邂逅
ギリギリでポーションを飲み繋いで十日。
もう限界だった。
もともと可能性は低かったのだろう。
私は諦めの境地で、残された正体不明の真っ赤なポーションを口にする。
鑑定されていない以上、これが毒薬の可能性だってあった。
でも死が目の前まで迫っていて、今更毒薬が怖いとは思わなかった。
それこそよっぽどあのドラゴンの方がよほど恐ろしい。
でも、このポーションは当たりだったようで、今までのポーションとは比べられないほどに体を満たしてくれていた。
それこそ気分までも高揚させて。
みなぎる力と高揚感。
今なら何でも出来る気がした。
それこそあのドラゴンを倒すのは無理でも間隙をくぐって通り抜けるくらいはと。
残された切り札はどんな魔法が発動するのか分からない魔封石と下級魔の召喚魔法。
あとは呪われそうな黒い杖。
素手よりましだと考えれば、装備するのも構わないと思えてきた。
生き残るためにやれることは全てやろう。
今の私には生きるための強い意思に突き動かされていた。
根拠のない自信に満ち、きっと今ならドラゴンと対峙しても大丈夫だと感じていた。
私は覚悟を決め、部屋を出て通路の奥に向かう。
以前見た大扉を前にもう一度立つ。
アイテムボックスから魔封石を取り出しいつでも使えるようにしておく。
右手には黒い杖。
持ったら呪われるかと思ったがなんとも無かった。
ただ持った時に変な声が聞こえたような気もしなくは無かったが、今はそれどころではない。
私はもう一度気合を入れ直し、扉を開きフロアに侵入する。
少し進むと私に気付いたらしいドラゴンが動き始める。動くだけで空気が震え、歩く振動がこちらにまで響く。
不思議と以前感じた恐怖心は無かった。
左手に魔封石を握りしめながら慎重に近づく。
そして暗がりの中でお互いが視認出来る距離まで接近する。
私に気付いたドラゴンがひときわ大きな咆哮を上げる。
きっと以前の私ならそれだけで腰を抜かして動けなくなっていただろうが、今日の私は一味違う。
咆哮に怯えることなく魔封石をドラゴンに向けて投げつける。
魔封石はドラゴンの硬い鱗にぶつかり割れる。
封じられていた魔法が発動する。
願うべきは攻撃系の魔法。
そしてそれは願い通り攻撃系の魔法で。
小さな炎がドラゴンを焼き尽くす…………わけもなく。傷一つつけれないまま霧散する。
一言でいえば『しょぼ』だ。
私は杖をドラゴンに向けながら思った。
どうしてこんな無謀な事をしようとしたのだろうと。
とたん、後悔が頭の中を駆け巡る。
それでも不思議と恐怖心は無い。
ただ次はどうすべきかを考える。
でも不思議とそんな考える余裕を与えてくれるほど、ドラゴンはこちらを警戒していた。
正確に言うと杖を向けるとその射線上に居るのを嫌がるように動いて近づこうとしなかった。
もしかしたらイケるかも。
そう思った時、頭の中でハッキリと声が響いた。
『ようやく同調したか、おい人間の娘、聞こえているのだろう』
「えっ」
思わず声を漏らして答えてしまう。
音ではなく頭に直接伝わる思念だというのはわかっていたのに。
『あの竜、そろそろブレスを吐くぞ』
『うそ、それじゃあこのまま逃げ切れない』
私としては杖を盾にドラゴンと少しづづ間合いを取りながら反対側に逃げていくつもりだった。
でも、もしブレスがくれば防ぎようの無い私は灰となって昇天間違いなしだ。
『助かりたいなら力を貸そう』
『えっ、どいうこと』
思念での会話。
間違いなく相手と私は何らかの形で繋がっでいる。
そう考えられるのは。
『もしかしてあなた杖なの?』
『正確には違うが説明している暇はない、我が杖を起点にして召喚陣を展開させよ』
意味が分からない、分からないけど、他にどうしようもない。
だってドラゴンは杖が言っている通り、私から間合いを取ってブレスを吐く体勢に移行しているのだから。
私は声に従い床に黒い杖を置くとそこを中心にして下級魔を呼ぶための召喚陣を展開する。
『よくやった娘。褒めてやる』
その頭に伝わってくる声と共に轟音が響く。
ドラゴンの口から高熱のブレスが吐き出される。
終わった。
そう思ってへたれこむと共に、信じられない光景が私の目に写った。
本来なら下級魔が顕現するはずの召喚陣から、手が出て杖を掴むと、そこから空間をこじ開けるようにして漆黒のローブを纏った何者かが這い出して来たのだ。
そして漆黒のローブを纏った人物は、事もなげにドラゴンのブレスを障壁で無効化する。
呆気にとられる私を尻目に、漆黒の男は左手に持った黒い杖をドラゴンにかざす。
私が持っていた時とは違い、深く暗い煌きをを放ち禍々しさと高貴さを兼ね合わせた姿。
ひと目であれが本来の在り方なのだと分かった。
漆黒の男は聞いたことのない音を紡ぐと、杖からまばゆい光を放つ。
強い光に思わず目を閉じてしまう。
そして再度目を開いた時ドラゴンの姿は跡形もなく消え失せていて、輝く幻想素子がキラキラと舞い降りて来た。
『ほお、これは』
漆黒の男は感慨深げに呟くとその光の粒子を眺めていた。
私も同じように、違う理由で呆然と眺めていた。
すると幻想素子は一気に私の中に流れ込む。
想像もつかないほどおびただしい量。
得体のしれない感覚の後、私の体が悲鳴を上げる。
「うぐぅぅあぁ」
たまらず声も上げ、そのまま倒れ込んで悶える。
身体中に激痛が走り、痛みで気が狂いそうになる。
『ふむ、いかんな……しかたない、これはサービスだ』
私の様子を見ていた漆黒の男はそう言って、私に流れ込もうとする幻想素子をせき止めると、誘導するように一つに集め輝く結晶を構築する。
私はその光景を見ながら痛みに耐えきれず気を失ってしまった。
――――――――――――――――――――
読んで頂きありがとうございます。
書くためのモチベーションに繋がりますので面白いと思っていただけたら
☆☆☆評価を頂けると舞い上がって喜びます。
もちろん率直な評価として☆でも☆☆でも構いませんので宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます