必殺技?

 グダグタと魔法攻撃を撃ち合い防ぐだけの攻防。どちらも決定打を欠く展開は、絵面的には面白みも何も無い、これがプロの探求者の提供する動画ならアン・ベストバウト間違いなしだろう。


 しかし、こっちは命懸けである。

 少しでも下手を打てば死ぬ危険性もある。緊張感を切らすことは出来ない。そんな中で勝ち筋を探し出す。そんな器用な事『できるかー』と思っていら、気付いてしまった。

 それは敵が攻撃する時は必ず頭上に魔法を形成し放ってくると言う事。手段は氷だったり炎だったりするけど、どれも魔法は必ず真上で形成され、こちらに放たれる。


 さすがにその理由に気付けないほど私もおバカでも無い。


 私は盾を持っている敵に対する簡単な対処法を忘れていた。


 そうもっともシンプルな答え、盾を構えていない所を狙う。


 そして私にはそのための駒もある。

 戦闘中、意思伝達を早めるため三色の軌道周回型自立式自動防衛オービタルにはそれぞれ名前を付けた。

 もちろんシュヴァエモンの考えた名前ではなく、黄色にはマグ、青はドグで赤にはラグと。


 そしていまラグを私の意志でワイトセージの後方に移動させておいた。

 私の考えが正しいかを証明するために。


 丁度、ワイトセージが攻撃の為に魔法を形成しているのもチャンスだ。

 敵の意識が私に集中している所を狙い撃つ。

 そして魔弾は見事、ワイトセージの横を素通りし障壁にかすりもしない。


 私をバカにしているのか青白い骸骨姿がカタカタと笑うような仕草を見せた瞬間、炎に包まれた魔力弾がワイトセージの左腕を吹き飛ばす。


「えっ? なんで炎が」


 反射による攻撃は狙い通りだった。

 しかし、炎属性が付与されていたのは知らない。


「フハッハハ、驚いたか暢世よ、実はオービタル達には反射時にそれぞれ属性付与をするように仕掛けておいたのだ」


 サイバーゴーグル越しに聞こえる笑い声。

 どうやらシュヴァエモンはオービタル達の特性の一つとして、反射させた魔力弾に、それぞれの色に見合った攻撃属性を付与してくれる能力をつけてくれていたらしい。

 まんまとサプライズに驚かされてしまった。

 でも、その攻撃が命中したことにより魔法を阻害することは出来たらしく、ワイトセージ頭上に集まっていた魔力が霧散していた。


 私はその隙に、すぐさまマグとドグも後方に回らせ連続射撃で追撃を仕掛ける。


 反射された魔力弾は、マグの雷撃とドグの冷気を纏っいワイトセージに襲いかかる。

 障壁を展開していなかった後方からの攻撃は立て続けに命中し確実にダメージを与える事が出来た。


 しかし、残念ながら止めまでは刺せなかった。


 なぜならワイトセージが障壁を全方位で展開したからだ。


 これにより跳弾によるバックアタックはすぐに防がれるようになってしまった。

 残念ながら盾が向いてない方向から攻撃しよう大作戦は終了してしまった。


 それでも悪足掻きするように私は弾を撃ち続ける。


 しかし跳ねてどこから飛んでくるか分からない弾でも、前後左右に展開された障壁の前では、阻まれ先程のようにダメージは通らない。


 それでも闇雲に撃ち続ける私を嘲笑うかのように、ワイトセージは頭上に特大の氷塊を形成していく。


 さすがに私でも分かる……アレは完全に駄目なやつだ。食らえば即昇天間違いなしだ。

 先程までとは比較にならない冷気をこちら側にも感じる。


 多分、持てる最大級の攻撃魔法をこちらにぶつけようとしている。


「カッカカッカカッカ、シネ」


 掠れたような声が響く、賢者の成れの果てというだけあってどうやら言葉が喋れたらしい。

 そして、その気持ち悪い笑い声と共に魔法がこちらに放たれる寸前だった。

 狙っていた私は、指示を出す。

 ワイトセージの真上に移動させておいたドグ、マグ、ラグの力で魔法を反射させ、氷塊を真下へと押し出したのだ。


 案の定、指向性を与えられる前に、予期せぬ方向へと動き出した魔力をコントロールし直すのは用意ではないらしい。

