その先へ
部屋をくまなく調べていた慧が手招きをする。
何事かと慧の元に向うと壁を指差す。
「これを見て下さい」
慧に言われて壁を見ると丸いボタンのようなものがあった。
「これは?」
明らかに怪しい、それはさすがの私でも分かる。
「なにかの仕掛けなのは間違いないと思います。これと同じものが他に二つ有りましたから」
「仕掛けかー、とりあえず押してみようぜ」
「あっ、このおバカっ」
短絡的にボタンを押そうとしたゴウの指を慧が弾く
「何すんだよ、押して見ないとどうなるか分からないだろう」
「罠の可能性だってゼロでは無いのですよ、迂闊に押したら駄目でしょう」
「うーん、でも多分この仕掛けを解かないと先に進めそうにないよね」
慎重な慧の気持ちも分かるけど、実行しないと状況は動かない。
まあ、こういった複数のボタンがある場合はゲームなどでよくあるパターンだと……。
「三つ同時に押せば良いんじゃね」
ゴウが私の言いたかった事を先に言う。
慧は顎に指を当て考える仕草をする。
「……分かりました。それで試してみましょう」
慧にそう言われ、他のボタンがある壁へ私とゴウが向かう。
ボタンが押せるようにスタンバイすると、サイバーゴーグルによる通信でタイミングを計り、三人同時にボタンを押し込む。
すると部屋の中心が光りだしたのが直ぐに分かった。
近くまで寄って確認すると床が光り魔法陣が浮かび上がっていた。
「どうやら転移陣のようだな」
シュヴァエモンがひと目見ただけで見抜く。
「もしかしてこの先が本当のボス?」
私が息を呑む。
「ええ、恐らくは」
「じゃあ、とりあえず行ってみようぜ」
相変わらず直感的な発言のゴウ、そこにシュヴァエモンが補足する。
「うむ、転移先の座標を解析したがとりあえず問題は無いぞ」
「うーん、とりあずこの先に行くのは回復してからにしない、連戦はキツイかも」
私の提案に慧が頷いて答える。
「そうですわね。途中で手に入れたポーション類もあり不足はありませんがベストな状態で挑みたいですね」
「あー、それもそうだな。それじゃーひと眠りして行こうぜ」
ボスフロアには雑魚モンスターは発生しないので休息を取るには最適な場所の一つだ。
ここはゴウの意見を取って少し休憩する。
私も仮眠をとって充分に休む。おかげでヒットポイントと魔法力も完全に回復することが出来た。
その後はボス戦を想定してシュヴァエモンにはカール・グスタフの弾の補充と
「まったく暢世は、しょうがないな」
シュヴァエモンは渋々そう言いながらも、カール・グスタフの弾を三発とパイナップルを四つ補給してくれた。
それとなく新装備も欲しいなー的な事を言ってみたがそっちはスルーされてしまった。
「それじゃあ行こうぜ」
休憩を終えたので、ゴウの呼びかけと共に転移陣まで移動し一斉に飛び込む。
転移先は今までとは比較にならないほど広い空間で周囲の壁が見えないほどだった。
周囲を見回すと、奥でほんのりと発光している何かが確認出来た。
周囲を警戒しながらその存在を確認するために近づく。
そこで目にしたのは五メートルはゆうに超える巨大な光る卵。
それは神々しい光ではなく、どこか妖しい輝きを放っていた。
「うむ、いかんな三人共、我の後ろに隠れろ」
シュヴァエモンが私達を庇うように前へと出る
合わせるかのように卵がひび割れると暗い闇が溢れ始め卵を覆い尽くす。
卵を覆った闇が、今度は収縮を始め、バリバリと卵を砕く音が響く。
巨大だった卵は見る見るスイカサイズの大きさまで縮小する。
闇はそこからまた形を広げ始めると騎士の姿をした黒いモヤへと変化する。
その異形のモヤから放たれるプレッシャーは尋常ではない。
本能的に恐怖も感じる。
目の前に姿を現したそれから逃げ出したくなると同時に、シュヴァエモンの側から離れれば、直ぐ様御臨終になるのはなんとなく感じられた。
「おい、さすがにアレはヤバいって」
普段は臆することのないゴウも苦笑いを隠せない。
「まさか、これほどの存在とは……何とかなるレベルではありませんね」
「シュヴァエモン……」
ここは脱出を、との意味を込めて黒衣の袖を掴んで引っ張る。
「ふむ。我としたことがどうやら見誤ったようだな、まさかここまで顕現化が進んでいようとはな、予測では三割ほどだったのだが……」
シュヴァエモンが何か理由のわからない事を呟く。
御託はいいので、兎に角ここは逃げるべきだと思う。
シュヴァエモンにしては珍しく見誤ったのなら尚更だ。あれに比べれば最初に遭遇したドラゴンさえ可愛いモノだ。
私はそんな思いを込めて、もう一度強くシュヴァエモンの袖を引っ張る。
そんな私達に目の前の騎士の姿をした闇は口を開き喋り始める。
「良く来たな人の子と……ふむ、汝はこの世界のものではないな、我らとも異なる次元の者か」
「さよう、我はシュヴァエモン、今はこの者たちの行く末を見守る立ち位置にあるな。悪魔公よ」
「ほう吾輩を知っているのか異界の者よ」
私の記憶に無いのにシュヴァエモンが知っているのはおかしいと思いつつ、気持ちはいつでも逃げ出す準備万全だ。
「当然であろう、我も普遍的高位次元の存在は認識している。さすがにこの世界においてのそなたの名など知らぬがな」
「なるほど、顕現して早々に面白い者と遭遇したものだ。我が名を呼ばぬことであえて顕現化を避けようとしたか、だが今更だな、吾輩は既に自らをこの世界に定義する事が可能なまでになった。聞くが良い、汝らに死をもたらす者の名を、吾輩の名はエリゴス。ゲヘナの公爵にして六十の軍団を率いる者なり」
エリゴスと言う悪魔が名乗りを上げたとたん、黒いモヤのような朧気な姿から、はっきりと姿へと形どって行く。
全身は赤黒い甲冑の姿になり、闇を纏った鎌槍を手にしていた。背丈的には二メートルほどでラークシャサなどよりは小柄だ。
「ふむ、やはり自らを定義付できるまでになっていたか」
自分だけわかった様子のシュヴァエモン、私は二人のやり取りの意味が分からない。だからこんな事を今聞くべきではないと分かっていても思わず聞いてしまう。
「どう言うことよ」
「なに、本来は第三者が観測し定義付けしないといけない事象を自らで行ったというだけだ。まあそのおかげで、顕現化が八割くらいには抑えられたようだがな」
イミフ?
ただ分かっているのは目の前にいるアレがとてつもなくヤバい存在だって事。
しかもシュヴァエモンが若干煽ってるようにも見える。
いや、これって完全に逃げる機会を逃したよね。
どうするのさ!
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