無謀な二人

 暢世さんとの通信が途絶えて一ヶ月。

 最後の生体反応の消失から生存は難しいと判断され、名目上はエム・アイ・ディーmissing in dungeon扱いですが救助隊の派遣は中止となりました。

 エム・アイ・ディーの規定により半月後に死亡として公表される事も決定事項だそうです。


 もちろんわたくしはそんな扱いに納得していません。

 目の前で暢世さんの遺体を確認しない限りは絶対に。

 そして、わたくしと同じ気持ちのもう一人。


 蛇光院豪姫ジャコウイン ゴウキ……ジャーコさん。

 昔からの悪友と呼べば良いのでしょうか、良いも悪いも含めて昔から三人一緒でした。

 お嬢様気質で周りに馴染めなかった私の数少ない友達……いえ親友。

 三人の誰が欠けても、それは自分を失うのと同じくらいお互いが、お互いに大切な存在。


 だからでしょう。

 二人して無謀な行動に出てしまったのは。

 わたくしに甘いお父様も今回はきっとお怒りになるに違いない。


 だって下手をすれば暢世さんの二の舞い。


 でも、そう、そんな事頭で理解していても、私とジャーコさんは、暢世さんが亡くなったという事実を何もせずに受け入れる事が出来なかった。

 

 だからわたくしとジャーコさんは侵入したのです。

 暢世さんが行方不明になった為、立入禁止となったダンジョン『境界の地下神殿』へと……。




 そして今いるフロアは地下十八階。

 このダンジョンは上層階に関しては教習に使われるくらい難易度は低いのですが、地下十階層を超えた途端に難易度が急激に上昇します。そのため、十階層より下は、学園の生徒の立ち入りが固く禁じられています。


 しかし、わたくしとジャーコさんは持てる力を最大限に発揮しなんとかここまでは来れました。


 でも、どうやら限界は近いようです。

 正直こんな所で苦戦していたら、とても暢世さんが居たと思われる三十階への到達は難しいと言わざるを得ません。

 それはここまで一緒に来たジャーコさんも感じていたようで。


「なあ、ケイ。お前だけでも引き返しても良いんだぜ」


 そう言ってくれたジャーコさんの顔は、見たこともない優しい顔をしていて。

 どうやらわたくしの事を気づかってくれているようです。


「はあ、何を言い出すかと思えば気持ち悪いですわね」


「なっ、気持ち悪いとはなんだよ。アタシだって色々と考えてだな」


「どうせ、自分が責任を取らなきゃとか思っているのでしょう?」


「当たり前じゃんか。探求者になるように誘ったのはアタシだからさ。本当は暢世、普通のガッコ行きたかったの知ってたのに、離れたくなくてさ、今はこうしてケイまで巻き込んで」


 確かに最初この学園に入りたいと言い出したのはジャーコさん。

 わたくしと暢世さんはジャーコさんの適正判断に付き添いで付いて行っただけでした。

 そこでついでにと誘われ、物珍しさもあって、適正判断を受けたところ、わたくしと暢世さんも探求者シーカーの適正有りと判定されたのです。

 適正有りと分かってからは、ジャーコさんから猛烈な勢いで、この学園『STACスタック』へ三人で一緒に行こうと誘われました。


 わたくしも最初は危険だからと両親に反対されていて……でも親の力を借りず自分の力で道を切り開く可能性が自分にも有ると分かり、自分で決断して誘いに乗ったのです。


 だからこそ、ジャーコさんには大いに言ってやる必要があります。


「わたくしは自分の意識でこの学園に入ると決めたのです。切っ掛けは確かに貴女ですが決断したのはわたくしです。だからわたくしが、まるで流されてしかたなく決めたような事二度と言わないでください、今回同行したこともしかりです」


