難敵

 目を覚ますと薄暗い闇の中。


 悪夢のようなダンジョンが夢オチで、目が冷めたら家のベッドなんてことには……ならなかった。


 目の映るシュヴァエモンの得意げな姿。


 きっと自分の生み出した空間に私が満足したと思っているのだろう。


 ああ、悔しい、悔しいけど認める。

 ごった煮のカオス空間だったけどアトラクションや何やらの再現度は完璧だったから楽しめた。

 そう、楽しんでしまった。

 だから、あの顔にとやかく言う事が出来ないのだ。


『くっ、これで勝ったとおもうなよ』


 心の中で負け惜しみをこぼしつつ、ドロップ品の【剛魔の手甲】と【デビルズホーン】を回収しながら次のフロアに向かう。


 シュヴァエモンにせっつかれながらも、ビクビクしながら慎重に歩みを進めて行く。

 すると見えてきた青白く発光するシルエット。

 戦々恐々しながら様子を伺う。


 ……うん、今までより小さい。

 それだけで少し安心する。


 しかし、その安心感をシュヴァエモンの一言が吹き飛ばす。


「うむ。今度も少し厄介な相手かもしれぬな」


「えっ、どいうこと?」


「あれはワイトセージという輩でな」


「ホワイトソーセージ?」


 思わず聞き返しながら、白いソーセージって美味いのかしらなんて思ってしまう。


「ちゃうわ……って、こほん。彼奴はワイトのセージ。つまり賢者と呼ばれたもの者の成れの果てだな」


 素の勘違いに珍しくシュヴァエモンがツッコんでくる。

 なんか一緒にアトラクションを楽しんだことで少し砕けたのかもしれない。

 と、そんなことより重要なのは目の前の敵なわけで。


「えっと、不死系の魔術士ならリッチの親戚みたいなものなのかな」


「まあ、似たようなものだ。ただ霊体なだけあって物理攻撃は効かぬ」


 ん?

 でも、私のバントラインスペシャルは魔力の銃弾なのだから問題ないのでは。


「それじゃあ、私の攻撃は……」


「うむ、そうなのだ。分かっていると思うが、物理攻撃が効かぬ以上やつは己の弱点である魔力系の攻撃を魔法障壁で遮断する」


 うん、まあ、そんなことだろうと思ってたよ。


「……だよねー。だからどうしたらいいのかなーって思ってさ」


 手持ちの武器が通用しない以上、攻略法が思いつかずチラチラとシュヴァエモンを見る。


「あのなぁ、暢世よ、ちゃんと考えているのか?」


「うっ、もちろんよ。だけださー、私にはこれしか無いじゃない」


 そう言って銃をクルクルと回してみせる。


「うむ、だからこそ手持ちで何としてみせよと言いたいのだが……しかたない」


「えっ、なに、なに何とかしてくれるの」


 ダメ元で言ったつもりだったので何とかしてくれそうなシュヴァエモンを期待に満ちた目で見てしまう。

 シュヴァエモンは、そんな私の視線を気にすることもなく、気安い感じで結晶化させた幻想素子を開放すると、手持ちの素材と合成する。すると何やら黄、緑、赤の三色のメカっぽい球体を三つ作り出した。


「ほれ、受け取るが良い」


 私は渡された信号機色をした球体達を見て一言呟く。


「なにこれ?」


「ふっふっふ、これはだな、暢世が見ていたアニメとやらの記憶からヒントを得たやつでな、軌道周回型自立式自動防衛ユニット【オービタル】と言う。それぞれ名前もあって黄色がマモール一号……」


「いや、名前は却下で」


「何故に!?」


 どうやらシュヴァエモンは自分の名前のセンスのなさを自覚していないらしい。

 オービタルまではそれっぽくて良かったのに。


「あと自立式ってことは、サイコなミューで動くやつではないのね」


「いや、だって汝にそんなサイ無いしな」


 うん、まあそうだけどさ。

 なんか実は秘めたる力でみたいなものには誰しもが一度は憧れるわけで。


「でも、リンクパスの応用である程度は汝の思い通りに動かすことも可能だから、思ったよりは応用は効くと思うぞ」


「えっと、じゃあやってみるからどうすれば良いの?」


「簡単だ汝の魔力をそやつらに通せ、それでリンクが繋がるはずだ」


 言われた通り三つの球体に魔力を流す感覚で触れてみる。

 すると、三つの球体はふわりと浮かび上がり私の周りのクルクルと回り始める。

 試しに、人差し指を出して黄色を指先に留まらせるように念じると、指示通り黄色だけが私の指先に球体が乗っかる。


「なに、ちょっとカワイイかも」


「気に入ったのなら何よりだ。そいつらは汝の魔力を糧に動くからな、まあ汝の魔力出力ならほぼ問題あるまいが枯渇だけには気をつけよ。あと防衛はあくまで魔法系の攻撃を反射するのみだからな、攻め手はあくまで自分で考えよ」


 私が球体ちゃん達と戯れているとなんだがシュヴァエモンが重要な事を言った気がする。


 えっと、確か攻め手は自分で考えろって……。


「なにそれ、根本的に原因解決してないじゃない」


 思わずシュヴァエモンにツッコむ。

 確かに防御面では心強いけど、いまどうにかすべきは相手の障壁を突破してダメージを与える方法な訳で。


「ほれ、取り敢えず防御面に心配はなくなったのだ後は戦いながら状況を打破して見よ」


 シュヴァエモンはそう言うとワザワザ敵を挑発するように小さな魔力弾を放って、ホワイトソーセージ改めワイトセージをこちらに誘き寄せる。


「ああ、もう、シュヴァエモンのバカ〜」


 有無を言わさず戦闘状態に入り、取り敢えずダメ元で銃をぶっ放してみる。

 ワイトセージをすぐこちらの攻撃に反応して、障壁を前面に展開すると、簡単に魔力弾を防いでしまった。

 更に攻撃を防いだ後は真上に巨大な火球を作り出しこちらに向けて放って来る。

 幸いそれはオービタルちゃん達が弾き返してくれた。

 見た目的には上位の魔法に見えたけど、こちらも防御面では負けず劣らず優秀なようだ。


 しかし、盾と盾がぶつかった所で矛盾は生じない。

 つまり待っているのは泥沼の持久戦であることは予想しておくべきだった。


 

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