夢の国
一瞬気を失った。
でも目を見開いた先には……。
「なにこれ?」
思わず心の声が口に出る。
「なに、どうせなら地上の楽しげな場所を再現してやったぞ」
得意げな顔で答えるシュヴァエモン。
なんだが少し腹が立つ。
「いやいや、これ色々とまずいっしょ」
人目でわかる世界一有名であろうネズミが闊歩し、映画スタジオのテーマパークで見かける黄色のアレも居る。他にもちょろちょろ見知ったキャラクター達が徘徊する、まさにカオスな場所。
「何が不味いのだ? 汝が好きそうなモノを集めただけだが、実際喜んで楽しんでいたであろう」
確かにそれぞれのテーマパークは色々とゴウやケイと一緒に楽しんでたけど、これは何か違う。
「いや、コンセプトというか統一感が全く無いし、これじゃあテーマパークの
「うむ、よく分かっているではないか、いずれは本当に万の享楽を集めるのも悪くないな」
私のダメ出しを意に介す事なく得気なシュヴァエモン。やっぱりなんだか腹が立つ。
いや、そんなことよりもっと重要な事があるのに目の前の異常事態に囚われて肝心なことを聞いていなかった。
「そんなことよりシュヴァエモン、ここって何処なのよ」
シュヴァエモンは地上に戻ると言っていたのに、どう見ても地上にこんな場所は無い、というかあり得ない。
「なに、ここは夢のようなものだ気にするな」
「気にするわっ! だいたい地上に戻るって言ったよね」
「だから、ここに地上を再現してやったであろう。しかも楽しみにあふれる楽園を」
「じゃあなに、これって夢オチ、夢オチなの?」
「ええい、鬱陶しい二度言わんでも分かるわ、戯け。夢みたいなものと言ったであろう。そうだなそなたらの世界では、なんと言ったか……そう、ぶいあーるとかめたんがすとかいうやつだ」
VRは理解できるけどメタンガスって……。
「もしかしてメタバース?」
「うむ、それな」
「いや、それな、じゃないし」
「なに、ちょっとしたジョーズというやつだ。気が楽になったであろう。ワッハッハ」
シュヴァエモンが楽しげに笑う、もうジョーズに突っ込む気力も萎える。
「あーもう、頭来た。いいよ楽しんでやろうじゃん。どうせ夢オチなら楽しんだもん勝ちでしょう。待ち時間だってないだろうし」
「うむ、もちろん全て貸し切りだぞ。存分に楽しむがよい」
私はそう言ったシュヴァエモンの腕を掴むと引っ張って行く。死なば諸共である。
「ほら、どうせならシュヴァエモンも楽しむわよ、こういうの体験したことないでしょう」
「ふむ。そうだな。この世界の民草の娯楽を知るのも悪くなかろう」
そう言って余裕なシュヴァエモン。
「ふっふっふー、いつまで余裕ぶっていられるかしら」
どうせなら絶叫系で攻め倒してヒイヒイいわしたるでーって、何いってんだろう私。実はテンション上がってる?
思わず自分自身を冷静に判断しつつ、予定通り絶叫系を中心にアトラクションを巡って行く。
しかし目論見は外れた、というか元々私が絶叫系得意じゃないので寧ろ当然で、それよりシュヴァエモンが何かに目醒めたのか、絶叫系を気に入ってしまい、私が付き合わされるハメになっていて……どうしてこうなった。
「済まぬな、我が楽しんでしまった」
「いや、私だって十分楽しんだから」
誘った私が先に音を上げたと思われたくなくて強がってみる。
「そうか、ならば次は」
「あれ、今度アレにしよう」
シュヴァエモンがまだ乗っていない、ヤバメのマシンを指さそうとしていたので先回りしてメルヘンチックなアトラクションを指差す。絶叫しすぎて疲れた私の心には、過剰なほどメルヘンな歌をエンドレスにリピートしてくる位が丁度良い。
「そうか構わんぞ、暢世が楽しめることが最優先だからな」
そう言ってゴンドラに見立てた乗り物へと一緒に乗り込む。女子高生と黒尽くめの怪しい男が隣り合って乗っているはたから見ればシュールな光景。
それが人形達が世界はひとつにと歌い上げる空間へと誘われて行く。
なんというか違う意味で怖かった。
「ふむ、あれは何らかの洗脳か?」
アトラクションを終えたシュヴァエモンからの一言。
「違うから、もっと夢のあるやつだから」
そう荒んだ心ではなく、もっとピュアな心で楽しむべき場所なのだろう。けっして疲れたお父さん達が休むための場所ではないはずなのだ。
「それでは次は何処にするのだ」
「そうね、じゃあ次はあれにしよう」
私は、なるべくソフトな動きのアトラクションや見て楽しむアトラクションやショーを中心にして十分に楽しんだ。
そう、すっかり楽しんでしまったのだ。
だって再現度が半端なく、どのアトラクションもそっくり同じだった。ショーなんかも完璧に再現されてて疑似空間とは思えないリアルさがあって。
どうせなら、ゴウやケイ達と一緒に楽しみたいな。
「ねえ、シュヴァエモン。これさー」
「うむ、これは我とリンクの繋がっている汝だから体感できるものだ」
「まだ何も言ってないのに」
「なに、察したというやつだ」
「残念。折角だから友達と来れたらもっと楽しかったのにな」
「それならば、リンクしていないから無理なだけでリングすれば同じ空間を共有可能だぞ」
つまりそれってゴウやケイともこのごった煮空間を満喫出来るってことで。
これは是非とも二人にも体験させてあげないと。
「ふむ。どうやらやる気に繋がったようだな」
「うん。最初はどうかと思ったけどしっかり楽しめたわ。ありがとうシュヴァエモン」
「なに、気にするな、暢世にはこれから頑張ってもらわねばならぬからな」
「えっと、それって……」
「うむ。これからボスエリアの攻略に戻るぞ」
「やっぱりかー」
ここが本当の地上じゃないから予想はついていたけど、戻ればあのデスゾーンから。それこそ今までの事が夢オチなら良いのに願いながら、私は気を失った。
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読んで頂きありがとうございます。
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