第3話 新たな任務
トルコの首都、アンカラ。中東、西アジアにおいて有数の世界都市である。昔は、国内で経済や人口などの観点から第二位の都市とされていた。だが、今では一番の都市となっている。
というのも、第一位であったイスタンブールは第三次世界大戦以降からトルコからアメリカの海外領土とされている。
それには、やはり第三次世界大戦の話へとなっていく。
イスタンブールは黒海とエーゲ海を繋ぐボスポラス海峡がある。そして、黒海はウクライナやロシアにも面しており、港があるということ。
この時点で、ある程度、理解した者もいるのではないだろうか。
ソ連はもっと貿易して経済を潤すためにも、費用が陸路よりもかからない海路を開拓したい。だが、ロシアの持つ港は不凍港は少ない。年中使える港なんて、指で数えられる程度。
さらに、数少ない不凍港がある黒海は内陸海だ。そこを出るには、トルコの海峡を通るしかほかはない。
自由に使いたいのに、他国の海峡を通らなければ、広い海へと出られない。
だから、ソ連はトルコへと侵攻した。
無論、それはアメリカも許さない所業でもある。だからこそ、トルコは第三次世界大戦の戦場となり、あっちこっちで領土の奪い合いが発生した。そして、結果はアメリカの勝利に終わり、そのまま海峡をアメリカ海軍が不法占拠。これにはあちこちで抗議が起きているが、いなくなればまたソ連の攻撃が開始されるかもしれない。
周辺諸国はこの状況に文句はありつつも、何もいえない状態となっている。だが、まだトルコは良い方である。あの核抑止がなくなってしまったあとの大きな戦争で、国が残ったというのがどれだけ運が良かったことか。
そんな一番になってしまった首都、アンカラにある飲食店で、日本人の少年と、美しい金髪の女性がトルコ料理をナイフやフォークで、豪快に食べていた。
「しっかし、美味いなぁ!さすがは世界三大料理!肉料理も多いことだし、精がつく!!」
任務でへとへとだった和夏に活力をどんどん与えていくトルコ料理達。
テーブルの上にいっぱい乗っているのは、ケバブに、サルマ、マンティと言った肉料理であった。
「トルコはさらに海に面している国でもあるから、海鮮料理などもいっぱいあるしな。世界でいろんなものを食べてきたが、やはり旨さに関してはトルコ料理が一番だな!」
そう言って、ジンシーも口いっぱいに料理を入れていく。
「ふぅー、美味いもん食って、幸せになれたところで—」
そう言って、テーブルにはまだいっぱいのご飯が残っているが、一旦口周りについたものをティッシュで拭う和夏。
「アンタの任務について、聞こうか」
「……そうだね。だが、今回の私からの任務は、国連からの任務とも関係している。まずは、国連の任務内容から確認してくれないか?」
そう言われて、すでに渡されていた国連からの封筒を開け、中から任務内容が書かれている紙を取り出し、読み始める。
今回の任務先は、中国。
次の世界覇権国家を諦めずに目指している中国では、現在、停滞している経済をどうにかしようと躍起になっている。
そこで、中国政府は秘密裏に偽札造をしていることが数年前から疑われていた。実際、ドル、ユーロ、ポンド、ルーブル……あちこちでいろんな紙幣の巧妙な偽札が出回っている。
それらは、機械どころか、鑑定士でさえも見抜くのが難しい。それらは現在、スーパーノートと呼ばれている。
国連はそのスーパーノートの製造場所を見つけるのに成功した。そこに潜入し、証拠を入手、そのうえで破壊工作を行なってほしい。
無論、我々の工作だとバレないようにだけ気をつけてほしい。
被害はどれだけ多くても構わない。中国政府もスーパーノートの製造を認めているわけではない。製造が行われている建物を吹っ飛ばされたとしても、スーパーノート製造がバレないように中国政府も公に発表することはしないはずだ。
それでは、健闘を祈る。
「というのが今回の任務内容だとよ」
彼は任務内容の書かれた紙をもう一度、綺麗に畳むと封筒に戻し、懐へと入れる。
「この任務に関係するアンタの依頼ってなんだ?」
そう言われ、ジンシーは先ほど見せた一枚の紙を取り出す。
「私の依頼は、とある人物との接触だ」
「とある人物?」
「ああ、君も、もしかしたら名前を聞いたことあるかもしれない。その者の名前はサグメ」
「……確かに一度だけ聞いたことのある名前だ。何処だっけな…去年任務で行ったジブラルタル半島だっけかな?確か、相当の手練れで腕の立つ傭兵だと。だが、本当にいるのかどうかは知らなかったな」
このような業界にいて、信用の出来る情報はそうそうない。
多くの者が偽名を使い、行動している。それだけじゃない。仲良く話している同僚がスパイで、自分が敵に情報をひたすら流していた、なんていう笑えない話だってある。
それぐらい、多くの者が疑心暗鬼になる、一般人の住む世界とは異なる裏の世界。噂なんて信用できないのが当たり前の世界だ。だからこそ、聞いたことのある名前ではあったものの、すぐには出てこなかったし、ここで実在する人物と知って驚く和夏であったのだ。
「傭兵、か。確かに去年は雇われ傭兵として個人で活動していたな。だが、今はもう違うらしいぞ」
そのようにジンシーは言う。
「というと?」
「そもそも、分かっている範囲では、サグメの活動は六年前から始まっている。その時は、アメリカ軍に所属していた。そして、それから二年後、アメリカ軍を除隊し、メキシコに渡った。そこからは麻薬販売しているカルテルのような組織で活動し、それも一年で抜ける。それで去年まで傭兵で稼いできていたらしいが、今は中国軍に入っているらしい」
それを聞いて、最初は全く理解できなかった。
なんだって?
アメリカ軍から、麻薬組織?それから、個人傭兵で、今は中国軍!?
「明らかに怪しい来歴すぎるだろ。どれだけ腕が立つ奴だとしても、誰も雇わねぇだろうし、歓迎もしないだろ。コンビニのバイト面接でさえ、履歴書を見て即お断りだよ!」
「そうだな。彼女の経歴を追っていた私自身も、偽情報を掴ませているんじゃないのか?と思うぐらいの変な経歴だ。でも、それが事実なんだ」
いやいや、ありえないだろ。
麻薬組織から、個人傭兵はまだ良いとしよう。腕に覚えがあるから、もっと稼げるような職に就いた、などの簡単な理由はいくつか考えられるからだ。だが、アメリカ軍に所属していた奴が、今は中国軍なんて絶対にありえない。
アメリカと中国は今もバチバチな関係だ。中国軍だって、サグメとかいう奴を雇う時、元アメリカ軍と知って雇ったのか?自分が中国軍の人間だったら、絶対にそんな奴は仲間にしない。
「……」
それを聞いて、一体どうやって?なぜ?どういうわけでサグメの経歴はこんなに意味不明な状態なのか、思考する。
「もしかして、サグメもやっぱり偽名なのか?」
「いいや、サグメは本名のようだ。でも、アメリカ軍の時と麻薬組織の時の活動名は違っていたな。まぁ、中国軍に入れたのも色々と仕込みというか、タネはあるんだろう。まぁ、そこは良い。問題は、どうしてそんな脈絡のない仕事を転々としているのか、ということだ」
「では、そこを調べてほしい、と?」
「いいや、最も気になる点ではあるが、重要な点じゃないよ」
そういって、彼女はより一層、真面目な顔になって、この任務の重要点を言う。
「サグメを、スカウトしてきてほしい」
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