第11話 証拠集め ②
しっかりと偽造局へ下級兵が行ったところを見届けた和夏もすぐに行動へ移す。
「さて、相手の気を引かないといけないわけだが……」
どのように暴れるか。
普通、考えつくのは目的地である偽造局から遠い位置で暴れることだが……。
「さすがに露骨すぎるかもしれない」
相手も馬鹿じゃない。
きっと考えるはずだ。なぜ、潜伏していた侵入者か突然、出てきて暴れ始めるのか、と。そして、和夏の暴れている位置などを地図などに照らし合わせて、目的が偽造局にあるという可能性を見出し、逆に警戒度が上がるかもしれない。
であれば—
「一旦、偽造局付近で顔を出して、そこから相手を誘導するように動けば、アイツも動きやすいかもな!」
そう言って和夏は再び民家の屋根へと登り、勢いよく偽造局方面へと屋根から屋根へと移動し、駆けていく。
先ほど脅して命令したフラフラと移動している兵士の超えて先へと行く。
次第に民家が広がっていた場所から、人が働くような、ビルの街並みへと変わっていく。ビル、と言ってもそんな都会をイメージするようなものではない。高層ではない。背の低い、しかし明らかに人が住むような建物ではないと言った感じだ。
そんな街並みの屋根もひょいひょい、と迷いなく移動していく。そして—
「ここが偽造局、か」
そこは、大通りであった。
道路を挟んで反対側にある、何処でにもあるようなビルであった。
「まぁ、スーパーノートとかいう偽札を製造している場所だ。あからさまに何かやっているな、って感じの建物で造りはしないよな。きっと、外側がビルに見えるだけで、中身は工場みたいになっているんかな」
なんて想像しながら、下を見る。
やはり、警備兵が多く巡回している。侵入者が居るということで、きっと普段よりも増員させているのだろう。
そこへ和夏は魔力で身を纏い、ライフルを構えて道路を歩いている兵士に向かって落ちていく。そして、降り立った瞬間、兵士が反応するまもなく、首をへし折り、ライフルを奪い取る。
「「「「「ッ!」」」」」
その場で巡回している全ての兵士が和夏の存在に気づく。だが、視認できているからと言ってすぐに行動できない。できるわけがないのだ。
突然のことで、脳が思考停止している。また、なんとか脳の動きが止まっていなくても、反射神経が上手く作用しないだろう。和夏を目で確認する。そして目から伝達された情報をもとに、脳からライフルを構えて、撃てと体に神経を通して命令を送る。
この動作を数秒で出来るか、否である。相当訓練している兵士でなければ不可能だ。
そのことを和夏が分かっていた。
魔力で身を守っているはいえ、一斉射撃されれば、死ぬことはない。だが、その全ての弾丸から身を守ることは不可能に近い。きっと動けなくなるほどの負傷を受けるに違いない。
持って三秒。
ここで出来る行動は二つ。
攻撃するか、身を守るか。
結界術を用いれば、銃弾から身を守ることなんて、造作もないことだ。
それに対し、ここにいる兵士全員を倒すことなんて不可能。ならば、身を守る一択になるだろう。
だが—
(ここはあえて!!)
奪ったライフルを持って、乱射を行う。発射される弾丸は全て魔力を込める。
そのほとんどが何もない場所に着弾する。当たり前の話だ。しっかり狙って撃っているわけではないのだから。だが、当たってしまう兵士も当然、いる。
頭や心臓と言った直撃すれば死の箇所へと着弾し、死ぬ兵士。
また、致命傷でなくても、魔力の籠った弾丸は触れた瞬間、その部位を肉片へと化していく。
どんどん味方が死に倒れ、周囲一帯が真っ赤に染まっていくその地獄に、多くの兵士が恐怖し、反撃することなく近くの建物や障害物に身を隠していく。
しかし、弾丸も無限に湧き出るわけがない。カチン、とスライドが動かなくなる。
映画やアニメで、弾丸がなくなるとカチ、カチと何度も引き金を引こうとするが、実際は動くことはなく、またスライドがロックしてしまい、動作しなくなる。
しかし、攻撃の手段ならまだある。
死んだ兵士からライフルを奪い取れば良い話だ。
だが、敵兵を殺すのが任務ではない。
和夏は弾切れしたそのタイミングで逃げ出す。
「ま、待て!!」
一人の兵士が叫び、追いかけようとするのに合わせ、隠れていた兵士が顔を出し、和夏を追っていく。
しかし、和夏を追わず、逆に偽造局へと向かっていく一つの影。
「う、嘘だろ……」
それは、脅した下級兵だった。
「あの数の兵士に、ビビらずよく真正面から……」
考えられない。
確かに、魔法師まほうしと一般兵では、天と地の差がある。だが、絶対的な壁は存在しない。どんな優れた魔法師まほうしでも、数で圧倒されれば負けるだろう。それに魔法が普及した現代では、才能のない人間でも魔力ぐらい魂から精製することぐらい出来る。
なのに
「恐怖って感情が欠けてるんじゃないのか?」
そのように呟きながら、偽造局へと入っていく。
こっちは恐怖しか感じない。いや、それ以上に命を握られているこの状況に今でも全てを諦めて動くこの足を止めたくなってしまう。だが、死にたくはない。
文句を言わず、足を止めず、下級兵である彼もまた進んでいく。
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