下層に向けて

 慧がサクッとメールで状況を報告した後は、下層へと戻る事になった。


 あっという間にシュヴァエモンの力でヘルハウンドの群れを倒した場所へと瞬時に転移する。


 そして下のフロアに向かう前にシュヴァエモンはいつものように結晶体を砕いて手持ちの品と合成すると何やらアイテムを作り出す。


「汝ら二人にもこれを渡しておこう」


 そう言って作り出した例のサイバーなゴーグルをゴウと慧に差し出す。


「これって、ノブヨも付けてるやだよな、何かカッケェよな」


 ゴウは何者考えずにゴーグルを装備する。

 慧は少しだけ迷いながらゴーグルを掛ける。


「なっ、なんですのこれ、自分のリソース表記どころか仲間内の情報まで見れるじゃないですか」


 当然、驚く。

 私もよくよく考えたらスゲー代物だと気付いた。

 

「それって敵性反応を示す簡易レーダーも付いてるし、射撃時にはレティクルも表示されるよ」


「はああ、何言ってますの、そんなわけ……ってマジですわね」


 弓を取り出して構えを取った慧が、再び驚き興奮気味に語り始める


「あの、暢世さん。これだけでもヤバイですわよ、技術革新ですわよ、これ使ったらタクティカルヘッドセットと情報デバイスを連携させてのリソースチェックなんて必要なくなりますわよ」


「うん、それは流石に私でも分かってるから落ち着いて」


「落ち着いていられませんよ、だいたい暢世さんはなんで銃なんて使ってますの、あと貴方の周りをグルグルと周回する謎の物質とかもそうですし、意味不明すぎです」


 慧に指摘された通り、銃もそうだけど、シュヴァエモンの作り出す品は今までのダンジョン常識を覆す品ばかりだ。もし公開されればとんでもない事になるかもしれない事を改めて気付かされる。


「えっと、全部シュヴァエモンか作ってくれたモノでして……あの、だから一応私達だけの秘密ってことにしといて」


「うん、アタシは良いよ」


 あっけらかんに答えるゴウ。

 ああ見えて約束したことは破らないので心配はないだろう。


「まったく秘密もなにも、こんな規格外な事簡単に公に出来るわけ無いじゃないですか」


 慧も違う意味で秘密は守ってくれるだろう。


「ありがとう、二人共」


「うん、別にいいけどさ〜、それより早く降りようぜ」


 話に飽きたゴウが先に進みたくてゴネだす。


「待って、待って、先に行く前に、折角だから手に入れたドロップ品でめぼしい物が有ればもらって」


 私はそう言って手に入れたドロップ品を二人の前に取り出す。


「おお、忘れておったこれも使うが良い」


 その横でシュヴァエモンも赤い刀身の大きな剣を取り出す。


「おお、両手剣じゃん。もーらって良いのシュヴァちん」


 もらって良いのかと聞きながら、ゴウは真っ先にシュヴァエモンの取り出した両手剣【剛燐剣】を手にする

 

「ありゃま、要求値満たしてね〜みたいで装備出来ねーじゃん」


 しかしステータス要求値が足りず装備できなかったようだ。


「流石下層の品ね。今の私達じゃ扱いきれないってことかしら」


 慧もヴェノムシュターを手に取り装備できるか確認してみて首を振る。


「そっかー。まあ、とりあず使いたいのは持っててよ、戦闘してればステータスも上がるだろうしさ。あっ、ゴウにはこれとかもお勧めかも」


「へぇ、邪視返しの護符かデザインは可愛くないけど実戦では使えそうじゃん」


 ゴウは私から護符を受け取ると、それ以外は業魔の手甲を手に取った。

 慧はヴェノムシューターとは別に短剣のヘルファングを手にする。


 アイテムの分配が終わったので次は今後の戦闘に関しての相談。


「えっとね。これからのフォーメーションなんだけれど……」


「それなら大丈夫です。悔しいですが私達の実力では下層階の敵に対応出来ないでしょうからしばらくは後方で待機させてもらいます」


 いわゆるパワーレベリング。

 私が倒してゴウと慧が倒した敵の幻想素子を吸収するスタイルで行くつもりだろうけど。


「嫌、それはならぬ。戦いはステータス以上に実戦経験が物を言う、戦闘の機会は逃すべきではないな」


 案の定、実戦重視なシュヴァエモンから待ったが掛かる。


「おお、シュヴァちん分かってる〜」


 恐らくパワーレベリングに納得いっていなかったゴウは逆に喜びの声を上げる。


「しかし、シュヴァエモンさん。現実問題として私とジャーコさんでは……」


「なに、ステータス的には暢世より汝らの方が遥かに上だ」


 うぐっ、気にしてることをハッキリと言ってくれる。しかし事実は変わらないなので、二人には自分の口から伝えた方が良いだろう。


「私ってラック特化型みたいでさ、通常の能力値はほとんど上昇しないんだよ」


「ううん!? なんで、なんでノブヨはそんな事わかるのさ?」

 

 慧はともかくゴウでもおかしいと思ったらしい。

 そして、その答えはシュヴァエモンが告げる。


「我はステータスを見ることができるからな」


「「マジ(ですの)」」 


 その言葉に二人が共に驚く。


「うん、間違いないよ、二人も見てもらう?」


「うん」

「是非」


 二人の熱い視線がシュヴァエモンに向けられる。


「ふむ、構わぬがどちらから……」


 シュヴァエモンがそう言って選ぶ前に、二人はジャンケンを始めて順番を決めていた。

 まあ、勝敗はいつも通りゴウの勝ち、慧は恐ろしくジャンケンに弱いからだ。


「じゃあアタシからお願いシュヴァちん」


「うむ、良かろう。ちなみに二人に見られても大丈夫か?」


「うん、ノブヨとケイなら問題ないっしょ」


 シュヴァエモンはゴウの承認を取り付けると、私にした時と同じように、ゴウのステータスを読み取りホログラムのように映し出す。


「ほえ〜、これがアタシのステータスか〜」


 ゴウが構わないというので私も一緒に見る。


 戦士科では学園でも抜きん出ていた通り、戦士として資質の高さを物語る能力値。

 筋力が飛び抜けて高く、続いて生命力、敏捷性と高い値になっていた。幸運値はそれらに比べれば並で、それに比べると知力と精神力に関してはほとんど上昇していなかった。


「まさに脳筋ですわね」


 率直な感想を慧がもらす。


「えー別にいいじゃんかよー、前衛ならさ」


「うむ、確かにダメージディーラーとしては優秀だがこの知力はともかく、精神力の低さは精神攻撃系に弱くなる、汝の弱点となるので気を付けるが良い」


「ふーん、そうなんだ……うん、気を付けるよシュヴァちん、サンキュな」


 珍しくゴウが素直に話を聞いていた。どつやらゴウの中でもシュヴァエモンには一目置いているようだ。まあドラゴンを一撃で倒したと聞けば当然かもしれない。ゴウに取って強いって事は重要な価値基準だから。


「うむ、では次はそなただな」


「ええ、よろしくお願いしますわ」


 神妙な顔で慧が頷く。

 するとゴウの時と同じようにステータスが映し出された。




 






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