第4話
「あんた、いいかげんにしなさいよ!」
朝のホームルームの後、遠藤勇司に詰めよる女子生徒。
声の主、乾夕美子の友人である
最近、遅刻寸前に登校してくる勇司のせいで友人の夕美子まで遅刻しそうになる事が多々あり、それに対する怒りだ。
「あゆ……」
間に入って勇司をフォローしようとする夕美子に対しても、
「ユミも甘やかすからコイツがエスカレートしていくのよ!」
と、強く言う。
「すげぇ修羅場だな」
成り行きを見守ることしかできなかった蒼馬に話しかけるクラスメイト。
彼の話によると蒼馬が転校してくる前から勇司が遅刻することが多くなり、見かねた夕美子が毎朝、呼びに行っているのだという。
遠藤勇司の家は、母親はいなくて父親と大学生の兄の3人家族だという。
普段は父と兄は朝早くに家を出てしまうため、勇司が朝起きる時間には勇司1人しか家におらず、寝坊しても起こす人間がいないのだ。
勇司の父と兄も何もしないわけではなく、自分たちが家を出る前に勇司を起こし、身じたくまでさせていたという。
「で、本日は台所のテーブルで爆睡している勇司氏を夕美子氏が発見。なんとか起こして今にいたると」
と、幸介が説明する。
爆睡しているところを発見というのは、勇司の自宅は一戸建てで庭から台所が丸見えなのだと言う。
インターホンを押しても反応がない事に不安をおぼえた夕美子は庭に回り込み、テーブルに倒れこんでいるような状態の勇司を発見したそうだ。
「夜遊びでもしてるんじゃないの?!」
と言う歩に対して、
「病気なんじゃ……」
と心配する夕美子。
「まぁ、確かにここ最近だもんなぁ。勇司の遅刻が増えたの」
つぶやく幸介。
そして蒼馬は、そんなふうに身を案じてくれる人がいる勇司のことをうらやましいと思った。
3年A組の教室
朝の騒動のあと、人間離れした素早さで自分の教室に滑り込んだ紅音。
ホームルームが終わると同時に彼女に近づく眼鏡をかけた長身の男子生徒がいた。
「深崎さん、ホームルームギリギリだったけれど何かあったの?」
男子生徒は冷静な口調で紅音にたずねる。
「なんでもないわ、家の用事で少し遅れただけよ」
「そう、ならいいけど何かあったら相談してよ」
「ありがとう、委員長。いいえ、香山くん」
クラス委員長の気遣いに形だけのお礼を返す紅音。
彼女の気持ちは真下の教室の蒼馬に向いていた。
2時限目が終わり3,4時限目の体育の授業のための準備をしていた蒼馬達。
他の男子生徒が更衣室に移動しはじめるのを見て、自分の体育着の入った袋をつかみ、あわてて後を追う。
そのときの、不注意から1人の女子生徒に接触してしまう。
軽くかすめる程度だったが、女子生徒は持っていた前の時間の教科書を落としてしまった。
「ご、ごめんなさい!」
蒼馬が接触したのは瓶底のような眼鏡に三つ編みおさげが特徴的な右となりの席の女子生徒、
とっさにあやまり、落とした教科書を拾う蒼真にたいして瞳は無言のまま両手のひらを上に向けて蒼馬の前につき出す。
ここに教科書をのせろという事らしい。
蒼馬があやまりながら両手のひらに教科書をのせると瞳は何も言わず歩きだす。
呆気にとられる蒼馬の耳もとで、
「瓶底眼鏡って本当にあるんだな」
と幸介がつぶやく。
いつの間に。
「ははは……」
と、肯定でも否定でも無いつくり笑いでその場をごまかす蒼真。
「名字と名前に『瞳』って字が入ってるって珍しいよな」
(ちょっともうやめて!)
先ほど接触した罪悪感からも瞳いじりに抵抗のある蒼馬が心の中で叫ぶと、
「あら、瞳は二つあるものよ。何も珍しくなんてないわ」
幸介のいる反対側の耳もとで、今度は龍宮双羽がつぶやく。
双羽は2人の前にズイッと顔を出すと左右の人差し指で自分の両目を指差してみせる。
「まぁ、そういえばそうか……」
なんとなく納得させられる幸介。
「そんなことより、みんなもう行ってしまったわよ」
「やべぇ、行くぞ蒼真!」
駆けだす幸介。
「たっ、龍宮さんも急いたほう……」
言い終わる前に双羽はYシャツのボタンをはずし、下に着込んでいた体育着を見せる。
そして、相馬の前で制服を脱ぐと手早くジャージを着込み、体育の準備を完了させニッコリと微笑んでみせる。
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