第13話 区長
その頃、一方。
和夏はまだ兵士を引き付けて逃げている最中であった。建物の壁と壁を交互に蹴って巧みに壁を登ると、再び屋根から屋根へとパルクールで飛び移動していく。
一部の兵士は魔法が使えるようだ。空中を飛びながら、和夏を追う。
だが、明らかにスピードに差があり、追いつけていない。
「くそッ!なんてすばしっこいんだ!!」
一人の兵士がダダダダッ!とライフルで狙い撃ちをする。それには魔力が込められており、魔力で身体を覆っている和夏にもダメージが通るだろう。
だが、当たらない。
弾丸の動きが読めているのだろうか。そのように感じてもおかしくはないほど、華麗に避けきる。
「ちぃッ!」
撃った兵士が悔しそうに、舌打ちをする。それに対し和夏は
「ハハァッ!」
まるで馬鹿にするかのように、銃を撃ってきた相手をちらり、と覗き見ながら嗤い飛ばす。
「コケにしやがって……だが!」
和夏は覗き見るのをやめて、前を見る。
屋根と屋根の間に大きく間がある。どうやら、小さい道が下に通っているようだ。だが、ジャンプで超えられないほどの間ではない。
そのまま走る勢いを強め、飛ぼうと思っていたその時
「ッ!」
和夏は思わず足を止める。だが、勢いを完全に殺すことが出来ず、ザザザ、と屋根の上を滑っていく。
なんと、屋根と屋根の間から、四人の兵士が飛び出してきたのだ。
どうやら、先回りされていたようだ。
「ッ!」
全員が現代兵士とは思えないような武器を持っていた。剣が二人、斧が一人、最後の一人が槍持ち。どうやら和夏と同様、魔法師のようだ。
剣二人が横に薙ぎ払おうとしている。斧が上から下へと切裂こうとしている。槍は一直線に和夏を狙って突き刺してこようとしている。
その一斉攻撃に対し、和夏は
「あぶねッ!」
だが、咄嗟に頭を下げ、姿勢を低くする。頭上スレスレで二つの刃が通り、姿勢が低くなったことで斧と槍も狙っていた位置がずれてしまったのか、和夏をすり抜け、屋根へと突き刺さる。
そして、和夏は逃さなかった、このタイミングを。
攻撃した直後というのは大抵、隙だらけになるものだ。射撃ならばまだしも、剣などの近距離攻撃などは当然の話である。振り下ろしたあと、技術や経験がなければ素早く持ち上げることは出来ないだろう。
無論、それが絶対とは限らない。例えば、事前に反撃が来る可能性が高い場合ならば、大ぶりの攻撃はせずに、反撃できないほどにもっと速く追撃できるような攻撃方法を選んだり、防御できるような態勢に事前にしておくなど、対策はどうとでも取れる。
特に近距離戦を得意とする魔法師ならばそのように訓練していても良いはずだ。だが、この四人はあまりにも油断しすぎた。
まず、気づかれずに先回り出来ていたこと。そして、四対一という圧倒的な人数有利。それらからまさに余裕が生まれ、相手を侮ってしまった。
それを和夏が分からないはずがない。
和夏はバスバスバスバスッ!と四回、連撃する。
拳で頭、首、心臓近い胸部、そしてみぞおち。四人の魔法師それぞれに人体の急所と言える箇所へと的確に入れていった。
さすがに魔力が込められていようと、その拳に殺傷能力はない。だからと言って、馬鹿にしていいかと言われると、出来ないほどの効力は生み出せる。
四人は悶絶して倒れていく。
和夏も予測できていなかったが、見事に対処してみせたわけだが、数秒の時間、足止めを食らってしまったことには変わりはない。この間に後ろから追いかけてきていた奴らも、すぐそこまで来ていた。
一部、飛んでいた兵士が魔力の塊を空中に出現させる。その魔力の塊は大きさはサッカーボールほどで球体の形を取っていた。それらを和夏に向けて放っていく。
和夏は結界術でドーム型のバリアを展開する。だが、魔法陣も使わない下級魔法。何度か魔力球を喰らえば、簡単に破壊されてしまう。
バリンッ!とガラスのように割れ、その粉々になった破片が散っていく。
地上から走って追いかけていた兵士も、もう迫ってきている。
(逃げるのもここまでか……。まぁ、時間も充分稼げただろうし、ここまでで、問題はないな)
兵士たちがそれぞれ武器を構えて詰め寄っていく。
「ようやく追い詰めたぞ!観念して捕まることだな!!」
どうやら、殺しはしないようだ。まぁ、侵入者が一体どこの、何者で、何の目的で来たのか。詳細に調べなければいけないからだろう。きっと、拷問にかけられるのは間違いない。
だが、捕まるわけにはいかない。
和夏は魂から一気に魔力を生成、体内で強く練り上げる。
その動きに兵士たちも気づかないわけがない。
「何をしている!?」
「止まれ!!」
兵士たちは問答無用で攻撃を始める。
魔力の込められた弾丸、魔力球……だが、莫大な密度の魔力量で体を覆っている和夏にそれらの攻撃が肉体に届くことはなかった。和夏にまとわりつく魔力に触れた瞬間、はじけていく。
「ははッ、この程度の攻撃、喰らうかよぉ。この雑兵ども!!!」
和夏はその溜めに溜めた魔力を一気に体外へと放出。それは、空気を強く振動させ、衝撃波を生み、竜巻の如く突風を吹かせていく。
その場にいた兵士は全員、その衝撃波にやられ、突風で後方数メートル吹き飛ばされる。
「魔力量の時点で段違いなんだよ、分かったか!」
こうして追ってきていた敵を倒したが、まだまだ加勢にやって来る兵士たちもいるだろう。
「さて、上手く隠れるか」
そう言って、屋根から地上へと降りていく。
アウトサイダーウィザード @rinoe0714
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。アウトサイダーウィザードの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます