホを操作する歩。
強化状態の蒼馬には彼女の対価がスマホに吸い上げられ呪に変換されるのがわかる。
「東條さん、もうやめて。このままじゃ取り返しのつかない事になる!」
歩のこと、夕美子のこと、この町のことをふくめての「取り返しのつかない事」だ。
「うるさい!」
歩の叫び声と同時に新たな水晶が5つ生える。
さらに歩は左手にスマホを持ち、右手のひらを夕美子を拘束している水晶にあてる。
「ぁあああぁぁっ?!」
突然夕美子が悲鳴をあげ、彼女を拘束する水晶が虹色に輝きだす。
夕美子から対価を抽出した歩から呪が新たに現れた水晶に流れ込むのがわかる。
歩から呪をそそがれた水晶は赤く染まり、水晶の騎士に姿を変える。
先ほどのモノより一回り以上の大きさの赤い騎士達。
「てぇい!」
と、かけ声とともに双羽は赤い騎士の1体に攻撃をしかける。
しかし今度の騎士は左腕を盾に変化させ、それで双羽の錫杖を防ぐ。
「まずいわね……」
瞳の言葉には新たな騎士達の強さだけではなく、それだけの対価を支払った夕美子の心配もふくんでいた。
「くらいなさい!」
そんな状況で、歩はさらに呪因を発動させ、サッカーボールほどの大きさの炎の弾を複数発射する。
騎士達に意識を割きながら炎弾を回避する蒼馬。
瞳は左手の人差し指と中指を伸ばして合わせ、印のようなものをつくり、ビー玉ほどの大きさの光弾で炎弾を迎撃する。
「雑な呪因ね」
「うるさい!」
叫んだ歩は疲労のためか片ひざをつく。
「東條さん?!」
歩に駆け寄ろうとする蒼馬。
「バカッ?!」
「ダメです‼」
瞳と双羽が同時に叫ぶ。
「もうやめて!」
駆け寄った蒼馬は歩の両肩をつかむ。
そのとき、彼女が泣いていることに気づいた。
「あの人の……あの人の役にたたなきゃ……」
そう言いながら呪を放出する歩。
5体の騎士の内の1体がその呪を受け、黒く 変色する。
黒い騎士は高速で蒼馬に襲いかかり、蒼馬をふっ飛ばす。
纏い越しにダメージを受ける蒼馬。
「あんたにはわからないでしょうね。あの人は私を救ってくれたの」
「中学でイジメられていた私を助けてくれたのは御堂くんだけだった」
その話を聞いた蒼馬はある違和感を感じた。
仲良くしてくれていた勇司から夕美子の話を聞くことがあったが、その中には歩に関するものもあった。
就学前から知り合いだった勇司と夕美子。
2人が小学校に入ってから知り合ったのが夕美子だった。
3人は小学校からの知り合いで中学、高校まで一緒だったというのが勇司の話から感じとれた。
一方、御堂は蒼馬の知る情報では、中学までは他県の学校に通っていたという。
このことから……。
「東條さん、君は記憶をイジられているよ……」
歩の表情が変わる。
「……ざ……けるな……」
今までの必死な表情とは違う、憎悪に満ちた表情で敵意、殺意とも呼べる感情を爆発させる。
「ふざけるな‼」
歩の周囲に先程の物より大きな炎弾が数十個発生しする。
「まずい!」
そう言いながら先程のように迎撃態勢を取ろうとする瞳だったが、2体の赤い騎士が襲いかかる。
「本当にまずいですね……」
そう言いながら騎士達と瞳の間に割り込む双羽。
右手の人差し指と中指を伸ばして合わせて印を組、錫杖を持った左手を騎士達に向ける。
「てぇい!」
と、かけ声を発すると錫杖から衝撃波が発生し、2体の騎士をふっ飛ばす。
「御堂くんの邪魔をしたうえに、私と御堂くんの絆まで……」
歩が作りだした炎弾。
それが全て蒼馬に向かって放たれる。
「深崎くん!」
絶叫する瞳。
何も言わない双羽の表情も険しい。
「許さない!死ね!死ねっ!死ねぇっ‼」
次々と炎弾を生み出し発射する歩。
「やめなさい!自分が何してるかわかっているの‼」
瞳が怒鳴りながら地面を力いっぱい踏みつけると赤い騎士達の足下が裂け、そこにハマったモノ達を咀嚼するようにして噛み砕く。
最初に異変に気づいたのは双羽だった。
攻撃を受けている蒼馬の気配に変化がない。
が、蒼馬の気配に重なるように別の気配が現れている。
ここから推測できることは、蒼馬が無事であるということ。
そして彼に何か異変が起きているという事だ。
感情のままにクラスメイトを焼き殺そうとした東條歩。
100発近い炎弾を放ったことで彼女自身もかなりの消耗をしていた。
攻撃を止め勝ち誇ったように蒼馬のいた場所を睨みつける。
が、彼女は双羽とは別の違和感に気づく。
あれだけの炎弾を撃ったにもかかわらず何も燃えていない。
呪因の炎を使った炎弾。
それは、たとえ対象が石やコンクリートでも燃やす。
その炎が全く残っていない。
そして何より蒼馬が先程の場所から動かず、無傷でそこに立っていた。
『もうおわりか?小娘』
不敵な笑みをうかべながら蒼馬が挑発する。
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