新兵器

 シュヴァエモンの助力でインターバルをとっての第二ラウンド。


 私がカッパー君に変わって呼び出す召喚魔は防御特化型。イメージしたのは……。


 某妖怪アニメに出てくるタフで無口なナイスガイ。


 そのイメージが反映されたのか現れたのはダンジョンでトラップとして現れるモンスター。


 動く壁のウォールモンスター。

 個体名は無いので発想元から咄嗟にヌべーと名付けた。


 ヌべーの大きさは、約十メートル程で、ケルベロスの攻撃を受け止めるには充分な大きさ。

 それこそ人間程度なら押し潰せてしまえるだろう。


「ヌべー、防御は任せたわよ」


 ヌべーに声をかけ、私はその背中に身を隠しながらジワジワと接近。攻撃距離内に入ると、見越していたようにシュヴァエモンもケルベロスの拘束を解く、それを合図に銃撃を再開する。


 そしてこれが思いの外有効だと気付く。

 遮蔽物に隠れながらのハイドアンドアタックは銃撃主体の私には持って来いだったからだ。


 組み付かれてきたら、また展開も変わるだろうが今は双方が距離を取ったことでの遠距離戦。


 ヌべーもダメージを食らっていない訳ではないがその防御耐性の高さには目を見張るものがある。

 特に冷気に対する抵抗力は抜群で殆どヒットポイントが減らない。それ以外の攻撃には耐性が無いものの耐久値の高さから、まだまだ余力充分である。


 優秀なタンクのおかげで、私も攻撃に専念出来、確実にケルベロスのヒットポイントを削り取って行く。


 何となく勝ち筋が見え、心の中で「勝った」と思った。

 でも、それがイケなかった。

 約束事というものはそういうものだと忘れていた。

 

 突然ケルベロスが今までとは違う動きを見せ始めると、三つの首が同時に咆哮を上げる。すると前面に魔法陣のようなものが展開され、そこからビームのようなものが放射される。

 そしてビームは一直線にヌべーを貫通した。


 そう、壁をぶち抜いての貫通攻撃である。

 つまり、ヌべーの壁としての役目を終えてしまったのだ。

 ヒットポイント的には余裕はあるが貫通されてしまえばこちらにも攻撃が届いてしまう。


 こうなると勝敗は、私が相手を削り切るか、ケルベロスが貫通攻撃で私ごと貫くかのどちらかだ。


 もちろん勝つためには、ヌべーが耐え抜いて、私の身を隠す事で被弾率を下げてくれているいるのが前提条件。


 でも……。


『火力が足りないわね』


 心の中で愚痴る。

 確実にケルベロスのヒットポイントは削ってはいる。しかし、いつ貫通攻撃が当たるか分からない私にとって長期戦は不利。


 そう分かっていても、勝つためには地道に攻撃し続けるしかない。


『ああ、もう、やってややろうじゃないの。こちとら伊達にラック特化じゃないんだからね』


 私の唯一の取り柄であるラックの高さに掛け、貫通攻撃が当たらないことを祈りつつ、こちらの攻撃を続けようとする中、シュヴァエモンの声が響く。


「暢世。これを使え」


 そう言って放り投げられた黒い塊。

 イタリアの有名な銃器メーカーのМ93をモデルに創られた架空銃器。

 ロボット警官愛用の大型ハンドガンを受け取る。


 実物というか架空の銃は、見た目的にゴッツイ大型の拳銃だったが、渡された銃は私の手に合わせて少し小型化し扱いしやすくしてくれているようだ。


 確かに二丁拳銃であれば火力の底上げが出来る。

 魔法力の消費はドーピング丸薬でどうにでもなるし。


 しかし、言いたいことはある。

 別に私はリアル兵器重視ではないので架空の銃器に抵抗ない、いや寧ろ好きだ。だがそれにしたって右手にバントラインスペシャル、左手にオートナインは節操がない。

 バランス的に言えば92Fあたりの二丁持ちが絵的にもベストだと思うけど……まあ、こんな事をシュヴァエモンに言った所で理解されるはずもない。


 心の中でそんな事をボヤキながらも、なんだかんだで心強い支援に『ありがとう』と感謝の念は送っておく。


 実際火力は単純に倍、いやオートナインはフルオートなので実質倍以上になった。ぶっちゃけその火力の高さに、銃の好みは別にして最初からこっちを渡してくれても良かったのにとまで思ってしまう。


