初めての
シュヴァエモンに導かれフロアの先に進む。
正直、私の力が通用するかは半信半疑だった。
ただ、いきなりフロアボスのドラゴンほどの敵は出ないだろうとも思っていた。
でも通路を進んだ先にやたらと大きな空間が広がっている時点で嫌な予感はした。
嫌な予感がしながらも、先に進んだ先が予感通りのこれである。
大きさは十メートルを優に超えていて、パッと見は巨大な黒い雄牛。しかし首が異様に長くひとつ目は閉じている。
「もしかしてカトブレパス」
授業で受けたモンスター学で見た事があった。
「ほお、博識だな、正解だ。知っているなら対処は知っているかと思うが、一応言っておくと、目を見れば死ぬぞ」
簡単に言ってくれやがる。いきなり即死持ちと会敵なんて本当に私のラックは高いのか疑わしくなってしまう。
ただ、私の幸運もまだ完全に捨てたものでも無いらしい。
なぜなら敵はまだこちらに気付いていない状態だからだ。
上手くやれば先制攻撃から畳み掛けることが出来るかもしれない。
それならまず狙うべきは目だ。
閉じている今、見開かれる前に潰す必要がある。
私はそう考え左手を台座変わりにして狙撃体勢をとる。
すると後ろからシュヴァエモンが声を掛けてくる。
「暢世があのデカブツを一発で仕留めきれると思うのか?」
言われて気付く。
確かに目を潰すことは可能だろうが、その一撃だけで倒せるとは到底思えない。
一撃で倒せないなら前衛のいない一人きりの私では逃げに徹する事になりかねない。
後衛で手数を稼ぐには盾役が必要になる。
その考えに至った時、シュヴァエモンから再度アドバイスされる。
「知っているかもしれんが、カトブレパスは力は強いが愚鈍だ。邪視は先に言った通り即死効果を持ち、即死を免れたとしても石化する可能性もあるため最も危険だ。あと周囲に撒き散らされる毒の息にも注意が必要だぞ」
つまり私が召喚出来る範囲の使い魔では正面からの力勝負は厳しいかもしれない。なら速度で優位性を確保しつつ、カトブレパスの邪視に影響されず周囲に撒き散らされる毒の影響を受けない召喚魔。撹乱させる意味でも群体の方が良いかもしれない。
私はパッと頭に浮かんだイメージで召喚魔法を展開する。
召喚陣から私の魔力を元に具現化した六体の翼の生えた石像、いわゆるガーゴイルが現れる。
信じられない事だった。今までの召喚では考えられない、私からすれば夢のようなチーム。
私は嬉しくなってチームの名をゴイルズと名付けた。
私はそのゴイルズをステイさせて、攻略準備に取り掛かる。
まず先制して目を潰すのは勝つための変わらない手段。
利き手の左手で銃を構え、右腕を長い銃身を支える台座変わりに使う。
カトブレパスは未だにこちらに気付いていないので、閉じられたカトブレパスの瞼に照準を合わせる。
撃鉄をゆっくりと起こし、深く息を吸い込み止める。ブレを抑えしっかりと狙いを定めて引き金を引く。
動作は本物の銃とほとんど変わらない、トリガーを引くことで、開放されたハンマーからファイアリングピンを通してプライマーへと力を伝達させる。
本来ならそれが火薬を着火させるのだが、伝えるのが魔力なので薬莢部で起爆しない。
代わりに薬莢部に刻まれた魔導刻印に魔力が共鳴反応し、魔力が増幅される。その増幅された魔力がさらに圧縮され、弾丸を形成する。そして魔力で形成された弾丸は、銃が持つ撃ち出すという理によって放たれる。銃身内に刻まれた魔導刻印により超加速と捻じれを加えながら。
……全く意味が分からない。
ハッキリ言って、シュヴァエモンが説明してくれた仕組みは私には理解しかねる。
ただ分かっているのは引き金を引けば魔力の弾丸が敵を撃ち抜く。リロードなど必要なく、私の魔力が尽きるまで。
つまり死にたくなければ撃鉄を起こし引き金を引き続けろと言うことだろう。
幸い、銃声とは思えない発射音と共に撃ち出された初弾は見事にカトブレパスの目を撃ち抜いた。
