その名は……
『ようやく目を覚ましたか?』
聞き慣れない声。
直ぐにあの時の男だと気付いた。
戦闘中はハッキリ見えなかった姿。
全身真っ黒で怪しい仮面を被ってる。
イヤイヤ、これやばい人だ。
あっ、でも私が召喚したから私の使い魔になるのか?
『言っておくが主従契約は成立してないぞ、そもそも我は使い魔ではないしな』
私の思考を読んだかの回答だ。
『いやその通りだ。我と汝は今リンクパスが繋がっておるからな』
「えっ?!」
どうやら彼の声だと思っていたのは声ではなく。
『念話だ』
そういうことらしい。
「えっともしかして話せないの?」
「※∨∴※≒∇」
ノイズのような音、とても言葉には聞こえない。
『これが我の言葉だ。どうやらこの世界では正確な音として伝わらないようだな。ただこのまま念話を続けるのも色々と不都合があろう』
確かにこっちの考えがだだ漏れなのは頂けない。
『うむ。なのでな、少し汝の知識を共有させてもらった』
「ん?」
それって記憶を覗かれるってことなの?
『まあ結果的にはそうなるが、我は汝の過去になど興味はないから気にするな』
イヤイヤ気にするでしょう。
「フハッハハ、別に恥ずかしいとは思わぬぞ、他者より長い間オネショしていたことや、他者より多少鈍臭いことなと気にするようなことではない」
「ぐぐっ、っていまちゃんと喋った」
「だから先程言ったであろう、知識を共有したと」
「なっ、酷いじゃない、なんの断りもなく」
「事後承諾というやつだ。汝は気を失っていたし緊急措置というやつだな」
なんだか凄く口先の回るやつだ。
真っ黒な姿からして胡散臭い。
「ああ、もうリンクは切っているからな。疑わしそうな顔で我を見るな」
「って、読んでるじゃない」
「いや、汝の顔に出ていただけだ。わかりやすいぞ、今後は気を付けたほうが良いな」
はあ、なんでコイツはこんなに説教臭いんだろう。でも、こいつのお陰で助かったのも確かだし、って。
「そうだドラゴン。あの後どうなったの?」
「ふむ。我が一蹴した後。この世界でいう幻想素子に変換された。そして大量の素子は汝に一気に流れ込んだ。そこまでは覚えているのではないか」
そうだこの黒尽くめが一撃でドラゴンを屠った後、輝く幻想素子が私に流れ込んで。
「そう、私は余りに膨大な素子に耐えきれなくて」
「ああ、なので過剰な素子は結晶化させておいた。感謝するが良い」
仮面の男は、手のひらから輝く結晶体を複数個取り出すとこちらに手渡す。
「えっとこれはどうすれば」
「いつでも好きなときに砕け。汝らはそれが力の源なのだろう」
砕けと言われてもどれだけの幻想素子が圧縮されているのか分からない。
またあの痛みを味わうのかと思うとそう簡単に砕くことは出来ない。
「どうした複雑な顔をして、もしかして怖いのか?」
「……うん。だって尋常じゃない痛みだったから。普通嫌でしょう痛いのは」
「フッフ、フハッハハ。正直な奴だな。良いぞ、そのヘタレ具合といいますます気に入ったぞ……ふむ、そうだな決めたぞ、喜べ力なき者よ、我が汝をトップに押し上げてやろう
突然高笑いしたかと思うと勝手なことを言い出す。
「なにいってんの。私はそんな事望んでなんてない。大きなお世話よ」
私はついムキになって否定する。
「ほお、本当に汝はそう思っているのか? ずっと悔しい思いをしてきたのではないか、足手まといになるのが心苦しかったのではないか?」
「…………」
悔しいがコイツは私の記憶を覗いている。私の隠してきた思いをきっと読み取っているのかもしれない。
「汝が力を手にすれば守ることも出来るぞ、親しい友人をな。もし汝の友人が先程のドラゴンと相対したときどうなる、今の汝で力になれるのか?」
「それは、無理だと思う。でも私は……記憶を覗いたのなら知っているでしょう」
「分かっておる。汝は遅いのだろう成長が、実際にあのドラゴンを倒した後、あれだけ素子を吸収したのにも関わらずほとんどのステータスが上昇しておらぬ」
分かっていた事だが事実を改めて突きつけられると辛い。
ゴウや慧が同じ敵を倒して成長していく中で全く成長を感じられなかった。
そうしていつの間にか成長出来ない私をゴウとケイは庇うようになってくれて。
それでも足手まといでしか無い私を置いていくことなく、ずっと同じパーティで居てくれていた。
それが嬉しかった。
でも心苦しかった。
なにより悔しかった。
二人はもっと高く飛べるのに。私が重しになり二人がより高く舞い上がることの出来ない事実が。
でも、もし私も一緒に飛べるのなら。
そう思って隠れて必死に特訓して勉強して、でも変わらなくて。
「本当に私は飛べるの?」
思わず呟いた言葉。
何故か目の前の得体のしれない黒尽くめに期待したくなる自分が居る。
