第8話
どうなっても知らないだって?桐谷さんは一体何を言っているんだ。桐谷さんの妹さんなのだからきっととても可愛くて親しみやすい人だろう。
何も心配することなんてない。俺は桐谷さんに連れられて妹さんの部屋の前に立った。
名前は茜ちゃんというらしい。
これから幾度となくお世話になるだろうから、いい印象を持ってもらいたいな。
一応この家では桐谷さんの彼氏ということになっているが、上手く演技出来るだろうか。お母様は純粋な人なのかまったく疑う素振りもなかったが。
「じゃあ、入るけどびっくりしないでね?」
「ああ、別に何も気にしないよ」
「ならいいけど。茜は可愛いんだよ~。お母さんに似てて、学校ではめちゃ男の子からモテてるんだって!」
あなたも最高にモテているじゃないか、とは言わず心の中で突っ込むと俺は桐谷さんに合図を出す。
「おーい、茜。いる?」
「いるよー、どうしたのお姉ちゃん?」
声からしてとても可愛らしいのが伝わってくる。やはり両親の顔面偏差値が高かったらその子もハイスペックに生まれてくるのが世の摂理なのか。
きっと桐谷さんと誰かさんとの間に出来るお子さんも可愛らしいのだろう。もし桐谷さんが大人になって、お子さんが出来たら会わせてもらおう。
超絶愛でれる自信しかない。
「会わせたい人がいるんだけど」
「あ、もしかして噂のお姉ちゃんの彼氏さん?いいよー、入ってきて」
桐谷さんがドアを開けて部屋に入ると同時に俺は続けて妹さんの部屋に入った。
「相変わらずオタク部屋だね~」
俺は妹さんの部屋を見て口をあんぐりと開けていた。さっき驚かないと言ったばかりなのに、さっそく約束を破ってしまった。
「最近壁紙を張り替えたんだ~。いいでしょー」
そう、妹さん。茜ちゃんの部屋の壁は俺の見覚えのあるアニメキャラが描かれた壁紙でいっぱいに埋め尽くされていた。
基本的には異世界ものの主人公君のものが貼られており、時折ロリ男の娘が混ざっている。
「こんにちはお兄さん。私、お姉ちゃんの妹の茜と言います。どうぞお姉ちゃんのことをよろしくお願いします」
といって茜ちゃんは俺に頭を下げてくる。
まさか出会い頭に桐谷さんのことをお願いされるとは思いもしなかった。
どうやら茜ちゃんはユーモアにあふれた人間性をお持ちのようだ。
「こちらこそよろしく。桝屋大樹っていうんだ。以後お見知りおきを」
「もちろんです。お姉ちゃんの彼氏さんなんですから!」
「もう、茜!」
桐谷さんは茜ちゃんに揶揄われたことが恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしている。
実は俺がさっきまで自殺しようとしていたなんて聞いたらびっくりするだろうな。
「あ、お姉ちゃんが照れてる。そんなに桝屋さんのことが大好きなんだ」
本当は付き合ってはいないんだがな。でもすごくこの家の居心地は良い。桐谷さんと本物の関係になれたら最高なんだろうな、なんてあるはずもない未来を考えてしまった。
「桝屋さんはお姉ちゃんのことがどれくらい大好きなんですか?」
「そーだな。こんくらいだな」
俺は自分の手が届く限界まで大きく広げて円を描いた。
「わー、大きい!」
桐谷さんは俺の行動を見て増々顔を赤くしてしまった。リンゴくらい赤いと言っても過言…だがとにかく赤い。
うむ…我ながら確かに恥ずかしいことをしてしまった。これは流石に桐谷さんを怒らせてしまったかもしれない。
後で謝るとしよう。
「桝屋さんもお姉ちゃんもお互いを想いあっているんですね!いいな~」
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