第3話 和解
何を勝手な、と一瞬思った俺だが先に勝手な行動を取ったのは俺なので何も言い返せないでいると…
「桝屋くんはなんであんなことをしようとしたのさ」
桐谷さんがキッとした目つきで俺を見る。
どうやら怒っているみたいだ。
「お前に話す義理なんてないだろ」
「お前って…無理やり私の唇を奪っておいてよくそんなことが言えるね!」
「それは悪かったと思ってるよ。俺みたいなやつの勝手な行動で、最悪だよな」
「…」
俺が行動していてなんだが、桐谷さんには本当に悪いことをしたと思っている。
彼女だって初キスは好きな人としたかっただろうに、俺みたいなやつに奪われて彼女の人生を台無しにしてしまった。
もう後戻りすることはできない。
してしまったことが無かったことになるなんてあり得ない。
「それで責任取れ、ってやつだけど。幸せにするってどういうことだ?」
「私、もう運命の人決めてるの」
「はぁ?」
「だから責任取ってもらわないと私は幸せになれない」
桐谷さんはニコっと微笑んで、俺に話す。先ほどまでの怒りはどこへやら。
俺の目の前には天使のように輝いている好きな人が立っているだけだ。
「桐谷さんがその運命の人と結婚して、幸せになるまでは死ぬなってことか?」
「うん。絶対に死んじゃだめだよ。そしたら私の幸せは一生叶わなくなっちゃうから」
果たして彼女の幸せになぜ俺が必要なのかは分からないが、彼女がそういうのだから意味はあるんだろう。
あれか、好きな人に踏み込めないから俺に援護してほしいみたいな感じか。
それならお安い御用…というわけではないが、生きる意味が出来たんだと捉えればいいか。
「わかった。自殺はやめるよ。だから早く幸せになって俺を死なせてくれよ」
「わかった。絶対に私よりも先に死なないでよね。もし黙って死んだりしたら私も先を追うから」
なんでそこまで…。俺がいつ死のうとあまり桐谷さんには関係ないだろうに。
「じゃあ、帰ろ?」
「どこにだ?」
「家だよ。桝屋くんの家はこの辺じゃないの?」
家、もうあの家には帰りたくない。
あの家にいたら、母親の面影を思い出してしまって居ても立っても居られなくなる。
「そうだな、近いわけじゃない」
「なにその言い方。どっちか分からないよ」
「まぁ、大丈夫だよ。明日も学校に来るからさ。お前はもう帰ってもいいぞ」
「ううん、一緒に帰ろ。私を不安にさせないでね」
俺と桐谷さんは屋上を出ると、誰もいなくなった校内を静かに歩いていく。
外からの部活生の声をなく、校内には職員室にいる先生方だけが残っているらしい。
時計を見てみると、完全下校時刻を過ぎたところだった。どうりで誰もいないわけだ。
「なんかこう、誰もいない学校って新鮮だね」
「そうだな」
「私、こんな時間まで残ったのは初めてだな」
「悪かったな」
「…」
俺のせいで桐谷さんを困らせてしまったと思った俺は誠意を込めて頭を下げるが、どうやら彼女が求めていた返答とは違うらしい。
「桐谷さんは部活には入ってないのか?」
「ううん、入ってるけど活動が少ないんだ。写真部っていってね、行事の時にアルバム用に写真を撮る部活なんだ」
「へー、知らなかったな」
「確かに、桝屋くんは撮ったことないかも。桝屋くんは何か部活入ってるの?」
そうだよな、先に俺が質問したんだから同じ奴が返ってくるよな。
分かってはいたんだが、俺の部活はなぁ。
「そんな公言出来るような部活じゃないから」
「えー、教えてよ~。しっかりと部活として登録されてる部活なんでしょ?何も恥ずかしがることなんてないよ」
「もう廃部のなる予定なんだ」
そう、俺の部活が人数の問題で来月にも廃部になる予定だ。先輩たちが引退したことで、部活として認められる人数が確保できず、このまま部員がへ増えないようだったら来月にも廃部にする、ということのなった。
今の部員は俺と一つ下の後輩だけだ。
後輩は俺によく構ってくれるいいやつだが、廃部になってしまえば会うことはなくなるだろう。
「え、そうなの?なんでかきいてもいい?」
「部員不足だよ。一人足りないんだ」
「じゃあ、私が入ったら?」
「続行だろうな」
桐谷さんでも冗談言うんだな。
俺の部活に入るような奴はいないというのに。
「じゃあ、私入るよ、桝屋君と同じ部活!」
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