「ああ、我に任せよ。我は今までも力なき人間を王に、力なき魔族を魔王にまでした。今度は力なきそなたを探求者のトップに押し上げてやろう」
圧倒的自信からくる言葉。
力強いその言葉を信じたくなる。
「なんで、なんでアナタはそこまでするの?」
でも世の中上手い話なんてて無い。
だから理由は知りたかった。会っても間もない私になんでそこまで肩入れするのかを。
それこそドラゴンを一撃で屠るほどの実力者が。
「ああ、それは趣味だ」
「…………はあ?」
「うむ、我が本気を出せば世界征服するのすら容易いであろう」
いや知らんけど。
ただ言われてみれば、あそこまでの力を持っていれば大抵のことは何でもできるのかもしれない、だったら。
「それならそうすれば良いでしょう」
「うむ。だから試しに、この世界ではないが一度は世界征服というのもしてみた。でも簡単すぎてつまらなかったのだ」
本当かどうかわ分からないけど、言ってるとこはとんでも無かった。
それとなんとなく分かっていたけど、彼はこの世界ではないと言った。つまりこの黒ずくめ男は異世界人。これが本当なら約二千年ぶりになるはずだ。
私は驚きつつ話をさらにふる。
「へぇ〜、でもアナタくらいの力があれば助力を得た人は簡単に王にでもなれるんじゃない」
「おお良いところに気づいたな。そう力加減が難しいのだ。力を貸しすぎれば余りにも安易になり、逆に手を抜きすぎれば直ぐに死ぬ。最初は加減を覚えるのに苦労したぞ」
死という不穏な言葉。
話しっぷりからして、きっとこの男は力を貸した人間をゲームの駒程度にしか思っていないのだろう。
失敗すれば死んでゲームオーバー。
また新しいキャラクタでゲームを始める。
そんな事を何度も繰り返してきた。
つまりこの仮面の男は実際の人間で遊んでいるのだろう。
とんでもない奴だ。
正直胸糞悪くなる。
でも同時に思った。
これはチャンスではないかと。
人を遊び道具としか思っていない奴だが、アイツは確かに言った。「力ない者を王に、力なき魔族を魔王に」と。
ならアイツのプランに乗れば言葉通り探求者としてナンバーワンになれるのではないだろうか。
ただ気になることもある。
「聞きたいんだけど、アナタが王や魔王にした後は、その人達をどうしたの?」
「どうもせぬ。目的を達成すれば我は次の目的を探すだけだ。ただ我を排除しようとした恩を仇で返すような輩は速攻で滅ぼしてやったがな。我はそういうのは好かぬからな」
話が本当なら願いを叶えた後の対価は頂いていないらしい。どこまで本当かは分からないが嘘は言っていなさそうな気がする。
それに最初は加減が難しかったと言っていたから、最近はコツ的なものを覚えたのかしれない。
だから念の為に聞いてみる。
「ならあとひとつ質問たけど。最近は失敗したことはないのよね」
「いや、前回は道半ばで予期せぬ干渉を受けたせいでな久しぶりに失敗したわ、ワッハッハ」
そう言って男は盛大に笑い飛ばす。
合わせて仮面もカタカタ揺れる。
本来なら不安に思うところだけれど、同時に信頼する要素でもあった。
もし私と何らかの契約を結ぶのが目的の悪魔ならわざわざ失敗したなんてことは言わないだろうから。
私は覚悟を決める。
どうせこの現状がすでに詰んでいる。
なら例えそれが悪魔の甘言だろうと、もう私にはそれに乗るしか道はない。
「分かったわ。あなたに助力をお願いしたいです」
私はそう言って頭を下げる。
「ほう、多少の礼儀はわきまえているではないか。良かろう、汝の願いを聞き入れ我が助力しよう大船に乗った気でいるが良いぞ」
「ありがとう。それじゃあ、まずあなたの名前を教えてもらってもいいかな?」
「おう、そうであった一方的に我だけ名を知っているのは不公平というものだからな。良かろう我が名を教えよう。この世界では発音できぬからなこの世界の音に変換して伝える」
どうやら本当の名前は最初に話したときのように聞き取れないみたいだ。
「うん、そうしてくれると助かるかも」
「うむ。では伝えようこの世界においての栄えある名を、そう、我が名はシュヴァエモン。その偉大な名を心に刻むが良い」
告げられた名前。
尊大な男とのギャップに思わず吹きそうになる。
それこそ、「どこの猫型ロボットかよ」とツッコミを入れそうなほどに。
いや本当パスが繋がってなくて良かった。
良かった………えっパス繋がってないよね?
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読んで頂きありがとうございます。
書くためのモチベーションに繋がりますので面白いと思っていただけたら
☆☆☆評価を頂けると舞い上がって喜びます。
もちろん率直な評価として☆でも☆☆でも構いませんので宜しくお願いします。
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