STAGE3-7
「そうだ、英太君、最後に私からも質問をしてもいいだろうか」
ゲームセンターを出て駅へと向かう途中、焼け色に染まる景色の中を二人で歩いていると零がそんなことを言い出した。
「質問って? なんッスか急に」
「なに、実は前々から聞いてみたいと思っていたことを思い出してね」
零が栄太に聞きたいこと、正直検討もつかないが頼まれたからには答えないわけにはいかない。
「別に構わないッスよ、俺に応えれられることならなんでも」
栄太が質問を促すと零はちょっと意地悪な笑みを浮かべて。
「栄太君は私のいったい何処が好きなのかな?」
「え?」
思わず疑問の声が零れる。まさかそんなことを聞かれるなんて思ってもいなかったからだ。
「あれほど情熱的な告白をしてくれたのだ。君にとって一体私の何がそこまで魅力的に映ったのか、純粋に気になってね。無理にとまでは言わないが、答えてもらえると嬉しいな」
零からの意外な問いにたいして栄太はどう答えたものかと少し考えた。
答えることが正直照れくさいという気持ちはあったが、別に答えられないということはない。
ただ、いざどこが好きなのかと言われてみると、なかなかこれと答えるのは悩ましく、栄太はとりあえず思いついたことを片っ端から並べてみることにした。
「えーと、まずは。顔立ちが凜々しくて綺麗だと思いましたし、長い髪はサラサラだし、切れ長の目も素敵です。身長も高くてモデルさんみたいだし、空手の型や立ち姿が綺麗なところも素敵だと思ったし、あとは手足の爪が綺麗に手入れされていたりして、身だしなみをちゃんと気にするしっかりした人なんだろうなって思えるところとか、あとは――ん? どうかしましたか?」
零がぽかんと英太の事を眺めていることに気づき、どうかしたのかと思い訪ねると、彼女はぽかんとした顔のまま答えた。
「いや、以外と人のことを細かいところまで良く見ているのだなと思ってね」
「そうッスかね? 俺、零さんの好きなところならいくらでも言えますけど。て、あっひょっとし、て気色悪かったっすか?」
聞かれたこととは言え、自分のことをつらつら話す自分は傍から見て相当気持ち悪い様な気がして焦ったが、零は特に気にする様子もなく、首を横に振った。
「いや、少し驚いただけだ、気にしなくていい。君の言葉はまっすぐで心地が良いよ」
「それなら良かったっすけど。ああ、でも――」
取りあえず、嫌われた訳ではないようでホッと胸をなで下ろしながらふと思う。
零の何を自分は好きになったのか、そのことを一度改めて考えてみてようやく気が付いた。
「たぶん俺は、ゲームに真摯に向き合って真剣に取り組む、そんな零さんをかっこいいと思ったんです」
思い出すのは自身の夢を栄太に聞かせてくれた零の姿。
夢の事を語る彼女の姿は、まるで無邪気な少年の様で、純粋な夢への希望と情熱に溢れていた。
幾ら好きな物のためとは言え、何かを実行に移し、努力すると言うことにはそれなりに覚悟がいることだ。
それでも自身の道をはっきりと見据えて進もうとする零の姿は尊敬できたし、そんな姿を魅力的だと思えた。
今日一日で、零がどれだけ真剣にゲームと向き合い挑んでいるのか、栄太は改めて知った、だからこそ確信を持って言える。
「俺は夢の為に頑張ろうとする零さんの、意思というか、心をあのとき感じてそれで零さんを好きになったんだと思います」
栄太はまっすぐに零の瞳を見つめて話す、
この言葉が皮肉や含みのない、ただ純粋な本心なのだと、そのことが少しでも伝わればいいと思って。
「……君は初めて会ったあの時、一目見ただけで私の心根まで見抜き、その上で交際を持ち掛けてきたと、そういうことかい?」
疑うわけではなく何かを試すような零の問い掛けに、栄太は一切迷うことなく自信に満ちた声で答えた。