 その手数を増した私の攻撃に、ケルベロスも負けじと貫通攻撃を連発してくる。

 ヌベーも何とか耐えてくれて、私の身を隠す盾を努め続けてくれていた。

 しかし、何発かの攻撃は私をかすめ、それだけでヒットポイントが大きく削られる。 

 

 でも、隠れ続けてていても勝ちはない。

 私はオートナインによるフルバーストも利用し、怯むことなく攻勢を強める。

 貫通攻撃の後に多少隙が生まれるのでギリギリまで攻撃を続け、反撃されそうなタイミングでヌベーに隠れる。


 これを繰り返し、綱渡り的に何とか真ん中の頭を潰した。


 もちろんこれで勝ったなんて思わない。

 そんな事を思えば、どうせ頭が再生したりするのだから。


 私は気を抜かず今度は右側の頭を集中攻撃する。


 集中攻撃をしながら、反撃がくるいつものタイミングでヌベーに隠れる。

 すると飛んできた攻撃は炎と冷気の攻撃。

 どうやらあの貫通ビームは三ツ首が揃わないと撃てないらしい。


 もちろんそんな事でまだ『勝った』なんて思わない、絶対に。

 だから私は油断せず、活路の一つとしてマグを使った反射射撃を行う。


 ケルベロスの三ツ首のそれぞれが属性を伴っているなら、真ん中の雷を使っていた頭を潰した今、攻撃を無効化されないのではないかと期待して。

 そして私の予想は的中した。

 雷の弾丸は打ち消される事なくケルベロスに直撃しダメージを与えたのだ。


「よっしゃあ」


 思わず喜びの声が漏れる。


 私はここで一気に畳み掛けるべく、ヌベーに隠れながら手を休めることなく射撃を続ける。

 反射が利用できる事で隠れたまま攻撃が可能になったからだ。


 そうして雷撃弾をふんだんに浴びせて右側の頭も潰す。これで氷も来なくなった。

 炎だけになれば私には効かない。

 でも、もちろん勝ったとは思わない。


 私は壁に隠れるのを止め前に出ると、残った左の頭に銃弾を浴びせまくる。


 するとケルベロスも遠距離戦は不利だと理解したようで、火球の攻撃は止めると、こちらに向かって突進をしてきた。

 勿論こちらもすぐさま対応する。

 突進を止めるためヌベーに前に出てもらったのだ。


 超鈍足だが少しづつケルベロスへと突き進むヌベー。猛烈な勢いでこちらに向かってくるケルベロス。

 双方が激突し「ドシン」と激しい衝撃音が響く。


 すぐにヌベーのヒットポイント残量を確認。

 半分は切ったがまだ耐えられる。


 そしてヌベーがなんとかケルベロスの突進を受け止め阻んでくれた事で、地獄の番犬の動きが止まる。


 勿論私はその隙を見逃さない。

 丸薬で魔力を補充しつつ、一気の集中砲火で左の頭を潰しに掛かる。


 兎に角、丸薬でドーピングしつつエンドレスで撃ち続けるしかない私。


 我武者羅に撃ち続けていると、突然左の頭は遠吠えをあげ動きを止める。


 一瞬再生を疑ったが体から幻想素子が溢れ出し崩れていく、攻撃も当たらなくなったので、そこでようやく倒したと実感できた。


 そして流れ込む幻想素子と共に頭の中に何者かの意識が流れ込んできた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る