第7話

「そこでそれを使うのか」


「使えるときに使わないと意味ないからね」


 桐谷さんにそう言われてしまえば俺が逆らう術はない。彼女が俺の責任として、幸せにするという約束を交わした。

 俺には守る責務があるわけだ。


「分かったよ。ただ何が起きても文句は言わないでくれよ?俺は断ったんだからな?」


「大丈夫だよ。私から頼んでおいてひどいことはしないよ」


「なら構わん」


 俺の人生において女子と寝ることは愚か、ほとんど話したことが無い。それなのにいきなり色々な段階を吹っ飛ばして一緒にベッドに入るまで行くとわ。

 人生何が起きるか想像できないが、あの時自殺しようと思った俺にほんの少しの感謝の念を抱いてしまうのはなぜだろう。


「別に私は桝屋君に何されても文句は言わないからね?何されても、だからね」


「お前が期待してることは何も起きないぞ。あくまでお前が幸せになるまで協力するって話だからな」


「そうだったね。まぁ、今はいいや」


「今は?」


「ううん、気にしないで。ほらお母さんに泊りの件を話しに行こ」


「そうだな」


 果たして許可がもらえるのか疑問だが、拒否られてしまえば外で一夜を過ごすことになるし…







「お母さん、話があるんだけど」


 キッチンへと足を運んだ俺たちは料理中の桐谷さんのお母さんに話しかけた。作りかけの料理を見てみると、完成した時が楽しみになる。


「あらどうしたの?ご飯はもう少しかかるからちょっと待ってね」


「ご飯じゃなくてね…その、桝屋くんのことなんだけど」


「桝屋君?あ、大樹くんのことね」


「うん、そのことなんだけどね…今日、桝屋君とお泊りしたいなって思ったり思わなかったり…」


 普通こういうことって本人である俺が言うべきなのだろうか?いや、許可を貰ってから感謝を告げるべきか。

 どっちにしろ許可が必要なわけで…俺はドキドキしながら桐谷さんのお母さんを見つめていた。


「…」


 特に理由の分からない沈黙。これが一番気まずい。

 お母様は考えるそぶりをして納得した表情を浮かべた。


「全然大丈夫だけど、大樹くんのお家の方は大丈夫なのかしら?」


「はい、大丈夫です」


「それなら問題ないわ。お母さんはもっと大樹君と仲良くなりたいし今日はみんなでたくさんおじゃべりしましょう!」


 良かった。一瞬ダメかと思ったが無事許可が下りた。

 俺は態度には出さないものの安堵し、桐谷さんを見た。


 すると彼女はニコっと明るい顔をする。


「やったね桝屋君!」








「良かったね許可貰って」


「ああ、ありがとな」


「ううん、私が一番喜んでるから」


「そうか、俺も楽しみだよ」


 お泊り会っていうのは一体何をするんだろう。漫画でしか読んだことが無いからか、一般的な知識が薄くて困る。


 もっと陽キャに生まれればお泊りなんて日常茶飯事で、いっぱい楽しいこと知ってたんだろうが今の自分が不甲斐なくて悔しい。


 そういえば桐谷さんには妹さんがいるという話だ。今日一夜お世話になるのだから挨拶くらいしておかないと失礼だよな。


「妹さんに挨拶したいんだけど、大丈夫かな?」


「え、茜に?別にいいけど、どうなっても知らないからね?」

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