生きる意味が無くなったので最後に好きな人の唇だけ奪って死のうとしたら、責任取ってと言われた

minachi.湊近

第1話 プロローグ①

 生きる意味がなくなった。

 大好きな母親が亡くなった。ずっと昔に離婚して母の手一つで俺をここまで育ててくれた母親がついこの前、身体が弱っていたらしく過労死してしまった。


 今は祖母の家で暮らしているが、やはり母さんと二度と会えないことは俺にとって耐え切れない。

 祖母も祖父も俺に優しく接してくれているが、そんなこと今更どうでもいい。


 生きる意味だった母親が死んでしまったのだ。どうせなら俺も死んで母さんと同じところに行きたい。


 だから自殺しようと思う。


 でも死ぬ前にやっておきたいことが一つある。


 俺には好きな人がいる。

 高校の同じクラスであり、マドンナと呼ばれている桐谷 湯月さん。


 学園の高嶺の花と呼ばれ、毎日の告白が絶えない人気っぷり。

 肩まで伸びているサラサラとした黒髪、おまけに出るところは出ておりプロポーションはお墨付き。


 彼女に告白したいわけじゃない。本音を言えば、告白して付き合ってみたかったが俺みたいな陰キャが出しゃばって告白してしまえばいじめの対象になりかねない。


 そもそも今から死のうとしている奴が考えることでもないんだが、もし桐谷さんが俺に告白された後に死んだなんて聞いたら、罪もないのに罪悪感を与えてしまうかもしれない。


 だから俺は最期にキスすることにした。


 最期くらい一度でもいいからいい思いをして死にたい。

 そして選んだものが桐谷さんとキスをすることだ。


 とはいっても真正面から行っても断られるだけなのは百も承知。

 少々強引だが、不意を衝く予定だ。


 今は放課後になったばかりで教室には俺と桐谷さんしか残っていない。

 彼女はどうやら勉強はしているらしく、静かな教室に彼女のペンが走る音だけが木霊している。


 真面目だなぁ。

 結局最後までなにも行動できなかったな。


 俺が死んでは祖母に迷惑をかけるかもしれない。学校にも迷惑をかけるだろう。


 それは申し訳ないと思っている。死ぬことを辞めるつもりはないが。


 っていうか桐谷さんに彼氏がいたらどうしよう。俺殺されるんじゃないか?

 ……いや、気にしなくていいんだったな。


 結構気が楽だな。これから何でもしていいだなんて。

 犯罪は念の為しないが。


 さぁ、もうこんな時間つぶしはいい。さっさとやって、人生の幕を閉じるとしよう。


 俺は音を立てないようにゆっくりと立ち上がり、前方に見える桐谷さんの元へと向かう。


 そして……


「うわっ」


 気づかれてしまった。最悪だ。人生最大の失態だ。


「桝屋くん!いたんだ」


「あぁ、驚かせて済まないな」


 桐谷って俺の名前知ってたんだな。1度も話したことなんてないのに。

 少し心が温かくなるのを感じた。


「うん、別にいいけど。大丈夫?凄く深刻そうな顔してるけど」


「桐谷は優しいな」


 俺は彼女の言葉をそう返すと、すぐさま行動に出た。


 次の瞬間……


 ちゅ


 桐谷の唇に俺の唇が触れた。


「へっ!」


「ごめんな、桐谷」


 俺は走って教室を出た。

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