決着

 ブラックスケルトンナイツは盾と槍でラークシャサを上手く抑え込んでいた。しかしラークシャサはゴイルズ達を吹き飛ばした時と同様にオーラを爆発させると、ブラスケ達を弾き飛ばす。

 しかし、大盾で防いでいたブラスケ達はノックバックさせられはしたが大幅なダメージを受けていない。


「ノブヨ、あいつらやるじゃねーか」

「助かりました暢世さん」


 ブラックスケルトンナイツの活躍で、態勢を立て直せた二人がグッドサインをおくってくれる。


 しかし赤おこモードのラークシャサの苛烈な追撃が終わった訳では無い。

 ラークシャサは今度は私に狙いを定め向かってこようとする。

 しかし、ブラスケ達が上手く行く手を阻んでくれる。だがラークシャサは巨体に見合わない跳躍を見せ、ブラスケ達を飛び越えると私に真っ直ぐ向かってくる。


 まずい。


 成長してもヒットポイント割合の低い私ではラークシャサの連続攻撃には耐えられない、確実に死亡確定コースな状況。そう、それなのに、何故か私の頭は驚くほど冷静だった。


 私は両手に手榴弾パイナップルを持って待ち構える。ちなみにシュヴァエモン印のパイナップルは普通の手榴弾とは違い安全ピンが無い、なぜならレバーを離した瞬間私と魔力リンクし任意のタイミングで起爆出来るから


