STAGE2-5
「はぁ? なに言ってんのよあんた。なんで私が、あんたの相手なんてしてやんなくちゃ」
美海は取り合うつもりはないと、モニターへ視線を戻そうとして。
「そっちが勝てば俺はもうここには来ない」
栄太の提案が美海の動きを止める。
「川池が勝てば俺はこの部室にはもう二度と来ないし、お前の前にも現れないそれでどうだ?」
ゲーム画面へと戻ろうとしていた美海の視線が再び栄太の事を見る。
「……どういうつもりなの? あんた」
突然の提案に困惑し怪訝に思う美海だったが、それとは対照的に栄太の声は迷いなくその問いに答える。
「俺はただ川池とゲームで勝負がしたい、そんだけだよ」
「だから、なんでそこまでして私と対戦したいとか言ってんのよ、ウマシカ頭」
「気になるっていうのなら、その理由も俺に勝ったら教えてやるよ」
挑発してるようにも思える栄太のその発言に、美海の表情がムッとする。
「なに? あんた私に勝てるつもりでいるわけ? この間までアケコンにも触ったことがないような素人のくせに」
「もちろん。じゃなきゃこんなことは言ってねぇって」
美海の表情が益々険しくなり、その口元は笑みを浮かべる。
「いいよ、やってやろうじゃないの」
怒りとそして闘志をむき出しにした獰猛な笑みに、ニヤリと不敵な笑みで答える。
「そう来なくっちゃ」
双方同意の元、学園の片隅、eS部の部室で決闘の成立を知らせるゴングがなった。
機材のセッティングを終えてキャラ選択画面。
栄太は前回、零と対戦した時と同じリョウ。大して美海はアメリカンアーミールックなキャラクターのパイルを選択。
「一ラウンド九十秒、二ラウンド先取の一本勝負」
対戦前の準備を終えて、美海が改めて勝負のルールを確認を行う。
「本当に良いわけ? 言っとくけど手加減はしないから」
「分かってるよ、男に二言はねぇ」
「あっそ、ならさっき言ってたことも、後でやっぱりなしとか言うんじゃないわよ」
そういって美海が試合スタートのボタンを押す。
試合開始までの僅かなロード時間。栄太はコントロールスティックを握る自分の掌がうっすら汗ばんでいることに気づいてこっそりズボンでそれを拭った。
ゲームで緊張するなんて初めての経験だった。
ロードが終わり画面の中で二人の操作するキャラが対峙し構える。
READY……?
小さく息を吐き緊張を紛らわせ、神経を指先と目の前の画面へと集中する。
FIGHT!!
開戦の号令と共に栄太の操作するリョウが仕掛ける。
ステップで一気に距離を詰めて中段蹴りを打ち込むがパイルはそれを難なく防ぐ。
上、中、下を織り交ぜながら攻撃繰り出すが、美海の操作するパイルはそれを的確に弾いていく。
ならばと栄太はガードを投げ技で崩しに掛かるが、それを読んでいたと言わんばかりに美海はその一撃にカウンターを差し込み、さらにコンボへと繋がれる。
ヒットポイントを三分の二を持っていかれ体制を立て直すために距離をとるが、美海はそれに対して深追いはせず追撃の遠距離技を放つ。
飛び道具で動きを制限されてジリジリとヒットポイントを削られていく。
このままじゃだめだとしびれを切らしてジャンプで弾幕を飛び越えに掛かるが、待ってましたと対空攻撃で叩き落される。
結局そのまま流れを引き戻せないまま、栄太はまともな攻撃を入れることも適わなず一ラウンドとられてしまった。
敵の攻撃を耐えて、耐えて、虎視眈々と隙を待ち、的確なカウンターを差し込んで流れを取りに行く。
生真面目なまでの堅実さと、勝利への執念を感じさせる、強固な守りに的確なタイミングでの攻め。美海の操るパイルはとにかく隙がなかった。
「なによ、口ほどにもないじゃない」
侮蔑と僅かな失望が込められた一言が栄太の耳に届く。
悔しかった。けれどその通りだ。
格ゲーの特訓を初めて僅か数日、その程度で経験者である美海や零達との実力差が埋まると思う程、自惚れちゃいない。
ただそれでも、今ここで栄太は美海に挑まなくてはならなかった。
たとえ勝ち目が薄くとも、たとえ自分の実力が足りていないとわかっていても。
挑まなくちゃならない理由がある。
第二ラウンドが始まると同時、栄太はまた美海との距離を詰めに掛かる。
一気呵成に攻撃を仕掛けるが、鉄壁の守りは崩れることはない。
一ラウンド目の繰り返しかと、美海が攻撃の隙間にカウンター差し込もうとしたその瞬間だった。
「俺は零さんのことが好きだッ!」
栄太が叫ぶ。
「お付き合いしたいし、一緒にデートへ行きたいし、手だって握りたい!」
「ちょっ、あ、あんた突然なに言ってんのよ!」
栄太の突然の告白に動揺を隠せない美海。
鉄壁の守りにできたほんのわずかな隙に、栄太の攻撃が滑り込む。
「しまっ!」
ようやく届いた一撃、1ヒット、2ヒット、3ヒット。
その瞬間にここ数日、何度も何度も繰り返してきたコンボを叩き込む。
それでもまだ完璧とはいえず、途中で間合いの管理を失敗して技が途中ですっぽ抜けてしまった。
美海はとっさに体制の立て直しを図るが一撃を受けた衝撃は大きかったのか、結局、勢いそのままにそのラウンドは栄太がもぎ取った。
美海が何かを言いたげに栄太を睨むが最終ラウンドの開始が迫り、すぐに意識を画面へと戻す。
最終ラウンドを告げる号令が響く。
一ラウンド目と同じく距離を詰め先制攻撃を仕掛けるが、もう調子を取り戻したのか美海は栄太の攻撃を危なげなく防いでいく。
「昨日、川池からこの部の成り立ちの話を聞いて、お前がどれだけこの場所を大切に思っているのか少しは分かったと思う」
ゲームなんてと周りから言われながらも、零はこの部を一から作り上げた。そんな彼女を美海は尊敬して、そして零の作ったこの場所を大切に思ってる。
「俺がゲームの特訓をしてるのも、この部室に来るのも、こうして川池と対戦してるのも全部、勝負に勝って零さんとお付き合いをしたいからだ。川池の言う通り俺の動機は不純だよ、それは認める」
栄太が何を言ったところで美海の守りが崩れる気配はない、さっきと同じように動揺からミスをすることはもうないだろう。
「だけどッ!」
それでも栄太は構わず攻撃を続ける。
「いい加減な気持ちなんかじゃない!」
たとえ何度、防がれはじかれようとも栄太はあきらめることなく目の前にある壁を殴り続ける。
――疑問に思っていることがあった。
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