第2話 プロローグ②

 着いたのは屋上。自殺にはちょうど良い学校のスポットだ。


 ラブコメだったら昼休みに彼女と2人で、彼女自作のお弁当をつまみながらイチャイチャする場所なのだろうが、あいにく俺に彼女はいない。


 桐谷さんはきっと俺の事をいつか忘れてしまうだろう。欲を言えば、記憶の片隅にでもいいから置いておいて欲しいけど。


 この学校の屋上は封鎖されており、屋上へと続く扉は施錠されているのだがついこの前に壊れていることに気づいた。


 屋上には何も無く、俺の胸くらいの高さがあるフェンスが取り囲んでいるだけだ。


 飛び降りるのは簡単そうだな。これなら無駄に時間をかけないで逝けそうだ。


 出来れば時間はかけたくなかったのでありがたい。

 無駄に時間をかけてしまえば怖くなって、辞めてしまうかもしれないしな。


 俺は覚悟を決めると、フェンスへと歩いていく。強い風が吹いており、フェンスがガシャガシャと音を立てるのが不気味さを増させる。


「いよいよか」


 この世界に悔い…がないことは無い。だが、今から俺がどう生きようと達成できない代物だ。


 元から実現不可な夢に希望を抱くほど俺は愚かでは無い。


 学校には迷惑を掛けてしまうな。


 俺が死んだことがニュースにされてしまえば、この高校の評判がガタ落ちしてしまう。


「許せよ」


 フェンスに足をかけて、いよいよ飛び降りようとした時…


 がちゃん!!


 屋上に扉を勢いよく蹴破った音が響いた。

 俺は誰だと、足をかけながら振り向くと。


「何してるの!?」


 桐谷だ。

 なんでここにいるんだ。俺は誰にも見られずに屋上ここまでやってきたはず。


 そもそも桐谷が俺を探しに来るはずがない。


 …そうか、たまたま屋上の扉が開いているのを見てしまったんだな。決して俺のためでは無い。それくらい分かっているさ。


 俺は彼女を無視して、フェンスを越えようとすると…


「ほんとになにしてるのっ!」


「うわっ」


 腕が内側に強く引っ張られ、俺の身体はフェンスを最後まで超えず屋上に寝そべる形になってしまった。


 あーあ、止められてしまった。せっかく覚悟を決めたというのに。


 どれだけ怖かったと思ってるんだよ。自分を欺いてまで行動してたのになんで邪魔するんだよ。


「桝屋くん!何しようとしてたの。返答次第では怒るから」


 既に怒ってるじゃないか。


「自殺だよ。俺はもうこの世に生きる意味はない。だから死なせてくれよ」


「…」


「なにか言えよ」


 次の瞬間、彼女の瞳から1粒の涙が流れた。


「生きる意味なら、ある…よ」


 なんで桐谷は泣いでいるんだ。そんなに俺が死のうとしていたところが怖かったのか。


 それとも俺自身が怖かったのか。


「ないだろ。俺を必要してる人間はこの世にはいない!死ぬほうがマシなんだよ」


「あるって言ってるじゃん!」


 なぜそこまで意固地になる。いや、俺が意固地過ぎるのか?


 何も分からなくなってきた。


「責任取ってよ」


「は?」


「私のファーストキスを奪っておきながら、勝手に死ぬなんて許さないから」


 桐谷、あれがファーストキスだったのか。てっきりいっぱいしているもんだと。


「それはすまなかったな」


「謝って欲しいわけじゃない」


「じゃあ何が欲しいんだ?」


「死なないで。絶対に私に勝手に死なないで」


「え…」


 屋上にやけに温かい風が吹いた。


「それはどういう意味だ?」


「責任取って。責任取ってよ」


「責任?」


 桐谷はこくりと頷く。


「私を幸せにするまで死ぬのなんて絶対に許さないから」

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