第6幕 学園祭は好きですか?(二日目)

「「これから学園祭二日目を始めたいと思います!」」

 自称アイドル姉妹の掛け声で学園祭が開始する。

「目指すは売上、ナンバーワンだぜ!」

 クラス全体が盛り上がり、各々の準備を始める。アナウンスを聞き一般客が入場してきた。

「ここ何? 何だろうね?」

「入ってみようか?」

 女性客が不思議そうに話しながら部屋に入ってくる。

「心の癒しドリーム・オアシスへお帰りなさいませ。お嬢様方、ゆっくりとお過ごし下さいませ」

「「「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」」」

 クラスの男子は横一列に並び女性客が入ると声をそろえてお辞儀をする。

「お嬢様方、ここは写真を見ていただき執事を決めていただくシステムとなっております。今日はどの執事に致しますか?」

 そう言うと、恭介は女性の手の甲にキスをした。

「あなたにします❤」

 女性客が恭介を指名する。

「すげぇ~な、恭助」

「いつも、変な事を言ってるが顔はいいからな」

 クラスメイトの男子はひどい物言いを混ぜつつ恭介を褒める。

たしかに恭助はいつもふざけているが、真面目な顔をすると悔しいがまともな顔をしている。

「それじゃあ、私はこの樹君にしようかな」

 もう一人の女性客は写真を見ながら樹を指さす。

「樹、ご指名だぞ」

 クラスの男子が声をかけると樹は本を持ちながら奥から姿を現す。

「…お嬢様、今日はご指名頂きありがとうございます。ゆっくりと過ごし下さいませ」

 樹が女性を見ながらメガネを外す。

「はい❤」

 女性客はうっとりしながら樹を見ていた。入口を見ると女性が並んでいるが、おもしろ半分の客も並び長蛇の列ができていた。

外に宣伝に出ている男子は、子連れの母親にまで声をかけているのが見える。

僕は警察沙汰にならないように祈る。

「隣も見てみるか」

 隣を見に行くと、いろんな意味ですごい事になっていて僕は呆気にとられる。

女子の方々も負けず劣らず、表現しがたいものがあった。

「なんだここ?」

「可愛い子がいっぱいだって、入ってみようぜ」

 男性客が興味本位で入っていくと。

「お帰りなさいませ。御主人様」

「御主人様、今日は時間の限りゆっくりしていって下さいね」

 来客した客に挨拶をする女子。

「ゆっくりしていくよ~☆」

「時間制限があるのは残念だけどゆっくりしていく☆」

 そう、僕達の出し物は時間制限があり分数によっても値段が変わっている。どこぞの店のようなシステムだった。言っとくけど僕は説明しているだけで行ったことはない。

そんなとこに行ったりでもしたら身近な女子が僕を生かしているとは思えない……。 

「おい、悠斗。指名だぞ」

「あいよ。今行く」

 呼ばれて行ってみると、そこには見覚えのある女性がいた。

「まい姉、何しているの?」

 手入れのいきとおった黒く長い髪を下げ、何処かの令嬢ではないかと思える雰囲気を与えさせるような出で立ち、この学校の生徒会長を務める僕の姉さん。才色兼備の言葉がよく似合う、僕の自慢の姉である。

