首輪
流れ込んできた意識が私の頭の中に直接話しかけてくる。
『ヨクゾワガハイをタオシタ、ツヨキモノよ』
「えっと、もしかするとアナタ?」
消えかけているケルベロスに目を向ける。
『ソウダ、ヨクぞジュバクからカイホウしてクレタ』
どういう理由かは分からないけど、どうやらケルベロスは望まない形でここに居たようだ。
『コレはワガハイをタオシタアカシとカイホウしてくれたレイだ』
頭の中の言葉と共に、空を舞う幻想素子が集るとなにやら形取る。
それは巨大なトゲ付きの首輪。
大きさ的に私の身長の倍以上でどう見ても普通の大きさではない。
「いやいや、これをどうしろと」
『ワッハハッ、ヨロコベ、ワガハイはナンジのチカラとなろう』
さっきから思っていたが、こいつ一方的で話しを聞かない奴だ。
だいたいこんな巨大な首輪なんて使い道がないじゃないか、そう思っていると。
「暢世よ、それを媒介にすればいつでもケルベロスを呼び出す事が可能だぞ、地獄の番犬を手懐ける事が出来たということだ喜ぶが良い」
ケルベロスに呼応するかのように、シュヴァエモンも勝手にウンウンといった様子で納得して解説してくれる。
説明通りなら、確かにケルベロスが呼べるとなると心強い。
ただ、話を聞かないこいつがちゃんと言うことを聞くのだろうかと疑問が残る。
『デはな、ヌシよ、コンゴトモヨロシクタノムぞ』
そんな疑念を抱いている内に、これまた一方的に声が途絶える。
どうやら幻想素子を全て吸収し終えた事で繋がりが途切れたようだ。
「ねえ、シュヴァエモン。本当に大丈夫なのかな」
仮に呼び出してコントロール不能にでもなったらヤダ。またアレとやり合うのはしんどい。
「なに心配はいらぬだろう。媒介を使って召喚するのであれば、呼び出した者の命には従うだろう」
「えっ!? そうなの、じゃ普段行っている召喚は違うの? あれ媒介とか何もないけど」
「それはな、召喚陣には従属の式も組み込んでいるからだ。危険なのはそういった式も無しに格上を呼出した場合だ。間違いなく命を取られるか暴走する」
知らなかった情報に驚く。
召喚士自体が少なく、個別授業がない。
一般の魔法講義でもさほど触れらなかった。
受けた説明も、召喚士は位階に応じた使い魔を召喚して戦わせるという大雑把なもの。
「えっと、それでもこの大きな首輪はないんじゃないかな、この大きさだとアイテムボックスにも入らないし」
「ああ、それなら心配いらぬ」
シュヴァエモンはそう言うと杖を首輪にかざす。
すると首輪は縮小しながら、最後はスノウドームのような球体のガラス玉に変わる。
「えっと、これはどうやって使うの? もしかして投げたら球が割れてケルベロスが出てくるとか」
ガラスのような球が、一瞬モンスターを出し入れするボールに思えた。でも、どう見ても投げたら砕けて割れてしまいそうだ。
「そんな訳あるか、そのスフィアは暢世の排出される魔法力を少しづつ吸収してチャージする。チャージが完了すれば、いつでも呼び出せる仕組みだ」
うーん、チャージが居るのか、やっぱ強力な召喚を頻繁に使うと難易度が下がってしまうからだろうか。私的にはイージーモードは大歓迎なのだが。
「ふむ、なんでチャージなんか必要なんだと不満げだな。ちゃんと理由もあるぞケルベロスは戦って分かったと思うが強力だ。現時点であれほどの個体を呼び出すためには今の暢世の魔法力では足りん。だから呼び出すための魔法力を貯めておく必要があるのだ。分かったか」
「おーけー、理解したわよ。まあいざという時の最終兵器とでも思っとけば良いのよね」
「そうだな、その感覚で良いぞ。ちなみにチャージサイクルは今の目安だと一日に一回と言った所だな」
なるほど、それなら一日一ボスでケルベロスに当たらせれば楽して勝てるのでは……なんて考えていると、シュヴァエモンがアイテムを手渡してくる。
「汝が良からぬことを考えている間に鑑定を済ませておいたぞ」
どうやら私が試行錯誤している間にケルベロスからのドロップ品を品定めしてくれていたようだ。
ちなみに手に入れたのは【ヘルズファング】という牙を模した短剣と、【ヘルズナックル】というメリケンサックにトゲが付いた、ヒャッハーなならず者に似合いそうな武器を手に入れた。
そしてケルベロスを倒した事で最も重要な点。
それは門が開いた先に下へと降りる為の大階段が見つかった事だった。
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