教師サイド
俺の生徒である真野日暢世の生存を示す生体モニタに変化が見られた。
強制転移から三日後のことだった。
ヒットポイントアラートが赤点滅したかと思えば、しばらくして正常な緑点灯に変わる。
可能性としてはモンスターに襲われたとも考えられなくは無いが。
生体反応が観測されたポイントから動きは見られない。
「響子先生。真野日のこの反応は?」
状況を共に観察していた保健医の
「……おそらくですが、体内に蓄積された
「そんな事があり得るのですか?」
本来なら
「通常は考え難い事です。しかしこういった状況は珍しいですから。通常ダンジョンに潜ればモンスターを倒して幻想素子を吸収するのは当たり前すぎる事なので」
「しかし、モンスターを倒せない状況下で一ヶ月間ダンジョン内で救助を待ち続けたという実例もあったはずです」
この学院の教師になりたての頃、確かそういう事件が起きたのを覚えている。
「ええ、ですが不安定要素はいくらでもあります。もしかしたら、今いるエリアの特殊効果の可能性もゼロではありません」
確かに真野日が飛ばされたのは未到達エリアである為、詳細な状況は確認出来ない。
懸念事項があるとすれば。
「そうですか。どちらにしろ救助隊がこちらに来るまで二週間。突き止めた階層まで到達するのに最短でも一週間はかかりますから。それまで持ってくれれば……」
しかし、その希望は10日経った時点で費えた。
2日起きにヒットポイントのアラートと回復を繰り返していた真野日に変化が訪れた。
ステータス状態が高揚に変化したのだ
「なぜ、いきなり高揚状態に」
俺は戸惑い響子先生に助言を求める。
「分かりません。支給品にはレッドポーションは無かったはずですが、まあ今の状態なら、恐慌耐性と高揚感を与えるもので害はないとおもいますが」
「……不味いですね。気分にのまれて変なことをしないといいのですが……って」
俺が言ってるそばから真野日の生体反応に動きがみられた。
ゆっくりと移動していくと、突然生体反応が消失した。
「これはいったい。ヒットポイントアラートは出ていなかったはずなのに」
「分かりません。分かりませんが生体反応が消失したとなると……」
教頭から無慈悲な声が掛けられる。
「実質的な死亡判定ですな」
俺はそれでも諦めきれずに食い下がる。
「しかし、直前までの生体反応は」
「仙河先生。残念ですが、こうなっては救助隊を差し向ける事は出来ません」
しかし、教頭の考えは変わらない。
いい分も頭では理解出来ていた。
ダンジョンでは生きている確証が無い限り救助活動は行われない。
生きているか分からない人間の捜索には金も時間も避けないという現実的な理由。
俺はいたたまれなくなりオペレーションルームから出て行く。
学院の片隅に設置されている喫煙ルームに足を運び一息つく。
俺は教師になって初めて自分の生徒を失った。
悔しさに空を仰ぎ見る。
だが俺以上に心を痛めるのは誰だか容易に想像できた。
だから俺がこんなところで泣くわけには行かない。
せめて、彼奴等にしっきりと伝えるまでには。
俺は火を付けただけで殆ど吸うことのなかったタバコを消すと、彼女らの元に向かうのたった。
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