自慢ではあるが、ひとつ僕にとっては悩みの種になるところも搭載されている。

「暇だから来ちゃった」

「暇だから来ちゃった。じゃっないでしょ」

「いいじゃない。悠君を見に来たかったんだから」

 そう言いながらまい姉はほっぺを膨らませ拗ねる。

「わかったよ。ごめん、謝るから機嫌なおして、まい姉」

「悠君の頼みだから許してあげる」

 そう言うと、まい姉は笑顔になる。

「まいさん、悠斗の指名取り消して俺にしませんか?」

「ごめんね。悠君がいいの」

 この笑顔に何人惚れて、何人玉砕していったことか。

「ぐはっ、何だこのブラコン姉は。俺の笑顔がちっともきいちゃいねぇ」

 恭助が倒され、何人かまい姉に声をかけるがことごとく撃沈していた。

「おーい。そんな事やってないで仕事しなきゃ」

「そんな事だと! お前はこんなお姉様がいるからそんな事が言えるんだ!」

「「「「「そうだ、そうだ」」」」」

 クラスの男子も恭介と一緒に文句をたれる。

「くそぉ~、悠斗なんかタンスの角に小指をぶつける呪いをかけてやる」

恭介の発言の後に手をうねうねさせて何かの気を出す様に向けてくる。何て地味に嫌な呪いだ。

 しかし、恭介と男子が悠斗に文句を言っていると、男子の顔すれすれにフォークが飛んでいた。

「誰が文句言っているの?」

まい姉は指の間にフォークやナイフを指の間にはさみバックに『怒』が見える。

「「「「「何でもないでぇ~す……」」」」」

 その笑顔を見てクラスの男子は泣きそうだ。

「あらそう、私の聞き間違えだったのね。あと、悠君とのひとときを邪魔したらわかっていますよね、み・な・さ・ん?」

 男子は『サー・イエッサー』と言わんばかりにまい姉に敬礼をしていた。泣きながら。

「ちょ、ちょっとちょっと。悠斗は私が先に指名するのでお引取り願いませんか!」

「いえ、悠君は私が先に指名させていただきますね!」

 まい姉と男子のやり取りを見ていた二人が参戦してくる。

「誰かと思えば、華恋ちゃんにらんちゃんじゃない。弟の成長を見守るのも姉の務めですので、邪魔をしないように仕事に戻ってくださいな」

 火花を散らせて、三人は睨みあう。

「あのさ、まい姉。今日は遊びみたいなものだけど、僕はこれでも仕事をしているんだから、邪魔しないでくれないかな?」

 そこには泣きながらくずれ、ショックを受けている姉がいた。

「うっ、うっうっ、悠君は私とは遊びだったんですね……」

聞きとりようによっては誤解させる一言だ。

「まい姉、何か明後日の方向に間違っているみたいだけど、学校行事だからね。生徒会長なんだから見本にならないと」

「悠君に変えられるものがこの世にあると思うの?」

「いやいや……」

「(やはり僕も思う節はあるが、このブラコンすぎは良くないんじゃないか?)」

まい姉にだっていずれ好きな人が出来れば変わるかも知れないが、このままでは先のことが思いやれる。

僕は今のこの状況を打破することが最優先事項だ。

「まい姉、僕はまい姉が生徒会長としてこの学校行事を成功する姿が見たいな」

「へぇっ? 本当ですか?」

「本当、本当」

「そんな、悠君は可愛いお姉ちゃんが見たいって、きゃっ」

泣き止んだと思ったら、恥ずかしがりながら変なことを呟いていた。

「いやいや、まい姉は生徒会長として一緒に頑張ろうってこと。」

「悠君の気持ちはうれしいのだけど。でも、その気持ち以上に私は悠君と一緒にいたいの」

こうなってしまうと僕は手が出せなくなってしまう。

「(どうしたものか)」

「こらっ、まい。まさかと思ってきてみれば、やっぱり弟くんの所にいた。あなたは生徒会長で生徒の見本にならないといけないんだから行くよ」

 怒鳴りながらまい姉に近づく女子がいた。まい姉と同じ生徒会の副会長だ。

「えぇ~でも、悠君がぁ~」

「いいから、さっさと戻る、戻る。それじゃあね弟君」

副会長はまい姉を猫のように首根っこをもち引っ張っていった。

「悠君。かならずまた、愛にくるから~~~」

まい姉の間違った表現を無視して、僕は手をヒラヒラッと左右にふり別れを見送った。

「悠斗、私は休憩になったら行くからね」

「悠君、私も休憩になったら必ず行きますね」

 華恋とらんが休憩になったら、男子の出し物へくると言いながらその場をあとにすると遠くから樹を指名するとロール髪の大声が聞こえたと思った途端に僕の視界は暗くなった。

「あのー……これはどういうことでしょうか?」

 視界が真っ暗になり複数名に抱えられてどこかの一室の椅子に座らされている状態の様で僕は今の状況を、把握するためにクラスの男子に質問する。

「被告人は黙ってください」

 クラスメイトの男子の一人が僕に指示する。その後、聞き覚えのある声が開催宣言をした。

「え~ごっほん、これより第十回、男子による『妬ましいよ裁判』を開催する」

 裁判が開催するために僕は天井にぶら下がっているらしい。

「第十回と言っていたが一回から九回はどこにいったのかな?」

「黙れ、被告人。そんなもの雰囲気じゃ!」

 雰囲気と言い放ちやがった。

「でっ、僕はなんの罪で椅子に縛られているのかな?」

僕は呆れながら質問する。

「こいつ自分の罪も知らないなんて。よく生きていけるな」

