パーティ

 慧のステータスは敏捷性が高く、それ以外は平均的な伸びを示していた。しかし気になる点もある……それは私とは真逆、つまり幸運度が殆ど伸びていなかった。


 ナチュラルラックは普通だかそこからの増強値は雀の涙程度。


「うわ、ラック、メッチャ低く」


 間違いなく慧が気にするであろうことをゴウがお構いなしに言い放つ。


「うるさいわよ、貴男こそ知力の低い脳筋ステータスだったくせに」


 ゴウの言葉に反応して咄嗟にゴウを睨みつける。

 そんな些細なことを気にする二人が羨ましくて思わずため息がこぼれる。


「はあ〜、良いよね二人共ステータス値高くて」


 そんな私の陰鬱な気配に二人が気付く。


「えっと、暢世さん、宜しければ貴方のステータスを見させてもらっても構わないかしら」


「おっ、そうだな。アタシ達だけ見といて自分だけ隠すのはズリーよな」


 慧は気遣を使ってか遠慮気味に、ゴウは好奇心丸出しで私のステータスの確認を求めた。


「今後一緒にやっていくのであれば隠す必要はあるまい」


 シュヴァエモンの言葉に促され、私は頷く。


 読み取った私のステータスがホログラムのように表示される。


「あはっ、アハハハっ、すっげー、すっげーなノブヨ、殆ど運しか上がってないじゃん」


「ジャーコさん貴方ね」


 笑うゴウを慧が睨みつけるが、笑われるのも仕方ない。


 だって私のステータスは、あれだけボスオンパレードの激戦をくぐり抜けてもなお、基本ステータスはほとんど上昇しておらず、幸運度だけが異常な伸びを見せているイレギュラーな成長しかしていない。

 でも、だからといって二人に隠すのもフェアではない。


「良いよ慧、二人には嘘言って誤魔化したくないし、恐らく今後も私の成長は幸運度以外は上がらないと思う、でもそんな私でも……」


 認めてパーティで居てくれるの?

 そう言いかけて言葉が詰まる。

 そんな私に笑いの止まらないゴウが話しかける。


「アハハハッ、スゲー、本当にスゲーよ……ノブヨは……だってさ、こんな低いステータスでも下層を生き抜いてきたんだろう。誰がなんと言おうとそれってスゲーことだよノブヨ。さすがはアタシが認めた魂の友だぜ、アハハハっ」


 ゴウは嬉しそうに私の肩を叩く。


「ふっふ、ジャーコさんもなかなかやりますわね、先を越されてしまいました」


 先を越されたって何を?

 そう言うとしたけど、先に慧が腰に手を当て偉そうに話し始めてしまう。


「良いこと暢世さん。私のステータス見ましたよね」


 私の目を見て慧が尋ねてくる。

 しっかり拝見したので思った通りの感想を述べる。


「あっ、うん。バランス良かったね」


 私の答えに満足そうに頷くと、慧はどこか演義がかった調子で話を進め始める。


「そう、そうなのです。ほぼ完璧といって良いわたくしのステータス。でもそんなわたくしにも唯一弱点がありました……そう、それはラックの低さです。でもわたくしにはそれを補う秘策が有ります。どんな方法か分かりますか暢世さん?」


 慧からの突然の謎掛けに頭をひねらせる。

 ダンジョン内で任意の能力値を上げる方法なんて聞いたことないからだ。 


「分かりませんか? 簡単な事ですよ。足りない部分は助けてもらえば良いんですよ。そう例えば極端にラックが高い人物と同じパーティを組んだりすれば、きっとわたくしのラックの低さもひっくり返してくれるはずですわ」


 慧はそう言い終えると、急に照れくさくなったのかそっぽを向く。

 私は直ぐにその言葉の意味を理解する。


「まったく慧は……本当に最高よ、あんた達本当に最高、大好きよ」


 私は思わず慧に抱きつく。


「あっ、ずりーぞ、慧だけ」


 そんな私と慧にゴウが飛び乗ってくる。

 いつものようにじゃれ付き合いながら思う。

 私の幸運はこの最高の親友二人に会うためにあったのではないかと。



 そんな良い雰囲気に水を差すのが、空気の読めないシュヴァエモン。


「ごほん、じゃれ合うのはそれくらいにして、そろそろ先に行くぞ」


 促すシュヴァエモンに私が待った掛ける。

 

「ちょっとシュヴァエモン。二人にも戦ってもらうって事だけど、どういう作戦なの?」


 私の大切な親友を無闇矢鱈に傷付けさせる訳にはいかない。

 シュヴァエモンの意図を把握しておく必要があると感じで尋ねる。


「なに、バフを掛けるだけだ。相手の力量と釣り合う位にはな」


「なるほどシュヴァちんが相手と同じくらいの強さに強化してくれるわけか〜」


「うむ。そのうえで戦うのだ。互角の相手ならば戦い方次第で自ずと結果も変わる」


「つまり、私達の連携や戦術で楽勝もあれば苦戦もあり得ると言うわけですね」


 シュヴァエモンの意図を察した慧が指を顎にあてトリックは解けた的な感じで答える。


「さよう、ちなみに暢世は今まで通り、余程の相手で無ければバフ無しだぞ」


「ちょっと、なんで私だけ扱いが雑なのよ酷くない」


 てっきり私も同じようにしてくれるのかと思っていたのでシュヴァエモンに厳重抗議をする。


「まったく、そんな事も分からぬのか、汝が二人と同じ様な戦い方をしておれば、それはバフありきの戦い方になるであろう」


 そうシュヴァエモンに説明されて気が付く。

 確かにゴウと慧は、戦って成長すればいずれバフで高めたステータス値に追い付くだろう。

 そうすればバフ無しでも同じ戦いは出来る。

 しかし、私は駄目だラック特化の成長率ではいつまでたってもバフの恩恵を受けた領域に到達出来ない。つまりシュヴァエモンの言う通り、バフが掛かってる前提での動きになってしまう。


「分かったわよ、とりあず当面は今まで通りで行くわ、それで良いんでしょう」


「うむ。案ずるな必要ならば適時必要なアイテムは作ってやる」


 その辺はなんだかんだで安心している。

 シュヴァエモンは厳しい事を言いつつ、大抵の事ならお願いすると渋りながらも受け入れてくれるから。


「ん? 話は纏まったんだろう。それな行こうぜ。アタシはノブヨと一緒に戦えるのが楽しみなんだからさ」


 楽しげにゴウが手を引っ張り先に行こうと促す。


「お待ちなさい、シュヴァエモンさんも言っていたでしょう連携と戦術が重要になると、闇雲に突っ込めば良いわけじゃ無いですよ、分かってるのジャーコさん」


 相変わらずゴウにお説教しながらも、どこか楽しげな慧。

 

 そしてそんな二人のやり取りを、私は久しぶりに楽しく見ていたのだった。



 

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