番犬

 次のフロアにたどり着く直前。

 漂ってくる雰囲気。

 それがあの時と似ていた。


 そう初めてこの階層に飛ばされた時と同等の強いプレッシャーが奥から伝わってくる。


「ねえ、シュヴァエモン。またドラゴンかも」


 もしまたドラゴンだったらという恐怖から無意識にシュヴァエモンのローブの裾を握る。


「ふむ、この気配は同等ではあるがドラゴンではないな、取り敢えず姿が見えるところまで近づくぞ」


「あっ、うん」


 シュヴァエモンの言葉に促され、慎重に通路を進んで行く、すると突然前が開けた大広間に繋がった。

 さらにその奥に見える大きな影。


 ハッドにも敵性反応として表示される。

 ズームアップ機能を使い相手を調べると、形的にはドラゴンというより四足歩行の獣。


「犬?」


「ああ、しかし、あれは中々の大物だぞ、この世界では地獄の番犬としての役割が与えられていたか」


 その言葉で理解する。

 地獄の番犬といえば例のアレだ。

 でもそれって神話クラスの魔獣で下手したら伝説級のドラゴンよりさらにヤバい存在かもしれない。


「えっと、無理、無理、絶対に無理」


「そう恐れるな。悪魔などもそうだが依代が無い状態で顕現している時点で本来の力よりは大分抑えられておる。強さ的には最初に我が滅したドラゴンと同等レベルだ」


「イヤイヤ、シュヴァエモン基準なら楽勝だろうけど私はあのドラゴンに全く歯が立たなかったんだから」


 あの時の無力感を思い出し身が竦む。


「それはあの時の暢世であろう。今の暢世は難敵を三体も倒した成長した暢世だ。大丈夫今の暢世ならば勝てる安心するがよい。それにいざとなれば我が出る。だから今の自分の力を試す意味で挑戦してみよ」


「うっ、ぐっ……ああっもう分かった。分かったよ、やればいいんでしょう、やれば」


 確かに怖いし勝てるとは思えない。

 でも、もう一つ隠しきれない気持ちも確かにあった。

 それは、よりどれだけ自分が強くなったのかを知りたいという思い。

 シュヴァエモンがあの最初のドラゴンと同等というのなら、あの無力だったあの時よりどれだけ成長出来たのかを試すいい機会でもある。


「メグ、ラグ、ドグ、行くわよ」


 収納していたオービタル達を展開させる。

 次に私の最大戦力でもあるカッパー君を召喚陣で呼び出す。


「カッパー君。また宜しくね」


「ほお、なるほどな名前で縛ることで同一個体を呼び出したか、やるではないか」


 なぜだかシュヴァエモンに褒められた。


「じゃあシュヴァエモン。バフをお願い」


 念には念を入れ、悪魔と戦ったときのように身体強化のバフをお願いする。


「いや、アヤツなら必要なかろう、近づき過ぎなければ大丈夫だ」


「えっ、エエェェ、そんなー、なんでよー、酷いよ……もう、シュヴァエモンのバカァァァあ」


 バフをくれなかったシュヴァエモンに文句を言いつつ地獄の門番たる魔獣ケルベロスに接近する。


 近づき過ぎてマルカジリされないように気をつけつつ、初手でラグ達を展開させトリニティショットをブチかます。


 上手く行けばこの一手で倒せるかも、なんて淡い期待を抱きつつ、最速の三連射。


 しかし、期待していたヴォーテックスは発生せず魔力弾は霧散して消え失せた。


『これって、どういう事?』


 攻撃が効かなかったことを考えてる間に、こちらを敵と認識したケルベロスが咆哮を上げ襲い掛かってくる。


 それを阻むようにカッパー君が迎え討つ。

 三ツ首の獣と銅の鱗を持つ竜もどきとの取っ組み合いがはじまる。その隙に再度ラグに弾丸を反射させて攻撃する。


 反射により炎属性が付与された魔法弾がケルベロスに届く手前、三ツ首の一つ、左の頭が睨みを利かすと、魔法弾が当たる直前で霧散する。


 そのまま睨みをきかせていた左首が大きく口を開く、すると巨大な火球が生成され、こちらに放たれる。


『まずい』


 ドグとマグは魔法でないと反射出来ない、こりゃ死んだわ。

 あーあ、確かこういう時って走馬灯ってやつが見えるんだっけ、なんて思ってると一向に熱くならない。


「あれ、平気なんだけど」


 思わず口から零れ出る言葉。

 そこにシュヴァエモンからの檄が飛んでくる。


「ぼさっとするでない、汝が装備している紅蓮竜の外套は完全炎耐性だ。あと雷撃と冷気は同じ属性で相殺するのがセオリーだ」


 なるほどこの真っ赤で派手なマントにそんな効果があることなんて忘れていた。


「なるほど、ありがとシュヴァエモン」


 シュヴァエモンのヒントからケルベロスがこちらの攻撃を無効化する理由もなんとなく想像がついた。


 うん、少し調子に乗ってたかもしれない、前回の戦いで反射での攻撃の味を占めて基本を忘れていた。


 そう、別にこいつは障壁を展開しているわけでもない、なら反射を使う必要はなかった。


 私は素直にケルベロスの頭目掛けて銃撃を開始する。狙うのは左以外の顔。理由は簡単、マントがある以上炎は怖くないからだ。

 警戒すべきはそれ以外の攻撃。

 

 出来ればその攻撃を食らう前に倒しておきたい。

 だから、カッパー君が押さえつけてる間にありったけの弾丸を魔法力が尽きるまで撃ち続ける。


 しかし、予想以上のタフさで攻撃を耐え抜いたケルベロスは反撃に出る。

 攻撃は嫌な予想が当たり、ケルベロスの真ん中の頭は雷を、右の頭は氷結での攻撃だった。


 シュヴァエモンの助言通りに雷撃はマグに反射させた雷弾で、氷結攻撃はカッパー君が身を挺して防いでくれた。


 なんて忠誠心。

 すこし感動してしまった。


 だがその代償は大きく、サイバーゴーグルで確認したカッパー君のヒットポイントは半分以下まで低下していた。

 持久戦になれば長くは持たない。状況によっては隙を見て交代が必要になるかもと思案しつつ、攻撃の手は休めない。


 カッパー君も奮闘して得意の爪と尻尾で応戦してくれているが決定打にはならない。


 確実にケルベロスのヒットポイントを削っている手応えはあるが底が見えない。


「暢世よ、ケルベロスの動きを一旦封じる。その間に召喚魔を入れ替えろ」


 ここでようやくシュヴァエモンからのサポートの声。


 本音を言えば攻撃に手を貸してもらいたいのだが、それでもヒットポイントがやばくなりつつあるカッパー君を交代出来るのは有り難い。


 私は、シュヴァエモンの力で動けなくなったケルベロスから大きく距離を取る。

 カッパー君は下がらせ、魔法力を回復させる丸薬を飲み次の召喚に備える。


 そして私がイメージして呼び出したのは……。



 

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