強敵

 カトブレパスを撃破したあとトレジャーボックスが出現。罠はシュヴァエモンが魔法で解除してくれた。

 ドロップアイテムは【邪視返しの護符】と【幻獣の魔石】という素材で、魔石は合成に役立つからとの理由でシュヴァエモンが受け取った。

 あと私は装備できない【ヴェノムシューター】という弓も手に入れた。無事に生還したら慧に上げてもいいかもしれない。

 ちなみにこれらの鑑定はシュヴァエモンがしてくれたので助かった。


 私としてはちょっとしたお宝発見で気分が良くなり、思わずスキップしてしまいそうな勢いで進む事ができた。でも行き着いた先はまた大広間。


 とたん嫌な予感がした。


「暢世、気を付けろ。思いの外厄介な相手のようだ。ここは複合バフを掛けておくぞ」


 シュヴァエモンもすぐに反応して、先程は掛けなかったバフを私に施した。という事は本格的にヤバイ奴なのかもしれない。


『イヤだ帰りたい』


 そう叫びたい気持ちを抑えつつ、周囲を警戒しながら慎重に歩みを進める。


 巨大な人形のシルエットが見えた瞬間、背筋が寒くなる。


「えっとさ〜、あれって」


「ブルータルデーモン。今の暢世にはかなりの強敵となるな」


「ひぃ、むりだよ〜」


 遠目のシルエットだけでも分かる異形性。

 人の形を取りながら人とは違う何か。

 

