第12話 証拠集め ③
中は和夏の予想した通りであった。
外見はまるでビルのようであったが、中身がまるで工場のようになっていた。あちこちに印刷機が置いてあり、今もなお自動的に止まることなく偽札を製造している最中であった。
また、パーテーションで色々と組み分けもされている。
日本円に、アメリカドル、ロシアのルーブルなど、国別になっている。また、元となる紙を製造している場所に、インク製造場所などでも分けられているようだ。
そんな工場でも、やはり全員が和夏を追いに行ったわけではないようだ。一部の兵士が巡回している。だが、通常よりも人数は少なく、ビビりながらもバレずに移動していく下級兵。
また忘れずそれらの様子を渡されたデジカメでパシャパシャと撮っていく。
「こ、これで写真は撮れたぞ!」
これさえ持って逃げられれば、自分は助かるんだ!そのように希望を持ちながら、どんどん奥へと進んでいく。
そして、一部印刷機から出てきたものを保管している部屋へとたどり着く。
「これが出来上がったものなのか?」
そういって、数枚、偽札をポケットに入れていく。
彼は知らないだろうが、これらはまだ仕上がっているものではない。
本当に札造りでは、印刷機を使わず、人間の手、職人の技術によって作られている部分もある。例えば、銅板を彫る版画などの技術などを用いられている場合が多い。
そして、これらは印刷機から出てきたばっかりのもので、明日の昼、職人の手によって彫られる前のものだ。
だが、これは確実な証拠になる。
これが彫られてしまったものであれば、言い訳される可能性がある。
スーパーノートとは、機械を使っても区別できないほどの巧妙な偽札。ゆえに、『そえは偽札ではなくて、本物ではないのか?確実に偽物だという証拠はあるのか?』と言われてしまうかもしれない。
言い訳ではある。だが、言い訳できる余地があってはならないのが政治というものだ。しっかり、相手に反論の余地もないほどの代物があれば、相手は逃げることも出来なくなり、認めざるを得なくなる。
「さて、これぐらいで—」
彼の言われたことは、全てこなした。あとは見つからず無事に逃げ出す。それだけで、命が助かるんだ。
そう思っていたその時
「おい、貴様」
背後から気配を察知する。だが、もう遅かった。
それは、黒いローブを身に纏い、フードをかぶっていた。ビダっと、それはまるで張り付いているかのように近く、相手のタイミングで自由に殺せるようであった。
「ここで何をしている?」
「……」
声が出ない。
喋ってしまったら、爆発して死ぬ。だが、声が出ないのはそれだけが理由ではない。単純に、恐怖のあまり、何も行動に移せなかったというのが正しいであろう。
それほどまでに、殺意の高い目つき。まさに、蛇に睨まれたカエルのようだった。
「質問に答えろ」
答えなければ、死ぬ。
ここは、遠回しに、真実を言わない程度に。
「こ、これは、偽札の確認に……」
「確認だと?一体、何の確認だ?それに、誰からの命令だ?」
「…それは……」
ここまでか。
彼は、死を覚悟する。
だが
「おい、物音がしたが、どうした?」
部屋の中に入ってくる別の巡回兵。
ローブの者は咄嗟に下級兵を蹴り倒し、積まれたスーパーノートの陰に隠す。
「サグメ様でしたか」
「いや、私の音じゃない。私も物音が気になって来てみたんだが……どうやらただのねずみだ。近いうちに駆除系の煙でもまいといた方が良いかもな」
「そうですか。では、そのように管理局長に伝えておきます。では」
そう言って、持ち場へと戻っていく。
「……助けてくれたのか、あんた」
「まぁ、お前のしたいことは大体分かっている」
それは、下級兵を助けたわりには、あまり興味を持っていないように感じた。ただ、「そうか、奴の目的は偽造札の方だったか……はははッ、これなら今日中にでも」と不気味なほどに、幸福を含んだ呟きを言うのであった。
「それで?ここから逃がしてくれるんだよな?」
「あぁ、もちろん。なんなら私が手伝ってやっても良い。あれだろ?どうせ、二時間前ほどに侵入した奴に脅されたかどうか知らんが、アイツに関係しているんだろ?」
「……」
彼はその言葉に反応できなかった。いや、してやりたかったが、すると危険だったというのが正しい言い方になるだろう。
というも、自分の腕に描きこまれた魔法陣の発動条件が詳細に分からなかったからだ。今、目の前にいるローブの者が敵か味方か、分からない。が、ここで「そうだ」と肯定することで、侵入者に関しての情報を漏らしたということで裏切り判定を食らって爆発、なんてことも考えられる。
「なぜ、答えないのか。気になるところだが、そこもなんとなく予想がつく。さて、私についてこい。そうすれば、少なくとも今は死にはしないさ」
そういって下級兵はローブの者の後ろを追っていく。
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