STAGE2
STAGE2-1
その日の授業が終わり、放課後。
部活に向かう者、意味も無く友人と駄弁る者、そのまままっすぐ帰宅する者。
銘々に学生達が行動する中、まっすぐにeS部の部室へ向かう。
栄太が一番乗りで到着したらしく、部室には誰もおらず、どうしたものかと少し悩んだが、零からは備品は自由に使って良いと言われている。
取りあえず近くにあったモニターとゲーム機を起動する。
昨日は借りたゲーム機とアケコンを使って一晩中練習したがプ腕が上がったかと言えば、正直そうでもない。
ゲームと一緒に渡されたアケコン、これが難敵だった。
そもそもゲームセンターでゲームをしたことがほぼ無い栄太にとって、アケコンというのは未知の存在だった。
一般的なコントローラーとは、ボタンの配置から操作感に至るまで何から何まで違う。
アケコンはキャラを動かす際に使う、スティックと、パンチやキックを打つときに使う八つのボタンで構成されている。
スティックの方はそれほど問題なく扱えたが、問題なのはボタンの方だ。
この割り振りを覚えるのが一苦労だったし、普段あまり使わない指を使う必要があり。
慣れない最初の内は指がつりそうになった。と言うより、実際一回つった。
そんなこんなで、結局昨日はアケコン操作に慣れるのが精一杯。
マイナスから、ようやくゼロになったような、そんな状態なのが現状だった。
英太が練習を始めて五分ほど、部室の扉がガラリと開く音がして振り返る。
部室に入って来た人物は、英太のことを見るなり不愉快そうにその顔を歪めた。
「川池、えっと……お邪魔してます」
流石に無視をするのは機材を借りている側として失礼だろうと、挨拶するが美海は返事をせず、英太に対して背を向ける位置にあたるモニターの電源を入れた。
ヘッドホンを装着しゲーム機を起動する。話し掛けるなと、その無言の背中は言っている。
『でも、私は認めませんから』
昨日、去り際に残した彼女の頑なな声が頭を過ぎる。
彼女がどうしてここまで、自分のことを嫌うのかは正直分からないが、英太としてもここまで一方的に邪険にされるというのは面白くない。
ふんっ、と小さく鼻を鳴らしながら英太は自信のゲーム画面に視線を戻した。
「英太君、川池君、二人とも精が出るな」
それからさして時間を開けず零も、部室に姿を現した。
「部長、おはようございます」
気づいた英太が席を立つよりも一瞬早く、美海がさっきとは打って変わって礼儀正しくそう言った。
畜生負けた、と内心思いながら英太も少し遅れて「おはようございます」と零に挨拶する。
「うん、おはよう。どれ英太君。昨日はちゃんと言いつけは守って、練習してきたのかな?」
「はい! もちろんっす!」
元気よく答えながら、チラリと美海の様子を窺う。
彼女はすでにヘッドホンを付けてゲーム画面へ視線を戻してしまっていた。
「そうか、それは感心だな。さて英太君、今日は君に伝えなければならないことがある」
「伝えたいこと?」
零の意味深な発言に英太が首を傾げると、零は形の良い唇で小さく微笑み。
「私はしばらくの間、この部室には来ることを控えることにした」
「え、何でっすか!」
突然のその宣言に英太は驚愕して目を丸くする。
「君と私は一ヶ月後に戦う定め、いうなれば敵だ。敵に自らの手の内を晒す様なことをするわけにはいかない。つまりはそういうことだ」
その零の言葉に英太は、ハッとして目が覚めた様な気分になる。
正直に言うと、ここの設備を自由にして良いと言われたとき、格ゲーについて零から指導してもらえる物だと、勝手に思い込んでいた。
だけどその考えは間違いだった。
零の言うとおり、今彼女は英太にとって倒すべき敵なのだ。そんな相手に手取り足取り教えて指導してもらおうだなんて無視が良すぎる話しだった。
「分かりました。零先輩に会えないのは少し寂しいすっけど。次会うときには俺、もっと強くなって見せますから」
甘ったれた自身の考えを恥ながらも、英太は真っ直ぐに宣言した。
「そうか、期待しているよ。それで私は私で君と戦うための準備を進めるとしようか」
そう言い残して、そのままeS部の部室を去って行く零を見送り、英太はまだ扱いなれていないアケコンのスティックを握りゲームに没頭していく。
「……フンッ」
そんな背中に苛立たしげな眼差しを向ける美海の視線に、英太が気づくことは無かった。
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