第三幕 準備は好きですか?

金槌で釘を打つ音が、あちらこちらから聞こえてくる。

「こっち、釘がたらないから持ってきて」

「手が空いてる人いたら買い出し行ってきてよ」

 学校全体が学園祭に向け準備を着々と進めている。その中で僕のクラスも準備を進めていた。

「悠君、華恋ちゃん、こちらにきて衣装合わせして下さい」

「……やだっ」

「まだそんな事、言ってんの」

 華恋は呆れた顔でため息をつく。

「しかたないだろ。嫌なんだから」

「ダメなんですか?」

「やだっ」

「どうしてもですか?」

 らんは小動物のような目で僕を見ている。

「(そんな目で見ないでくれっ)」

「らん、頼むよ恥ずかしいんだって」

「そうですか……」

 そう言うと、らんは残念そうに顔を下に向ける。

「らんちゃん、泣かすなよ悠斗!」

「そうよ、らんちゃん泣かせないでよ!」

 話を聞いていたクラスメイトが悠斗を責め始めた。

「ふっふっふっふっ、どうすんの悠斗~?」

 華恋は、笑いながら問いかけてくる。

「わかっとよ。着ればあいいんだろ、着れば…」

「悠君、本当ですか?」

 らんは顔を上げ笑顔になる。それを見て、僕は深いため息をする。


……… …… …


「ほら着たよ」

 悠斗が着替え終わるとクラス全体で歓声が響いた。

「すっごい、可愛い!」

「悠斗じゃないみたい!」

 クラスメイトの女子は俺の姿を見て感想を述べる。嬉しくない。

「悠斗、それ洒落になってねぇぞ……」

「完璧、女子に見えるって」

 クラスメイトは笑っている。その中で一人は違う行動をとっていた。

「悠斗!」

 恭助が俺の名前を大声で呼ぶと、ツカツカと歩み寄って、俺の両肩に手を置き叫んだ。

「俺の嫁になってくれ!」

 しゃべり終わるのと同時に俺の拳が動く。恭助は吹っ飛んでいた。

「何言ってんだよ! 気持ち悪い…… 『アホ毛』抜くぞ」

「……グッジョブだ。だが、『それ』だけはやめて……」

 そう言うと、静かに眠りについた。

「恭助~、大丈夫? お~い、ダメだこりゃ気絶しているね」

「きゃ~、やっぱり悠君は何を着ても似合いますね❤」

 らんは叫びながら目が『❤』になっていた。

「はぁ~、昔もらんに女物の服を着させられたな」

「悠ちゃ~ん、可愛いねぇ、パンツ何色だい? くっくっくっ(笑)」

 華恋はそう言いながら、俺のスカートをめくろうとする。

「おま、ふざけんな」

 クラス全体が笑っていた。

「いっちゃんも来てください、着替えますよ」

 樹は静かに立ち上がり試着室へと向かった。


 ……… …… …


 数分すると樹は試着室から出てきた。

「おっ、樹は執事喫茶の衣装か」

「……どうだ」

「きゃ~、いいですよ。いっちゃん❤」

「ほ~、馬子にも衣装とはこのことだな」

 樹は本で僕を叩いた。

「痛って。樹が照れてるよ」

 クラス全体は笑って、珍しい光景を見ておもしろがっていた。

「そんじゃ、私とらんはメイド喫茶の衣装合わせをしますか」

「はい」

 華恋はらんの手を取り試着室へと向かい歩きだすが急にこちらを振り向く。

「覗くなよ!」

「覗かないよ」

と、言いながらも見たくないといったら嘘になってしまうけど。男子なら分かるよね?

「何だって」

「何でもないよ、覗かないから早く着替えてきなよ」

女の勘かな、心を見透かされていた。


……… …… …


 数分すると、着替え終えている声がするが出てこようとしない。

「お~い、どうした? 着替えたんなら出て来なよ」

「わかってるんだけど……これは大胆すぎる!」

「ほにゃ~、こんなのでは外を出歩けませんよ……」

「はぁ~?」

 すると、華恋が試着室から顔だけを出す。

「どうした華恋?」

「どうしたもこうしたもないわよ、衣装が大胆すぎて出らんないのよ。誰よこの衣装作ったの?」

 華恋が疑問を浮かべていると、

「俺が一から考え作り上げたのさ」

「お前かぁ! あとで覚えときなさいよ」

「そんなこと言ってないで、出て来なよ」

 僕はカーテンを開ける。

すると、目の前のものに吃驚より歓声が広がる。おもにクラスメイトの男子が。

 恭助はカメラで写真を撮っていた。

「(たしかにこれは大胆すぎる衣装だ)」

「どんなデザインよこの服は? なぜかスリーサイズもピッタリだし」

「俺は女性のスリーサイズは見ただけで解かるんだよね。そして、ここに全校生徒のスリーサイズか記載しているノートがあるぜ!」

 

キラッ☆


 どこぞの銀河妖精のポーズを恭助はきめていたが、クラス女子にフルボッコにされていた。

「御愁傷様です」

 俺は笑いをこらえながら手を合わせる。

「もう、時間もないからそれでいくしかないだろう」

 時間がないのも明白だった。

「そうだけど……」

「恥ずかしいですよ……」

「確かに露出は多い気がするけど、似合っていると思うけど」

「本当に?」

「本当ですか?」

二人の声が揃う。

「うん、似合ってるよ」

「悠斗がそう言うなら……」

「悠君がおっしゃるなら……」

 二人は指をもじもじさせて、ごにょごにょと喋ってた。

「何っ?」

「何でもない! 着るわよ。まったく鈍いんだから……」

「何でもないです! 少しぐらい気づいてもいいのに……」

 二人はお互いの顔を見つめて、悠斗を見ている。

なんだかんだでクラス全員で和気藹々と作業を進めていった。

「よっしゃ~、みんな頑張っていきまっしょい」

「ちょい待ち、恭介君」

 着替えが終わった華恋が笑顔を浮かべ恭介に近寄る。しかし、その目は笑っていない。

「さっき、覚えとけって言ったよね❤」

「やっべぇ……」

 恭介の悲鳴と同時ににクラスの男子は手を合わせ合掌する。

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