第6話

 桐谷さんに連れられて俺は彼女の家にやってきた。

 一軒家でシンプルな色配色、外から見ても温かそうな家庭だと分かる。


「お母さん少しびっくりすると思うけど、気にしないでね」


「ああ」


 ガチャ、と開かれた扉の先。中からは明るそうな女性の声が聞こえてきた。


「ただいまー」


「湯月おかえりー…って、え?なに、その子」


 桐谷さんのお母様らしき女性が俺の姿を見て驚きの表情を浮かべた。

 それはそうだろう。大事な娘が突然、どこの馬の骨とも知らない男を連れてきたのだから。


 お母様も桐谷さんと似ていてすごく可愛らしい容姿をしている。相当学生時代はモテていたんじゃないだろうか。


 俺が何と答えようと口をつぐんでいると桐谷さんが先の返事をした。


「私の彼氏なんだ、たまたまさっき会ったからお母さんに会わせたいなぁ、って思って連れてきちゃった!」


「まぁ、湯月の彼氏さんなら歓迎するわ。上がって上がって」


「失礼します」


 良かった。快く受け入れてくれそうだ。正直少し心配していたのだ。


「名前はなんていうの?」


「えーっと、桝屋大樹っていいます」


「大樹くんね、今から晩御飯作るけど大樹くんも食べていかない?」


 凄いフレンドリーな人だな。初対面でここまでぐいぐい来る人は今まで見たことが無い。すぐに打ち解けそうで気持ちが楽になった。


「いや、さすがに迷惑だと思いますので」


「子どもが遠慮なんてしちゃだめよ。こういう時は頷いときなさい」


「もう、お母さん。桝屋くん困ってるでしょ」


「ならお言葉に甘えていただいてもよろしいですか?」


「もちろんよ。ちょっと待っててね。今から急いで作っちゃうから」


「ごめんね桝屋君。うるさいお母さんで」


「いいよ全然。にぎやかで楽しいじゃん」


 俺の家がこんなににぎやかだったのはいつくらいだろう。親が無くなってからずっと一人静かに食事していた俺にとって、桐谷さんのお母様のような明るい人が家族にいることは羨ましく思える。


「うん、いつもこんな感じなんだ。ここに妹が加わったらもっとうるさくなるよ」


 桐谷さんって妹居たんだな。彼女は学内では有名だが、家族の話までは聞いたことが無かった。

 これからたくさん知れることがあると考えると、気持ちが高揚する。


「とりあえず泊まることは後から話すとして、とりあえず私の部屋に行こ」


 え、女子の部屋?






「ここが私の部屋。ちょっと散らかってるけど気にしないでもらえると助かるかな?」


 女子の部屋。俺の人生で同世代の女の子の部屋に来るイベントが来るなんて想像もしていなかった。


 桐谷さんの部屋は全体的に白で統一されていて、ところどころ女の子らしい可愛いぬいぐるみが飾られている。


「全然、気にしないよ。入れてくれるだけで感謝してるし」


 実際彼女が言うほど部屋は散らかっていない…というか、これで散らかってるなら俺の部屋はどうなるんだ。


「荷物はそこに立てかけておいてね。あと布団だけど…私と一緒に寝る?」


「…いやいやいやいやいやいや。それはまずいだろ」


 ただでさせ女子の部屋に入ってるだけで奇跡なのに同じベッドで寝るとか…あってはならないことだ。

 俺は床で寝ることにしよう。


「俺は床で寝るから、桐谷さんはいつも通り自分のベッドで寝てよ」


 女の子の部屋に思春期の男が一人。なにか間違いが起こってはいけない。


「寝るときは俺の腕を縛ってくれるか?」


 我ながら最適案だ。自分を天才だと崇めてやりたい。


「桝屋くんが床で寝るくらいなら私も床で寝るから。縛るのも意味わかんないし」


 でもさすがに同じベッドで寝るのはまずいだろ。もし仮にお母様に見つかってしまったら、俺は警察にお世話になるかもしれない。


「あ、変なこと考えてるでしょ。私は気にしないよ」


 俺が気になるんだよ!


「じゃあ、命令です。私が幸せになるには桝屋君が私と一緒にベッドで寝ることで叶えられます。だから一緒に寝よう…ね?」


 どうやら俺に避けるすべはないらしい。

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