第4話 新たな任務 ②
中国の隣国、チベット。
昔は中国の自治区として存在していたが、第三次世界大戦で中国は衰退した。と言っても、未だ大国としての経済力や、膨大な人口によってその力はある程度、保たれていた。わかりやすくするために、アメリカと比較するとしよう。
昔は、アメリカと単独で渡り合うほどの軍事力、経済力、人口、など、あらゆる点でアメリカに負けていなかった。しかし、今では全て一歩劣る、という感じだ。決してアメリカと真正面から戦争を仕掛けても勝てない。しかし、油断は出来ないという感じの国という感じだ。
さらに、一党独裁だったのが、今では信じられないだろうが民主主義となっている。しかし、覇権国家を狙っているのは相変わらずだ。
少し話が逸れたため、戻すとしよう。
多少、力を失った中国の国内で、弾圧されてきた民族が反乱を起こし、それを軍は抑制することが出来なかった。ウイグル、チベット、その他色々な地域が次々と独立を果たした。
世界中から独立した国々は、ロシア、アメリカと中国から敵対している国によって独立を認められていった。そして、大国が認めたことで、ヨーロッパ諸国やアジア諸国もまた、独立国として認証した。
こうして、今や国連の仲間である。のだが、中国はまだ独立を認めておらず、国境近くでは年に一、二度の小規模な戦いが発生している。
また、独立した国も、独立したものは良いものの、維持をするのに必死であった。
今、和夏の向かっているナクチュ地区も、独立したチベットの一部なのだが、今では中国軍が不法占拠しており、地区内の一般人がどのような扱いされているのか、情報統制によって全く分からない状況である。
衛星写真も撮られないように、電波妨害されている。
そんな場所に、彼はひっそりと侵入しようとしていた。
「やっぱり聞いていた通り、壁で自由に行き来出来ないようにしてんなぁ」
そこは中国の青海省。
そこは自然が豊かで、観光客も多い。山や湖など、見どころ満載だ。また、チベットから近いということもあり、チベット仏教のお寺などもある。観光を楽しむのであれば、良い場所だ。
だが、和夏は残念ながら、楽しむような時間はない。
それに、中国にも違法入国しているため、あまり大きく動くことはできない。
彼は青山省からナクチュ地区がよく見える山から、望遠鏡を用いて観察していた。
「ナクチュ地区は五メートルのコンクリートの壁と魔法の結界術の二重で守られている。正式な出入り口は青海省につながる二箇所のみ、か」
彼は地図を眺めながら、計画を立てている。
このナクチュ地区に精巧な偽札、スーパーノートを作っている場所があるという。だが、スーパーノートを作っている場所どころか、その地域に侵入すること事態が困難だ。
「作っている場所が分かっているということは、すでに侵入している仲間がいるということだが……」
自分のように、隠れて潜んでいるのか。それとも、スパイとして中国軍に入り、正式な出入り口から行ったのか。
どちらにせよ、警備の厳しいこの場所に、すでに中にいるであろう仲間に手伝ってもらうことはもちろん、連絡を取ることさえ不可能だろう。大体、電波が通じないのだ。方法がない。
「真正面から……いや、いけないことはないが、後々面倒くさいな」
和夏は対人戦闘であれば、中国軍の雑兵なんかに負けるわけがない。一人で、ナクチュ地区も制圧することも頑張れば出来ないわけではない。だが、国連上層部はそういうのはお望みではない。
それに、彼が所属している組織、ニュー・ラスールは国連非公式軍だ。自分が世界中から目立つほど暴れれば、ニュー・ラスールはきっと犯罪者組織として追われることになる。
「あああぁ!くそ、これだから潜入任務は嫌なんだ!もっとガツガツ戦えるような任務の方が、何も考えずに楽にやれるというのになぁぁぁ!!!!」
頭をガシガシと掻きむしりながら、叫ぶ。
どれだけ叫んでも、悩みが解決することはない。
「ったく、正式な入口は二箇所……。他に入口はない…いや、待てよ」
彼はもっと大きめの地図を取り出す。それは、チベット全体が描かれた地図であった。
「ナクチュは大きな川が流れているだろ?そこの水は、中国も水道を引いて使っているはずだ……。そして、処理された下水道は……」
そうして、彼はスマホを取り出し、ニュー・ラスールの情報部門にメールを送る。そして、それは数分後、すぐに戻ってくるのであった。
送られてきたのは、中国の地下に張り巡らされている下水道と水道が詳細に書かれている地図であった。
「やっぱりな、ナクチュ地区の下水道は中国の下水道処理施設へとつながって、海へと流されている!」
であれば—
「下水道という地下を通って、侵入可能だ!!」
さて、あとは行動に移すだけである。
彼は広げていた地図に、望遠鏡をバッグに詰め込み、走り出す。
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