そして、響き渡る本来の銃声とは異なる、まるで鈴の音のような発射音を合図に、ステイからゴーへと指示を変更したガーゴイル達も一斉に攻撃を開始する。
攻撃を受けカトブレパスも反撃のため、毒の息を撒き散らしながら、長い首を振り回し周囲を薙ぎ払ってくる。
しかし毒を気にしないガーゴイル達には側面から足元を狙うように指示をしていた為、攻撃が当たることは無い。
私もだいぶ離れた位置から無作為に振り回される首の動きを読んで撃ちまくる。
スライムに比べて動きが鈍い上に的も大きなカトブレパスの目は狙いやすく。
初撃から更に二十発の銃弾を浴びせた事で仕留める事が出来た。魔法力がもう少しで底をつくところだったので少し危なかった。
「どうだ、自分の力だけで倒した感想は」
カトブレパスの体が光り輝く幻想素子に変わってゆくのを眺める私に、シュヴァエモンが心なしか嬉しそうな声で話しかけてきた。
「うん、正直実感湧かないかも」
「そうか、でも間違いなく暢世、これは汝が一人で倒したのだ。確かに武器と召喚魔法は我が与えたものではあるがな」
シュヴァエモンの言う通り、武器と召喚魔の質が向上したことが勝利の要因だ。
だから自分の力と言われてもピンとこない。
「うん、そうだね。だから私が倒したというよりは、シュヴァエモンのお陰かな。ありがとうシュヴァエモン」
私が素直にお礼すると、シュヴァエモンは首を振った。
「道具を使いこなすのもまた人の力というものだ。汝は我の与えたモノを上手く活用し勝った。それは間違いなく汝の才覚によるものだ。だから良くやったな暢世」
仮面越しに偉そうな事を言いながら私の頭を撫でるシュヴァエモン。
何故か私の頬に涙が伝わる。
「なっ、なぜ泣く、この世界では褒めるときは頭を撫でるのだろう」
「ぐすっ、それは子供を褒めるときだよ」
そう、頭を撫でられ褒められたのは幼いの時の話。シュヴァエモンがそれしか知り得なかったのは私がその時以来褒められるような事が無かったら。
子供の頃から平凡で取り柄がなかったから。
そのくせ、幼馴染に流されシーカーを目指してしまい、平凡から落ちこぼれになった。
いつも、足手まといで、謝ってばかりで、感謝されるようなことも、褒められるような事も出来なくなっていた。
だから、シュヴァエモンが褒めてくれた事が嬉しくて、言葉が身に沁みた。
「そうか、以後は気を付けよう」
「いや。今度から私を褒めるときはそうして」
シュヴァエモンの気遣いを拒否する言葉が思わず出る。私は言葉の意味に気付いて、照れくさくなって顔を伏せてしまう。
「そうか……うむ、そうだな我からすれば汝の年齢は幼児と変わらぬからな、それも良かろう」
その言葉は私を気遣ってのものか、言葉通りなのかは分からない。
なにせ異世界人と思われるシュヴァエモンは、仮面を付け服装も黒のローブで覆われているからである。その身姿から年齢はおろか容姿すら分からない。
だから、つい気になって尋ねてみる。
「ちなみにシュヴァエモンっていくつなの?」
「んん、我か、我はとっくに年を数えるのを止めてしまったからな。二千までは数えていたのだがな」
「……えっと、うん、凄いね。西暦以上に生きてるんだ」
何となくそれなりに年齢を重ねているとは思っていたが、予想以上でビックリした。
言葉通りなら本当にシュヴァエモンにとって私は幼子のようなものなのかもしれない。
「まあ、不老の一族だからな。我に年齢は余り意味無いのだ。暢世も余り気にするな」
そう言われても、気にするなという方が無理だけど、気にしないフリをすることにしておく。
「分かったわ、次に行きましょう」
「うむ、次も期待しているからな」
何気ないシュヴァエモンのその言葉。それが私には少し重くもあり嬉しくもあった。
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読んで頂きありがとうございます。
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