第6話 新たな任務 ④
「ふわぁ、眠いなぁ」
そのように、のんびりあくびをしながら、巡回している中国軍兵士がいた。
「そういえば、お前は一週間前まで、昼の巡回担当だったもんな」
一緒にライフルを持って、巡回している相方の兵士がそのように尋ねる。
「ああ、そうだよ。夜の巡担当の一人が別の場所に異動してな。それで、俺が担当することになったが……やっぱり体内時計はすぐに変えられないぜ」
眠そうな目を擦りながらも、与えられた大事な任務。コツコツと靴音を鳴らしながら、周りに怪しいものがいないか、目を光らせていく二人であった。
そんな中、彼らの目の前に恐ろしいことが起こる。
なんと、突然目の前のマンホールがボンッ!と爆発でもしたかのように、上空へと吹っ飛んでいったのだ。もし、少しでも歩くのが速ければ、一緒にマンホールという鉄の塊と共に自分も肉片となりながら吹っ飛んでいただろう。
「うわッ!」
予想もしていない事態で腰を抜かす眠そうな兵士。
「一体、何が起こったんだ!?」
案外、このような事件は少なくはない。
この地域ではいろんな軍事実験が行われている。この下水道にもしかしたら、何かしらのガスが漏れており、水道内でちょっとした衝撃で、そのガスが一気に爆発した、なんてことが考えられる。
だが二人はマンホールの方へと意識が向いていたうえに、速すぎるもので見えていなかった。
それは、爆発によってマンホールが吹っ飛んだのではなく、何かがマンホールと一緒に飛び出してきたのを。
そして飛び出してきた者は、マンホールと一緒に上空へ浮かんでいた。
「ちぃッ!痛いッてェ!!」
それは、和夏であった。
相手から強く下水道の天井に向かって蹴り飛ばされたのだが、その辺りにたまたまマンホールがあった。そして。マンホールは和夏を押し止めることができず、吹っ飛ばされた、というわけであった。
そして、蹴飛ばした相手も、追撃するためにマンホールから顔を出していた。
「うわッ、アンタ、誰だ!?」
巡回兵はぬっ、と顔を出してきた者に再び驚く。
それは、黒いローブで身を隠し、フードを深くかぶっていた。また、認識阻害させるような魔法をかけているのか、一体誰なのか、一目見ても分からないようになっていた。
「黙れ、雑兵!ここから逃げろ、侵入者だ。戦いに巻き込まれて死んでも知らんぞ!!
そのように言われ、二人の巡回兵はすぐさま走り去っていく。
「まだ追ってくるのか!?くそッ!」
背中にあったマンホールを掴み、そのまま顔を出している敵に向かって勢いよく投げる。
だが、その硬い鉄の塊を拳で粉々に破壊して見せながら、魔力で身体能力を上げ、和夏のいる上空二十メートルほどまで高く飛び上がる。
そして、敵の右こぶしと和夏の鎌がぶつかり合う!
魔力同士が大きく、激しくぶつかり合い、それはまるで火花のように、真っ白な光として現れ、すぐに空中を舞い散っていく。
「ッ!」
鎌の刃を通じて感じるその強い衝撃に身体を痺れさせる和夏。
「ははッ!」
それに対し、相手は高らかに、まるでおもちゃで遊んでいる子供のように楽しそうに笑う。
二人はそのまま何度も空中でぶつかり合う。だが、無限に滞空出来るわけがない。
徐々に落下していき、地面まで五メートルとなった辺りで二人は離れ、お互い距離を取りながらも上手く足から着地して見せるのであった。
「貴様、中々やるなぁ」
フードを深く被っているため、表情なんかは分からないが、視線は和夏の方へまっすぐ向いていた。それを和夏自身も理解していた。
「だが、本気じゃないのが許せないね。任務優先に考えているだろ?固有魔法どころか、基本魔法すら使わないとはな」
全部、当たっていることだった。
和夏も正面からぶつかり合ったからこそ分かる。そこら辺の兵士に比べれば、明らかに優秀。だからこそ、動きのみでこちらの意図を簡単に汲み取って見せたのだろう。
「あぁ、悪いな。こっちも本気で戦ってやりたいが、アンタを倒すことが任務じゃないんだ。こっちだって貫き通したいもんがあるんだ。アンタにとって、戦いが好きで、強くなるのが大事なようにな。俺は自分の大事なものを貫き通すために、ここは逃げさせてもらう」
「……」
そのように言う和夏に対し、相手はしばらく無言になる。そして―
「分かった」
彼女は戦いの構えを解く。
「本気の貴様と戦いたいが、今はおあずけにしておいてやろう」
「良いのか?」
「貴様の言葉を聞いて、見逃したくなりたくなったのさ。私は、今の中国軍に所属しているのは、ただ楽しみたいだけだからな。戦いもそうだが、どうやら私は最悪な性格らしい。他人を地獄へと追い込むのも、自分を崖の淵に追い込ませるのも好きな、どうしようもない人間だ。だから、ここは敢えて貴様を逃がすんだ」
「……そうか。理解は出来ないが、感謝はするよ」
巨大な鎌を下げ、身に纏っていた魔力も感知できないレベルまで抑え込む。
今までは戦闘中だったため、仕方なく魔力を使っていたが、潜入するとなれば別だ。魔力は感知可能であり、それを常に身体に身に纏うということは、敵に自分の位置情報を教えてるようなものだからだ。
そうして、この場から去る直前―
「さっきも言ったが、この戦いは『おあずけ』だからな!絶対に続きをやるぞ!!それまでには、誰にも見つからず、任務を必ず成功させろ!私は強い奴が好きだ。敵ではあるが、頑張ることだな!!」
応援されるのは嫌なことではないが、敵からのものであると考えると、素直に受け取っていいのか、分からなくなるのであった。
だが、言われたからには、その応援に応こたえてやるのが道理であろう。
「ああ、絶対に終わらせて、再戦するとしよう!」
そうして、二人は立ち去る。
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