 ジャーコさんは、わたくしの言葉に一瞬ぽかんとアホ面を晒したと思えば、今度は照れてそっぽを向きながらボゾボソと呟く。


「えっ、あっ、うん、ゴメン……それからアリガト」


「いえ、分かってくれれば良いんです。それに暢世さんも同じだと思いますよ」


「……そうなのかな?」


「ええ、愚痴りはするかもしれませんが決して責任を貴方に押し付けるような方では無い。そんな事はわたくしが言わなくても分かってるでしょう」


「そうだな。うん、うん、ぐすっ。アタシは……アタシは……本当にいいともだぢを持ててヨガっだよー」


 わたくしの言葉で暢世さんを思い出してしまったのか涙ぐんで鼻を垂らすジャーコさん。

 抱きつこうとしてきたので頭だけ横に逸らさせ、垂れ流す粘液がわたくしに付かないようにします。


 ひと通り泣き止むのを待って落ち着いた所でわたくしはジャーコさんに尋ねました。


「それより、差し当たっての問題としてどうしますのアレ」


 わたくしは遠目でも確認できる巨大なアレを指差しました。


「でけーよな。ゴーレムかなアレ」


「おそらく。ですから元の素材で対処法が変わってきますわよ」


「分かってるってば。まあ、取り敢えず、刃が通るんなら何とかなるっしょ」


 そう言うとジャーコさんはゴーレムと思われる巨大なアレに突撃をしかけます。


「はぁ、結局それですか」


 続いてわたくしもすぐ後ろに付いて行き、弓での射撃体勢に入る。

 もし魔法職がいればそれほど悩むことなく、簡単に倒せる相手なのですが、物理しかないわたくし達はコアを砕いて倒す方法しかありません。


「だって仕方ないじゃん。ワタシとケイしかいないんだからさ」


 ジャーコさんはその辺は理解していたらしく、ギリギリまで接近すると、相手に向かって大きく飛び掛かり、その勢いに任せた斬撃をゴーレムらしきモノに叩き込みます。


「おっ、手応えアリ。どうやら硬さは並だぞ」


「ええ、どうやらボーンゴーレムみたいですわね。金属系ゴーレムじゃなくて幸いです」


 見た目、スケルトンのような骨の集合体がわたくしの目でも確認出来ました。

 本当に、これが金属系なら物理系攻撃しかないわたくし達では面倒になるところでした。


「ワタシも取り敢えず、適当にぶった切ってコアを探すから、そっちもヨロシクな」


 ジャーコさんに言われるまでもなくわたくしもコアがありそうな位置へと狙いを定め射る。


 取り敢えず人間でいうと脳と心臓付近に数発矢を放っても手応えはありません。

 続いて正中線に添って射抜いてみましたが駄目でした。


「ジャーコさん。胴体出はなく手足を狙ってみて下さい」

 

「アイよ〜」 


 ジャーコさんはわたくしの指示通りゴーレムの手足を崩していく。相手からの攻撃をカウンターという形で。

 本当に恐ろしい戦闘センスです。

 いくら実家が武術道場で、昔から戦闘術を叩き込まれたているとしても、あそこまで見事なカウンターはそうそう決められるものではないはずです。

 そうわたくしが思わず感心しているとコアの位置に当たりをつけたジャーコさんから声が掛けられる。

 

「ケイ。右肩、集中攻撃して」


 すぐさま声に従い右肩へと集中して矢を放ちます。

 しかし、矢は全て薙ぎ払われて届きません。

 ただ、今の行動で分かってしまいました。


「当たりですジャーコさん。右肩を明らかに庇っています」


「オッケー、それなら全力で行くぜ」


 ジャーコさんがカウンター狙いだった攻撃スタイルを変えて一気に攻勢に入る。

 わたくしも援護するように矢を放つ。


 ボーンゴーレムも両手を回転させるように振り回して反撃に出る。

 それにより矢が薙ぎ払われ打ち落とされる。


 しかし、ジャーコさんはその攻撃を見切ると左肩へと強力な一撃。

 バスターソードが見事肩を打ち砕き中のコアまで破壊する。

 コアを破壊されたゴーレムは形を保てなくなり崩壊していく。


「さすがですジャーコさん」


 わたしくしの褒めの言葉に笑って答えるジャーコさん。


 油断があるとすればその一瞬だった。


 後方から飛んできた火球が、ジャーコさんを捉えると爆発し弾き飛ばす。

 その衝撃は大きく、彼女はダンジョンの壁側まで弾き飛ばされ、打ち付けられる。


 すぐさまわたくしが近づきヒットポイント補給薬を飲ませて対処する。


「ちくしょう、油断した」


「済みません。わたくしも迂闊でした……」


 そう相手がボーンゴーレムの時点で考慮するべきだったのです。ボーンゴーレムはゴーレムという魔法生物でもあると同時に、骨を組み合わせたアンデッド系のモンスターでもあるという事。

 つまり、その作り手がその場に居てもおかしくない事に。


「どうやら、ボーンゴーレムはネクロマンサーとセットだったようですわね」

 

「死人使いか〜、ちょっとやな相手だな」


 回復し立ち上がって体勢を立て直したジャーコさんも少し嫌な顔をする。

 今のわたくし達にとっては、死を直に連想させる精神的にも嫌な相手でもあります。


「取り敢えずわたくしが狙撃して牽制します」


「りょ。とりあず取り付いてみるわ」


 作戦といった作戦もなく、兎に角わたくしが弓で牽制し、なるべく魔法攻撃を阻害します。その間に近づいたジャーコさんが接近戦でかたを付ける流れになりました。


 ネクロマンサーは無作為にわたくしとジャーコさんを狙って火球を連発してきます。

 わたくしも負けじと、火球を避けながら華麗に弓で反撃します。

 すると、わたくしの攻撃が煩わしいのか攻撃の比重がこちら側に集中しだしました。

 勿論そんなチャンスを見逃すジャーコさんではありません。

 上手く火球を避けながら接近すると、両手剣による重撃を放ち、先程のお返しとばかりにネクロマンサーを吹き飛ばす。


「やりましたわ」


「ちっ、まだだケイ」


 重撃を放った後、咄嗟に後方に飛び退くジャーコさん。

 後方のわたくしには見えなかったモノが彼女には見えていたようです。


 それは地中に刻まれた召喚陣。

 その召喚陣が発光し、陽炎のように揺らめくシルエットが現れる。


 どうやらネクロマンサーは二体目のボーンゴーレムを作り出したらしく、見た目は前回より凶悪そうな奴です。


「ちょ、ひど、両手が斧でに全身ニードルなんて殺意マシマシでしょう」


 どうやらジャーコさんも同意見らしく狼狽える様子ですが、何故か口角が上がって嬉しそうに見えるのは戦闘バカゆえでしょう。


 ある意味頼もしくもあります。


 ただ、そう、そのボーンゴーレムが際限なく現れだし、少しづつ押され始め、嬉しそうにしていたジャーコさんの顔が引きつるまでの話しで……。


 



 


 



 




 


 


 



 



 


 


 

 

 

 







 

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