「バカじゃないか?」

 たしかに僕はまい姉に比べれば、頭のできは良くないかもだけど、このクラスの人達には言われたくないな。

「被告人、如月悠斗は女子複数に言い寄られている為、その裁判が開催された。間違いはないな?」

 間違いだらけじゃないか。女子に話しかけられただけでこんな扱いになるなんて。

「いやいや、そんなことはないと……」

 俺が代弁しようとすると、

「異議あり! だまらっしゃい、それこそが重大な罪じゃ」

恭介が僕を指さしながら大声で言い放つ。僕に代弁させない気だ。

「そうだ、そうだ」

「悠斗に重い刑を与えてくれ」

 恭介の言葉に賛同してクラスの男子が反応する。

「それじゃ、僕はなにをすればいい?」

 僕は面倒なのでこの茶番を終わらせるために質問する。

「ようやく認めたか。それでは、刑を申告する。如月悠斗に……」

 これで茶番も終わるかにみえた。次に恭介が言い放つ言葉が普通なら……。

「如月悠斗に『火あぶりの刑』を申し渡す」

「「「「「いえーい。やっちゃうぜ❤」」」」」

 恭介が刑の判決をすると、クラスの男子が『❤』を出しながら喜び合っていた。

「いやいや、それはおかしいでしょ。死んじゃうよ、僕❤」

 なので、僕も男子に向けて『❤』を送る。

「「「「「❤を飛ばすんじゃねぇぇ~」」」」」

クラスメイトの男子が『❤』を先に飛ばしてきたのに理不尽すぎる。

「(やばい、このままでは僕が死んでしまう。どうしよう……)」

などと考えていると、そこに助け船がやってくる。

「お前ら、何をやってんだ。店の仕事しろ」

 先生が教室に顔を出しに来た。

「……助かった。先生、男子を止めて!」

 僕は先生に助けを求めると、一人の男子が先生の耳元で事の現しを説明する。

「悠斗、貴様は重大な罪を犯したな!」

 あんたも敵だったか。

「あんた教師だろ。この茶番を止めろぉお!」

 僕は叫んだ。

「ふっ、貴様は誰にものを言ってるんだ? 俺は、このクラスの担任なってから貴様らの幸運も不幸も大好物なんだよ!」

そこにはアホの教師がいた。

「そこは幸運だけにしとけよ! くそ、こんな教師を信じた僕がバカだった」

 後悔をしていると男子が僕の周りを囲い始めている。

やれやれしょうがない、最後のとっておきを出さないといけないとは。

「しかたないなお前達、ちょっと待て! 今、とっておきを……」

 このクラスの男子は僕の一言で、止まらなかった。

「お願い、話を聞いてぇえぇぇ~~~」

 火あぶりはなかったがひどい目にあったのは言うまでもない。


 ………


「悠斗、起きなさいよ」

「悠君、起きてください」

 華恋とらんが寝ている悠斗に声をかける。

「や、止めて。それだけは勘弁」

 悠斗は何かにうなされながら寝ている。

「起きろって、言ってんでしょうが」

「ぐはっ、な、何がおきたぁ!」

 悠斗の寝ている腹に華恋はチョップをくらわせていた。

「そっちの出し物に行くって言ってたのにどこいたのよ!」

 華恋はほっぺを膨らませながら怒鳴る。

「僕が聞きたいよ」

「何言ってんのよ、男子の方に行ってもあんたがいないし、探している間に時間も過ぎて、もうすぐで演劇の時間なのよ」

 僕が、寝ている間にそんな時間になっていたらしい。

「くそっ、あいつらのせいで何も楽しめずに演劇とは……」

「まったく、本当ですよ。悠君、準備にいきますよ!」

 らんも一緒に怒っている。僕は言われるがままに準備をして体育館へ向かった。

劇がどうなったかはまた今度の機会にでも。


 ……… …… …


「それでは、学園祭も最後になりました。フィナーレにフォークダンスを踊って終わりにしたいと思います。全校生徒は運動場にお集まりください」

校内アナウンスが入り生徒は運動場を目指し、徐々に集まり始める。

運動場の真ん中にはキャンプファイヤーの大きな炎が準備されその周りで生徒はフォークダンスを踊り始める。

生徒の笑い声が広がり、空には光り輝く星空が広がっている。その中で僕は何故か引っ越してきたばかりの事件を思い出している。

あの時、僕の目の前に現れた女の子の瞳もこんな色だったような気がする。

「(何で今頃になって思い出したんだろう?)」

 記憶中の少女がキャンプファイヤーの炎の前を通った気がする。

「あの子は?」

「いたっ。またどこかに行ってたの?何誰か探しているの」

 華恋が声をかけるので顔を向けてもう一度、炎を見るとそこには踊っている生徒だけだった。

「いやっ、何でもない」

「何よ。まあいいわ。私と踊りましょうよ」

「あ~っ、ずるいです。私も」

「何言ってるの私が先に声かけたでしょう」

「こういうのは姉が先に踊る物です」

 また、この三人は午前中のようにお互いを見て揉めている様子だった。姉弟だからと理由を付けてその場を収めて、順番にフォークダンスを踊る。


 ……… …… …


この日々を楽しく感じ、変わらないと思っていた。


この日々が続かない事をこれからの物語で気付くことになる。


まだ、そのことには気付かない僕は炎の周りで戯れる生徒の中に僕はいた。

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