 ワイトセージは自分の魔法をコントロールを諦めキャンセルしようとする。

 しかし、それにより大きな隙が生まれる。

 私はそこをすかさず狙う。

 上空に待機さていたままのオービタル達に向かって最速の三連射。

 ドグ、マグ、ラグが魔力弾をほぼ同時に反射し真下へと跳弾させる。

 それぞれに炎、氷、雷の攻撃属性を付与された弾丸がホワイトセージに襲いかかる。


 ふっふっふー、これこそ私が編み出した必殺ショット。名付けて『トリニティショット』だ。


 当然、魔法をキャンセルした直後のワイトセージにはトリニティショットを防ぎようもなく、頭を撃ち抜かれ膝から崩れ落ちる。

 そして『勝った』そう思った時、突如信じられないほどの魔力と思われる渦が天を貫く勢いで巻き上がる。


「ほお、見事にヴォーテックスを発生させたな。本来、攻撃属性は二属性だけでは反発し合うものだが、三属性を完璧に調整してみせることで故意に魔力暴走を引き起こすとは、やるではないか」


 なんか、したり顔で頷き、温かい目を送ってくるシュヴァエモン。

 私にはさっぱり意味が分からない。

 確かに魔法の講義で攻撃属性はそれぞれ反発し合うみたいな話は聞いていたけど、三属性が混ざると爆発するなんて聴いたこと無かったからだ。


「えっと、そのどういう事?」


 理解不能な私はシュヴァエモンに説明を求める。


「ふむ、理解せずにやったのか……それそれで、あれだな流石は運に特化しているということか。まあいい、簡単に説明すればアライメントでシナジーだ」


 いやいや分からんし。

 そんな思いが思いっきり顔に出ていたのか、シュヴァエモンが私の顔を見るなり『ゴホン』と、ひとつ咳払いして改めて説明を始める。


「三属性は全く同じ魔力量で配列されると反発力から一転して、相乗的に魔力を膨張させる特性があるのだよ、無属性攻撃魔法の基礎でもあるな」


 えっ、そうなの?

 そんな事、講義で聴いたこと無かった。それに無属性の攻撃魔法はかなり上位の魔法で第七位階以上でないと授けられないはず、つまり私とは無縁なもののハズだった。


「つまり、オービタル達のそれぞれの属性が上手く重なり合って魔力爆発を引き起こしたと?」


「そうだ。爆発というよりは魔力の暴走だがな、だから渦に巻き込まれれば爆発より酷い有り様になるのは見ての通りだ」


 なるほど、なんとなく理解できた。

 細かい原理は置いておいて、トリニティショットはシュヴァエモンが言うヴォーテックスを引き起こして相手に強力なダメージを与えてくれると言う事を、つまり私は本当に強力な必殺技を編み出してしまったのだ。

 これって……やばい私のオリジナル必殺技なんて……めっちくちゃアガる。

 そもそも召喚士なのにガンスリンガーな必殺技なんて良いのかとも思うけど。

 でも今まで何もできなかった私が手に入れた強力な攻撃手段だ、今後活用しない手はない。


「ねえ、シュヴァエモン。これならドラゴンにも勝てる?」


 私はあのときのドラゴンを思い返しシュヴァエモンに尋ねる。


「そうだな、魔力の渦は本来なら広範囲に広がるものだからな、今回のような小さな個体よりはドラゴンのようなデカブツの方が向いていると言えるな」


「んん!? あれって広範囲に広がるものなの?」


「あれはワイトセージが障壁を張っていたから外に広がりきれなかっただけだからな、注意しなければフレンドファイアどころか自分も巻き込まれるぞ」


 えっと、つまり使い所が難しいようだ。

 折角の必殺技なのにちょっと残念。

 いや、でもここぞと言う時にしか出せないなんてのは逆に必殺技ぽいかも


 そんな感じで目の前で起きた予想外の現象をシュヴァエモンが説明してくれている内に、いつものように輝く幻想素子ファンタズマゴリアが舞い上がり、私の中に流れ込んできた。

 前回同様一部はシュヴァエモンが結晶化させて保管する。

 また、オービタル達のような良いアイテムお願いしやす。


 

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