第8話
校庭の真下に広がる空間。
それは洞窟のような自然にできた物ではなく、人の手によって造られた建造物の内側のような大広間だった。
魔傀儡である紅音の中には多くの呪因、呪因具の情報の他に呪因界隈の出来事や歴史、人物などのデータが入っていた。
そのデータの中にこの近辺の情報があり、それを参照し、
「なるほど……」
と1人納得する。
「何がなるほど何だ?お人形さん」
大広間の奥から声がする。
「あなたが黒幕ですね……?!」
声の主に視線をやる紅音が一瞬戸惑う。
普通の人間ならばこの暗闇の中で、この距離で相手の顔を確認するのは不可能なのだが、魔傀儡である紅音にはそれが誰かわかった。
そこにいたのは蒼馬と仲良くしていた
だが、彼から発される声は彼のものでは無く、感じとれる気配も別人のモノだった。
左手にはスマートフォン、両耳に無線式のイヤホンを付けている。
彼は操られている。
おそらく通話か通信を使って何者かが遠隔操作しているのだろう。
3年A組での戦闘時、香山と他に4人のクラスメイトが紅音に襲いかかった。
そこで、
「
という紅音の感想に、
「協力者だ、あのお方の!」
と主張する香山。
「あの人は俺達の可能性を示してくれた。そして力を貸して欲しいと言ったんだ」
「私達は御堂様について行くと決めたの。邪魔はさせない」
他のクラスメイトも口々に御堂を称え、その御堂に認められたと間接的に自分達を持ち上げる。
呪因を全く知らない人間に適当に、でっち上げた理想話しをして、呪因という力を与える。
これで大抵の者の信頼を得られる。
後は適当におだててその気にさせれば手駒の出来上がり。
紅音のデータにはそんな事例も多くおさめられていた。
さらに念入りに与えた呪因(この場合は呪因スマホ)に暗示をかける細工をしておけばより扱いやすくなる。
とはいえ、大半は自分の意思で決めたであろう彼らに対し、紅音は躊躇しなかった。
しかし今、紅音が対峙している勇司は違った。
彼本来の気配はなく、何者かに操られている。というより乗っ取られているというのが近かった。
主である蒼馬の大切な人達を守るための戦いで、彼と最も中の良い友人が障壁となるとは……。
狙うは彼が手にしているスマートフォン。
操っている呪因師とのつながりを断てば彼は開放されるはず。
ダメだったらその時また考える。
そう決意すると、上着のブレザーを脱いで左手に持ち、彼に向かって紅音は走りだす。
体育館と聞いて蒼馬がまず思い浮かんだのが男子更衣室の近くにある体育倉庫だ。
(確かに呪因の気配が漏れてきているな)
蒼馬の脳内に声が響く。
(……一応、女子更衣室の方も調べてみるか?)
という脳内の声に、
「いや……、それはここが外れだったときで……」
(だが外せば時間のロスだぞ?)
「けど……」
と脳内の声と言い合っていると、何かが蒼馬の頬をかすめ、それは目の前の体育倉庫の扉を破壊し、下り階段をあらわにする。
「ここであってますよ」
倉庫の扉を破壊したのは双羽が放った錫杖だった。
双羽は早歩きで倉庫に入ると入り口付近にあった照明のスイッチを入れてみるが明るくならない。
無言で瞳が階段の奥に向かって手をかざすと照明がついたように明るくなる。
双羽は放おった錫杖を拾って階段を飛び降りる。
階段を降りた先には左右に開く引き戸があり、双羽は勢いよくそれを開けると、そこには体育館と同じぐらいの広さの空間が広がっていた。
瞳が先程と同じような呪因で空間を照らす。
「倉庫って聞いてたんですけどねぇ」
そう言いながら先陣を切って広間に入る双羽。
体育に使うような道具類は見あたらない。
変わりに人の背丈ほどの水晶らしき物があちこちに生えている。
その中でも一際大きい水晶。
そこに誰かがくくりつけられている。
双羽がそれに向かって駆けだし、瞳が追う。
2人と行動を共にして感じた事。
戦闘、もしくは戦闘が起こりうる状況では常に双羽が前衛にいる。
この二人のフォーメーション的なものなのだろうか。
そんな事を考えながら2人を追いかけ、目的の水晶の前に一同は立つ。
水晶にくくりつけられた人物。
それは
遠目にくくりつけられているように見えた夕美子。
彼女の身体の後ろ半分が水晶に埋め込まれており、気を失っているようだ。
「この水晶……」
「呪因具ね。早く解呪しないとなんだけど……」
双羽と瞳は水晶に目をやりながらも周囲にも注意をはらう。
「出てきなさい!」
瞳がそう叫ぶと一同を囲むように水晶が6つ生える。
(くるぞ)
蒼馬の脳内の声が注意をうながす。
一瞬、間をおいて囲んでいた水晶が砕け、中から水晶でできた騎士が計6体現れる。
「1人も減らせないなんて、とんだ役立たず共ね」
その声の主は夕美子を拘束している水晶の裏から現れた。
「
「お友だちじゃなかったんですか?」
という双羽の質問に、
「ええ、親友よ。とってもとっても大切な」
少し悲しそうに返す歩。
「でも、御堂くんのためなら鬼にだってなってやるわ!」
「掌握されてるわね」
「されていますねぇ」
そう言いながら戦闘態勢に入る瞳と双羽。
ただ蒼馬は彼女が一瞬見せた表情に、彼女の良心のようなものを垣間見ていた。
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