「俺、人を見る目だけには自信があるんで」
曖昧模糊とした根拠を自信満々に答える栄太にさすがの零も少し驚いた様子だったが、ふいにフフッと。
「……君は本当にまっすぐだな。聞いたこっちが照れてしまいそうだよ」
零はそう言って嬉しそうに笑ってくれた。
そんなことを話しているうちに駅へとたどり着くと、零は栄太とは乗る路線が違うらしく今日はここでお別れということになった。
「では、私はここで失礼するよ、また学校で」
そう言って零は改札機にICカードかざして、その奥へと歩いて行く。
零を通した改札が閉じる。彼女は学校でと言っていたが部活に顔を出すことがない以上、学年が違う栄太が顔を合わせることはまずない。
今日会えたのだって偶然が重なっただけだ。今を逃せば次に零と会うのはリベンジマッチの日までないかもしれない。
そう思った瞬間――。
「零さん!」
その背中に、英太は思わず声を掛けていた。
声は届いたのかゆっくりと零が振り返る。
「どうかしたかね? 栄太君」
「……すみません。やっぱりさっき言ったこと訂正します」
零から勝つ自信はあるかと聞かれて栄太はあいまいな返事を返した。
自身と零の実力差を知って、根拠もなく彼女に勝つだなんていうのはおこがましいと思ったから。
でもそんなのはただ建前で、本当はただ勝てないかもしれないと怖気づいていただけだ。
あの時、言うべきだったのはそんな保身にまみれた言葉なんかじゃない。
「次の勝負、必ず俺が勝ちます」
どうして部を作ったのか聞いたときの顔がさみしげに見えた。
同士を求めてしまったと語る彼女は何かを諦めるしまっているように見えた。
自分と零の間に大きな実力差があることは分かっている。
たかだか一か月そこらで、その差を埋めることが出来ると思うほど自惚れてもいない。
でもそんなこと知ったこっちゃない。
それでも、ゲームセンターで無邪気にゲームを楽しむ彼女を眩しいと思った。
真剣に夢に向き合い進もうとする彼女に、追いつきたいと思った。
勝てる可能性があろうがなかろうが、橋本英太は断言しなければならない。
ただ一人高みに立つ、彼女を一人にしないために。
「……そうか」
閉じた改札を挟んで二人は対峙する。
真意を推し量るような零の瞳を真っ向から栄太は見つめ返す。
そうして零は降格ニッと上げて。
「そう来なくてはな」
初めて対戦したあの時の様な不敵な笑みを浮かべた。
そうして零は踵を返そうとするが、「ああそうだ、最後に一つだけ」ふと何かに気が付いたように振り返って。
「先ほど君は人を見る目には自信があると言っていたが、私はね君のその目に期待しているんだ」
「それじゃあ栄太君、再戦の時を楽しみにしているよ」最後にそう言って零は今度こそ踵を返し去っていった。
零の姿が見えなくなって栄太は一人その場に残される。
彼女が残して言った言葉が、いったいどういう意味なのか正直栄太には見当がつかない。なんとなく、自分の目元に触れてみたりしてみたが、何か分かることなど有るわけも無い。
だが、零に限って嘘をついたり適当なことを言っているとは思えない。
なんだか胸の中に火が付いたような、そんな感覚があった。
自身の憧れる人に、初めて自分の事を認めてもらえたようなそんな気がして。
もし仮に自分の中に零さんが期待してくれるような何かがあるのだとしたら、そう思うと胸が高鳴ってじっとしていられない。
「あ~クソ。練習してぇなぁ」
そんな言葉が、自然と口を突いてでる。
胸にともった熱に急かされるように、自然と早足になっていく足に任せて栄太は自身の帰路につく。
追いかける背中はまだはるか遠く、だけどその背中にほんの少しだけ近づけたような、そんな予感がした。
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