 なのでこういった普通の手榴弾では難しい、相手の間合いギリギリでレバーから手を離し、前へと転がしながら、タイミングよく爆発させるなんて事も可能だ。

 ただ爆発範囲内なので、当然私自身も巻き込まれる。


 しかし、この爆発は火薬によるものではない、シュヴァエモンが最初に説明した通り魔法による爆発。つまり魔法攻撃なのだ。

 そして魔法攻撃なら指示しない限りは私の周りを周回しているマグ達オービタルが魔法を反射してくれる。


 さすがのラークシャサも二発分の爆発魔法と反射分の追加ダメージで吹き飛ぶ。


 そうそこまでは私の想定通り。


 想定外だったのは爆風だ。

 魔法によって生じた爆発は魔法判定。

 でもそこから生じた爆風は魔法ではないのだ。


 私は思っいっきり爆風で吹き飛ばされ壁に打ち付けられる。


「かはっ」


 ヒットポイントが一気に削られ底をつく。

 相殺しきれなかったダメージが私の体に直接伝わってくる。


 成り行きを見ていた慧が慌てて私に駆け寄ろうとする。


 でも、今はその時ではない。

 私は痛む体を無視し、ラークシャサを指指すと大声を上げる。


「畳み掛けて!」


「くっ、分かりましたわ。貴方の行動を無駄にはしません」


 慧は私の言葉を理解し、私の救助よりラークシャサへの攻撃へと切り替える。

 ヘルファングを手に、倒れているからこそ狙える頭部に向け、一直線に、通常の人間ではあり得ない速度で加速する。


 ゴウも直ぐに反応しており、吹き飛ばされ倒れ込んでいたラークシャサに襲いかかる。


「寝込みを襲うのは趣味じゃないけどさ、ノブヨが体張って生んだチャンス。全力で行くぜ」


 ゴウは人間離れした跳躍をしてみせると、そこから大剣を振りかざし遠心力を生み出すと、体ごと回転しながらラークシャサへ向けて落下して行く。


 地上ではあり得ない、ダンジョン内の強化された身体能力だからこそ出来る大技だ。


 そして二人の攻撃はほぼ同時にラークシャサに届いた。


 慧の超加速からのヘルファングによる一撃はラークシャサの目をえぐり刺し貫く。

 ゴウの遠心力と重量が合わさった大剣は、ラークシャサの首を切り落とす。


 正直どちらが致命傷になったかは私の目から分からなかったが、確実に倒したと確信した。


 それにより緊張の糸が緩み、全身に激痛が走る。

 自分一人では立って居られなくなり、よろけて倒れ込んでしまう瞬間。


「良くやったな」 


 いつの間にか側まで来ていたシュヴァエモンに抱きかかえられる。


「へへっ、何とか勝ったよ」


「ああ、見ていた見事だった」


 そう言ってシュヴァエモンは優しく頭を撫でてくれる。心なしか体から痛みも引いていく。どうやら合わせて回復魔法をかけてくれているようだ。


 そんなシュヴァエモンに治療されている私にゴウが嬉しそうに近づいてくる。


「へっへ、見てたかノブヨ。アタシの蛇光院流大刹斬・改でトドメをさしてやったぜ」


 すると一緒に歩いて来ていた慧が反論する。


「はあぁ、何をいっているのですか!? 止めを刺したのはわたくしのライトニングスティングですよ、そうですよね暢世さん」


 慧が私に同意するようにと目力で圧を掛けてくる。

 私には殆ど同時に見えていた為、判断に困りシュヴァエモンを思わず見てしまう。


「うむ、暢世のからは見えなかったであろうからな、我が代わりに答えよう。ズバリ、ラークシャサに止めを刺したのはこいつだ」


 シュヴァエモンがそう言って指差したのは、ブラックスケルトンナイツ達の一体。


「「えええええ」」


 思わぬ伏兵の存在に驚きの声を上げる二人。

 どうやら二人の動きに隠れて目立たなかったが、ちゃんとブラスケ達はラークシャサを槍でチマチマ攻撃していたらしい。


「流れで言うならば、慧の攻撃で瀕死になったところに其奴の槍が足元に当たり、それが止めとなった。豪姫の攻撃はその後になるな」


「マジかよ~」


 シュヴァエモンの詳しく経緯説明に肩を落とすゴウ。


「なるほど、そいうことですか。つまり止めを刺すアシストをしたのはわたくしと言うわけですね」


 あくまでも勝ち負けに拘ろうとする慧。


「でもトドメはさせなかったんだろー、ドドメはさー」


 そんな慧にゴウが不満そうに答える。

 別に二人は本当に言い争いをしたいわけではない。じゃれ合ってるうちに引っ込みがつかなくなっただけである。

 だから体を癒やしてもらった私は起き上がると、二人の肩を組んで言った。


「もう、止めなんてどうでもいいじゃない。私が力を合わせて倒した事に変わりはないんだからさ」


「……そうですわね。済みませんジャーコさん、つい張り合ってしまいました」


「ゴメン、ケイ。アタシもムキになりすぎてた」


 二人が共にゴメンナサイをしてその場は丸く収まる。


 その間に大量に放出された輝く幻想素子ファンタズマゴリアはそれぞれに吸収されていた。これなら大幅なステータスアップが見込めそうだ。


 後は初めて呼び出したのにも関わらず、良い働きをしてくれたブラスケ達にはお礼を言って帰還させておく。


 リザルトチェックではいつものようにシュヴァエモンが鑑定してくれ渡してくれる。

 今回のドロップは片手剣の【羅刹剣】と【剣印の御守】【獄卒の証】を手に入れた。


【羅刹剣】はゴウが予備武器として受け取る。

【剣印の御守】は、効果がソードスキル【フォーススラッシュ】が使えるようになるとのことなので、これまたゴウが装備することになった。

【獄卒の証】という怪しい手枷のようなリストバンドは、アンデット特攻及び特防効果のある装備品で死霊系にも効果があるといことで、慧が装備することになった。ただ本人はかなり嫌そうな顔をしていた。


 こうしてドロップ品の分配も終わった所で私は重要な事に気付いてしまった。


「えっとさ、さっきのって最下層のボスなはずだよね?」


「んん? アタシもそう思ってたけど違うのか?」


「……ならほど暢世さんの言いたいことが分かりました。確かにダンジョンボスならアレをドロップしないのはおかしいですね」


 慧は私の言いたいことを理解すると慎重にフロア内を調べ始めた。



 


 


 

 

 


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