STAGE3-5

「……栄太君、君はこの後時間はあるかい?」 

「それはまぁ。特に予定もないスッし」

「そうか。それならもう少しだけ私に付き合ってもらいたい」


 そう言って零は席を立ちレジの方へと向かって行った。


 ……聞かれたくない事だったのかな?


 零が一瞬見せたあの寂しげな表情の意味は気になったが、答えたくないことを無理に聞きたくはない。

 栄太はすでに代金を払い終えた零の後を追ってレジへと向かった。

 



 零が英太を連れて行ったのは、二人が鉢合わせたのとはまた別のゲームセンターだった。

 さっきの場所よりも規模が大きく、一日遊ぶのには困らない程に各種ゲームがそろいゲームセンターというよりアミューズメントパークといったほうが近い。


 てっきりまた格ゲーをするものだと思っていたのだが、零がまず最初に手を付けたのはカーレースゲームだった。


 キノコやら甲羅やらが出てくる、某有名レースゲームのアーケード版のそれを英太も一緒にと誘われお言葉に甘えることにする。


 アイテムのおかげもあって、あと一歩のところまで追いすがったが。地力の差か、最期の最期で結局追い抜かれ惜敗に終わった。


 悔しさから、栄太はすぐさま次はエアホッケーで勝負をしよう零に持ち掛けると、これが中々に良い勝負で、お互い取られたら取り返しを繰り返したが結局これも最後は零の勝利に終わった。


 気まぐれでやったクレーンゲームは運が良かったのか、店側の設定が良心的だったのか、一発で取ることに成功し、獲得した蜂の人形を零にプレゼントすると喜んでもらえた。


 その後はバスケのフリースローを模したゲームをしたり、某ワニを叩きまくるゲームをしたり、メダルゲームをやってみたりと、とにかく目についたゲームに、片っ端から手を出した。


 さすがに少し疲れてきたところで二人は施設内に常設されていたベンチに座った。


 楽しかった。


 ゲームセンターで遊ぶという経験が多くはなかった英太だったが、これが存外楽しく気が付けば時間があっという間に過ぎていた。(ちなみに所持金もあっという間に消えていったが、そこはあえて考えないでおく)


 零もゲームの勝敗で一喜一憂したり、その日のハイスコア出して英太に自慢したり、終始ゲームを楽しんでいる様に見えた。


 あんまりにも無邪気で楽しそうだったから。

「零さんって、本当にゲームが好きなんっスね」

 なんてついそんなことを言ってみると、普段のどこか大人びた雰囲気とは違う。まるでやんちゃ坊主のような飾り気のない笑顔で零は笑った。


「ああ、大好きだとも、何せ私の夢はプロゲーマーになることだからな」

「プロゲーマー?」

 聞きなじみのなかったその言葉に栄太が首をひねる。


「読んで字のごとし、ゲームをすることで収入を得る人物のことだ」

「そんな職業があるんですか」

「あるのだよこれが。事実プロを名乗りそれを生業とする人は、日本にもいる」


 思わず感歎の声が漏れる。そんな職業がこの世にあり、そしてそれを目指す人物が目の前にいる。


 世の中は本当に広いと言うことを実感させられると同時に、目の前に広がる未知の世界に、純粋な好奇心がムクムクと起き上がって来た。


「でも、実際プロゲーマーって何をするんッスか? 本当にただゲームをするだけでお金をもらえるわけでもないでしょう?」


 ただゲームをするだけでお金がもらえる。それだけ聞くと夢のようだが、実際はそんなわけも無いはずだ。


 お金をもらえる以上そのお金を出してくれる誰かはいるはずで、お金を出す以上それには理由やシステムがある。


「そうだな、プロゲーマーと呼ばれる方々の収入は、主に世界各国で行われる、大会での賞金だ。日本では現状法律などの問題でゲーム大会であまり高額賞金を出すことはが出来ないが。世界に目を向ければ賞金総額が百億を超える大会もある」

「百億!」


 あんまりに突拍子のない数字に思わず驚きの声が飛び出す。


「世界各国の大会を転々とし、契約した企業からのスポンサードと大会の賞金が主な収入源。イメージとしてはプロゴルファー等が一番近いかもしれないな」


 プロゴルファーが具体的にどういった、仕組みで収入を受けているか、さほど詳しいわけではないが、それでも朝のニュースなどで、○○選手が○○という国の○○という大会で優勝して賞金王になりました。なんていう話は良く目にする。

 それと同じだと言われれば、なんとなくイメージは出来る気がした。


「最近では動画投稿サイトに自身の活動やプレイ動画を配信して収入を得る人物もいるな」

「あ~そう言われれば見たことある気も」


 ネットに関しては人並み程度にしか詳しくない栄太だったが。

 学校での休み時間クラスメイト誰かがそんな動画の話をしていたようなしていなかったような。


「eスポーツは世界でオリンピック種目の候補に挙がるほど注目を浴びているし。eスポーツ後進国と言われて久しい日本だが、最近ではJeSUが誕生し、国内eスポーツを世界レベルにするため活動をしている。私もプロになってそんな活動の、一翼を担えればとそう考えて」


 普段のクールで落ち着いた印象からは考えられないほど熱っぽく語る零だったが、途中あまりの熱に圧倒されている栄太と目が合うとハッとして少し恥ずかしそうに照れ笑いをした。


「すまないね、少々興に乗りすぎた。好きなことに対して早口になるのはオタクの性だな」

「いやいや、そんなことないッスよ。その……俺も楽しいッス、零さんの事を知れて」


 普段はクールで大人びている彼女が、こんな風に無邪気に笑ったり好きなことで熱くなったりするような一面があるのだということを知れた。

 そんな一面自分に見せてくれたことが、栄太は素直に嬉しかった。


「そうか……実を言うとこうして誰かと遊んだり、自分の夢の事を話すのは君が初めてなんだ」


 イタズラ気なほほえみを浮かべながら、何かいけないことを告白するような、そんなちょっぴり蠱惑的な台詞に思わず胸がドキリと跳ねる。


「えっと……どうして俺に?」

「さぁてね、正直に言うとそのあたりの事は私にもよくわからないんだ。ただ何となく、君にならいいか、とそう思えたんだ」


 ……正直その言葉をどうとらえればいいのか栄太にはよくわからなかった。


 零がどんな思いでその言葉をくれたのか、その真意が栄太には計ることができない。もしかしたら今彼女が言ったようにそれは零本人にもそれは分からないのかもしれない。


 ただもし、零が自分の事を自身の夢を語るに足る相手だと認めてくれたという事ならそれは光栄なことだと思えた。


「……質問に、答えていなかったね」


 不意に彼女の声色が少しだけ重くなった。


 唐突な話題の変更だったが、彼女のいう質問が何のことなのか栄太にはすぐに分かった。


 ケーキバイキングを出る前に尋ねたその質問の答えは有耶無耶のままでまだ答えてもらえていない。


 どうしてeS部を作ろうと思ったのか。


 零はゆっくりとその理由を語りだした。

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