帰還組

「………ノブヨ??」


 突然眼の前で消えた親友。

 蛇光院豪姫ジャコウイン ゴウキはそのことを理解できず呆然と立ち尽くす。


「アナタ、何かしましたわね」


 それとは別に事態を把握した鬼垣慧キガキ ケイ良胤秀美ヨシタネ ヒデミに詰め寄る。


 殴りそうな勢いの慧を平静雅タイラ セイガが慌てて止める。


「今は戻って暢世君の転移箇所を特定するほうが先決だろう。秀美君、早く帰還用の魔封石を」


「ええ、分かりました」


 秀美は静雅に言われた通り緊急用の魔封石を取り出す。


「慧君も落ち着いてくれ、ヒメ君も早くこっちに」


 静雅が憤る慧をなだめながら立ち尽くす豪姫を呼び寄せる。


 有効範囲内に集まったのを確認し秀美は魔封石を砕く、すると封じられていた帰還魔法が発動しダンジョンの入口まで瞬時に転移する。


「急いで、装備品はアイテムボックスにしまって、直ぐに先生達と合流しないと」


 静雅にも分かっていた。教師陣はモニタリングしているはずなので状況は理解しているだろう事は。

 それでも急いで戻って真野日暢世マノビ ノブヨの安否確認がしたかった。


「分かってますわ、ほらジャーコさん、早く装備を解除して、もたもたしてたらそれこそ暢世さんが危険ですのよ」


「あっああ、そうだ、そうだよな」


 慧に促され少し正気に戻った豪姫が急いで装備を解除してアイテムボックスに収納する。


 その三人を無言で見つめる秀美。

 彼女はすでに手際よく装備を解除していた。


 四人はダンジョンを出ると、急いで教師がモニタリングしているオペレーションルームに向かう。


 待ち構えていたのは担任教師の仙河栄一センガ エイイチで、カメラごしで状況は理解していた。


「せんせ、ノブヨがノブヨが」


 駆けつける間で、ようやく状況を飲み込めた豪姫が涙を流して詰め寄る。


「とりあえず真野日は無事だ。微弱だが生体反応が確認出来ている」


 栄一の言葉にひとまず安心する三人。

 しかしすぐに静雅が状況を確認するため矢継ぎ早に質問をする。


「先生、暢世君の場所は? 救助チームは動けますか?」


「落ち着け平。状況としてはまったく真野日との通信は取れん、位置情報もいま確認中だ」


「……つまり、攻略エリア外ということですの先生」


 慧の質問に気まずそうに頷く栄一。


「くそっ、なあアタシも助けに行くから、せめて場所だけでも早く突き止めてくれよ」


 豪姫が栄一の肩を掴み涙ながらに訴える。

 それを遮るように別の教師が慌てた様子で声を掛けてくる。


「仙河先生、位置が特定出来ました」


「よかった。それでどこに」


 栄一の安堵した声に対し、伝えに来た教師は顔を曇らせる。


「それが、位置的に三十階層付近との事で」


「バカな、あのダンジョンは二十九階から下のフロアへのルートが見つからずに攻略が頓挫していたはずでは」


 栄一の表情が安堵から一転して苦々しいものへと変わる。

 やり取りを聞いていた豪姫と慧は悲壮感を顕にし、静雅は悔しそうに唇を噛む。


「はい、ですがビーコンの反応は二十九階より下から発せられている事は間違いありません」


「そうですかそれで教頭の判断は?」


 栄一は努めて冷静を装うと、報告を伝えに来てくれた教師に尋ねる。


「国家所属のSランク若しくはAランク三組の招聘を決めました」


「妥当ですね。【境界の地下神殿】は現状で難易度Bですが、未知のフロアとなると何があるか分かりませんからね」


 静雅が教頭の判断に頷き冷静に解析する。


「ああ、ただ高位のパーティとなるとどうしても、直ぐには来られない。真野日がそれまで大人しくしてくれていれば良いんだが」


 心配するように栄一が答える。


「それなら大丈夫だろう。ノブヨはビビりだし、あとシーカーはダンジョン内なら腹へらねーしな」


 豪姫はまるで自分に言い聞かせるように返す。


「そっ、そうですわよ。慎重派の暢世さんなら大人しく部屋に引きこもってますわよ」


 爪を噛みながら慧も豪姫に賛同する。


「はぁ、だったらそれでいいでしょう。後は救助チームが来るのを待てば」


 そこに興味なさげな秀美が追従する。


「秀美君。その言い方は……」


 困ったような表情で静雅が秀美を見る。


「てめぇ、気楽に言いやがって、そもそもテメェがなにかしたんだろうが、ケイから聞いたぞ」


「勝手に人のせいにしないで下さい。あの時退避しそこねたのは真野日さん自身。そもそも罠が無いと判断したのは鬼垣さんでしょう」


「確かに罠は有りませんでした。それは静雅さんの魔法でもチェックしているので間違いありません。そうですわね静雅さん」


 慧が睨みつけるように静雅を見る。


「うっ、うん。でも知ってるかもしれないけど探知魔法でも百パーセントではないからさ」


 目を逸らしながら申し訳無さ気な静雅。

 その言葉に勝ち誇った顔の秀美が答える。


「ほら見なさい。罠を見抜けなかった自分の無能を私のせいにしないでほしいですね。それでも疑うなら記録映像をチェックすれば良いでしょう」


 秀美の言い分に納得いかない豪姫が怒鳴る。


「そんなのいくらでも誤魔化し効くだろうがよ」


 そんな不毛な言い争いを栄一が一喝して止める。


「お前ら、いい加減にしろ!」


 滅多に見せない剣幕の栄一に豪姫達も押し黙る。


「テレポーターの件に関してはこちらでも調べておく、憶測で語るな。あと今は真野日救出を最優先に考えるから、これ以上問題を増やすな」


「うぐっ、分かったよ」


「私は元からそのつもりです」


「ふん。暢世さんを助けた後、絶対化けの皮を剥がして差し上げますわ」


 剣呑な雰囲気を漂わせたままその場は解散する事になった。


 憤る豪姫と慧を気にしながらも、結局静雅はオロオロしながら秀美の後を付いて行くのだった。




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読んで頂きありがとうございます。


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もちろん率直な評価として☆でも☆☆でも構いませんので宜しくお願いします。

  



 

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