「やれるだけの事はやってみるがよい。それで無理ならちゃんと助けてやる。あと念の為これも渡しておく」


 手渡されたの怪しい丸薬を五つ。


「これは?」


「生体魔力を回復させる丸薬だ。飲み薬だと戦闘中は飲みにくいだろう」


 生体魔力という聞き慣れない言葉。

 多分マジックパワーの事をシュヴァエモンの世界ではそういうのだろう。

 銃を使うたびに魔法力を消費するのでこれはありがたい、ありがたいけど……怖いものは怖い。

 そもそも悪魔系のモンスターなんて高ランクのパーティでやっと倒せる相手だ。それを分かってて一人で相手しろとか正に鬼畜の所業だ。


『シュヴァエモンのバカー』


 心の中で思いっきり叫んでおく。


 それから覚悟を決めると多分私が呼べる最強の手駒。さっき呼び出したドラゴンを呼び出す。


 大きさ的にはシュヴァエモンがブルータルデーモンと呼んでいた悪魔より二周りほどデカイ。


 もしかしたらコイツだけで勝てるかもと淡い期待を抱いてしまう。


「カッパードレイクでは荷が重いかもしれぬが、足止めの役割位にはなろう。汝はカッパードレイクが相手を引き付けている隙に、兎に角撃ちまくれ」


 そんな淡い期待をシュヴァエモンのアドバイスが打ち砕く。ちなみにドラゴンだと思っていた召喚モンスターはドレイクだったようだ。

 ハッド上にもちゃんと表記されていた。

 って、今はそんな事はとうでも良い。

 とりあえず死ぬ前にシュヴァエモンは助けてくれるだろうけど、痛いのはイヤだ。

 何とかカッパードレイク、長いからカッパー君と呼ぶことにし、そのカッパー君が耐えている間に倒してしまいたい。


「カッパー君。頑張って」


 私は呼び出した召喚モンスターに声援を送って少し距離を取る。


 あちらさんはこちらに気付いていると思われるが近づいて来ないので、こちらから少しづつ距離を詰める。


 すると縄張り的なものがあるのか一定距離まで来るとこちらに猛然と向かってきた。

 こちらもカッパー君に迎え撃たせる。


 それにしても近づいて分かる悪魔と呼ぶに相応しい恐ろしい姿。毒々しい緑色の皮膚に腕が六本もある。頭に角はデフォで、顔はSF映画のダースなモールさんに似ている。

 何よりキモいのが背面で、触手のようなモノでウネウネとうねっている。


 そんな凶悪な相手にカッパー君が勇敢に鋭い爪で襲いかかる。

 爪は見事に悪魔の胸を切り裂くも致命傷には至らない。悪魔側も六つの腕でカッパーをタコ殴りにしつつキモい触手が魔法を発動させ同時に攻撃を加えて行く。


「暢世。何をぼうっと見ている攻撃せぬか」


 シュヴァエモンの声にようやく我に返り、私も攻撃に参加する。

 心の中でカッパー君に謝りながら、触手を攻撃して魔法攻撃を阻止する。


 悪魔も私の存在に気付き触手を伸ばし攻撃を仕掛けてくる。

 いつもなら鈍い私もシュヴァエモンのバフの効果なのか体が軽く、攻撃を躱しつつ銃で反撃をするこたが出来た。

 あの先端を刃物のように変化させた触手に切りつけられたら、痛みで動きが止まり即ゲームオーバーだ。そんなのは分かりきっていたので、動き続け、何とか全ての触手を潰す。


 状況確認のため、ハッドに表示されたカッパー君のヒットポイントを確認。メーター的にまだ半分ある。

 何とかカッパー君が無事な内に倒してしまいたい。

 なので私も本体に攻撃を集中させることにする。

 正直、本体に銃が通用するかは疑問だったが、思いのほか効果があったようで、攻撃するたびに相手が怯んだ。


 攻撃のために振り下ろす腕に狙いを定め、怯ませることで少しでもカッパー君への攻撃を防ぐ。


 魔力も一度つきかけたので、もらった丸薬を一飲みして回復する。

 何度も何度も射撃しを続け二回目の丸薬を使った直後にようやく凶悪な悪魔は動きを止め、輝く幻想素子へと変化する。


 カトブレパスの時より更に多くの素子が舞い上がり私の中に流れ込む。

 シュヴァエモン曰く、体内魔力のキャパシティが増えているらしい、その言葉通り私はドラゴンの時のように苦しむ事なくその粒子を受け止める事が出来た。


 シュヴァエモンも一部の素子を結晶化させストックしており、もしかしたら後で何か役立つアイテムを作ってくれるのかもしれない。


 兎に角。助かった。

 私は安堵し、力が抜けてへたれこむ。


 そんな私にゆっくりとシュヴァエモンが近づくと頭を撫でてくれる。


「良くやったな暢世」


 思わずニヤけそうになり、俯いて誤魔化す。


「しかし今回は脳筋系の悪魔で、しかも攻撃一辺倒だから助かった。だが上位の悪魔系だと狡猾な奴も多い、今回の様な闘い方では負けるぞ」


 折角褒められて、嬉しい余韻に浸ってるのに、ダメ出ししてくるシュヴァエモン。もう少し私の心の機微を読み取って欲しいものだ。

 あっ、でも本当にリンクして読み取られたら困るけど。


「どうした。まるでリンクしていたら困るような顔をして」


「えっとっ、そっ、そんなことないよ」


「そうか、なら良いが……ところで気づいているか?」


「あっ、うんもちろん」


 勿論気づいていないけど、取り敢えず話を合わせておく。


「うむ、そうだ。この階層はボスクラスだけで構成されている。ある意味ボーナスステージだ」


 いやいや、ボーナスステージじゃなくてデスゾーンの間違いでしょう。

 毎回、あんなヤバイ奴らと戦わないといけないなんて自分の幸運度を疑いたくなる。


「えっとさ、シュヴァエモン。ボーナスステージは良いんだけどさ、もう強いの二匹倒したし良いんじゃないかな地上に戻っても」


「……そうか、そうだな。地上が恋しくなるのも分からぬでもない、良いだろう」


 ダメ元で言ってみたのだが、まさかシュヴァエモンが承諾するとは思っていなかった。

 

「本当に、やったー、シュヴァエモンはやっぱり話せば分かるやつだと思っていたよ」


「当然だ。では早速飛ぶぞ」


「えっ、あっ、ちょっと待ってよ」


 私は慌ててシュヴァエモンのローブを掴む。

 光る粒子が溢れ出すと、私とシュヴァエモンを包む。瞬間眼の前がブラックアウトして私の意識が飛んだ。

 

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