STAGE1-2
「私は
「二年B組
「名前も分からない相手に告白してたなんて……理解に苦しむわ」
道着から学園の制服に着替えた二人と供に校舎の中を歩く。
零が告白の返事の前に付いてきてほしいという場所に向かう途中。
そういえばお互い未だに名前を知らないということに気づき、こうして自己紹介をすることになった。
「仕方ないだろ考えるより先に」
「それはさっき聞いたし、そもそも聞いてないわよ。ウマシカ男」
「ウマシカ男?」
突然飛び出した、謎の言葉で頭の中に?マークが浮かぶ。
ウマ·シカ。うま·しか。馬·鹿。
「ああ! 馬鹿って意味か! て、おい、こら。ちょっと捻って人を罵倒すんな。考えちゃっただろうが」
「これくらいスッと分かりなさいよ。だからウマシカだって言うのよ」
ぐぬぬ。と英太が歯がみしていると「ちなみにだが」と二人のやり取りを傍観していた、零から声が掛かった。
「彼女は
「ふーん、なんか川だか池だか海だかよくわからない名前なんだな」
「うっさい気にしてるんだから言うな。というかあんたさっきからあたしにたいして馴れ馴れしくない? あんまり気安くしてほしくないんだけど」
「そう言うなよ、タメなんだし」
しかし美海はフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。どうやら仲良くする気はさらさら無いらしい。
「やれやれ、ところで橋本君」
「栄太でいいですよ」
「ふむ、では私のことは零でいい。それで栄太君、先ほども聞いたが君は以前に何か武術や格闘技の経験があるのかい?」
「いえ別に何も」
「ではスポーツの経験は?」
「それも得に、強いて言えば生まれてこの方、ドッチボールで負けたことは一度もありません!」
「……小学生かっつーの」
どこか誇らしげに話す栄太に対して美海がぼそりとツッコミを入れる中、零は何か納得したように一人頷いた。
「なるほど、ということはあれは天性のものなのだろうな」
「部長、さっきからどうしたんですか? こいつの何をそんなに」
「いやなに、少し思うところがあってね。と、そうこう言ってるうちに到着だ」
そう言って零が立ち止まったのは、校舎三階にある教室の前であった。
「eS部?」
栄太が扉の掛札をみて首を捻った。
何かの部室だということは分かるが、名前から何をする部活なのかさっぱり検討が付かない。
零が制服のポケットから鍵を取り出し、部室の扉を開ける。
「さぁ入ってくれ」
零に促され入室した部室。まず目に入ったのは複数のモニターだった。
計六つモニターが部室の中にズラリと並び、その全てにはゲーム機や明らかに一般的なものとは違うハードディスクが接続され、やたらボタンが多くゴツゴツしたマウスや、キーボードなど栄太が今まで見たことないような機材がゴロゴロしている。
他にもゲームのソフトや関連本でいっぱいになっている本棚や、大きめな箱にレバーやボタンを取り付けたような、謎の機械がしまわれた戸棚など。
正直学校の一室とは思えないような、ある意味異質な空間がそこには広がっていた。
「……なんか秘密基地みたいだな」
「ふふっ、まるで少年のような感想だが、残念ながらここは地球防衛軍の秘密基地ではなく、我々electronic・Sports部の部室なのだ」
「エレク、トロ……ニック? 空手部じゃ無くてですか?」
「本来私の本業はこっちでね。空手部は鍛錬の一環として、無理言って時々練習に混ぜてもらっているんだよ」
零は徐にモニターの一つに電源をいれ、そこに接続されているゲーム機も一緒に起動させた。
「栄太君、君はeスポーツというものを聞いたことがあるかな?」
「聞いたことくらいなら。ゲームの大会とかに出たりするんですよね?」
やたらギラギラした会場で巨大なモニターにプレイ映像を映しながらゲームをしているようなところをテレビか何かで目にしたような記憶はあるような気がする。
「うむ、間違ってはいない。electronic・Sports通称eスポーツなどと呼ばれるが、要はテレビゲームやネットゲームなどのコンピューターゲームをスポーツ、つまり競技として捉えたものの名称だな。我々はそのeスポーツを文字通り部活動として行っている」
「あー、要するにeS部っていうのはスポーツとしてゲームをする部活で零さんと川池はその部員って言うことすっか?」
「要約すればそういうことだ、飲み込みが早いな栄太君」
「いえいえ、そんな」
「おめでたいわね、社交辞令って言葉を知らないのかしら、このウマシカ頭は」
「むっ、なんだよさっきから突っかかってきやがって。俺そんなに悪いことした?」
あんまりな態度に思わず尋ねる栄太だったが、美海はフンッとそっぽを向いて目を合わせようともしない。
いったい何がそんなに気に入らないというのか、栄太には正直よくわからなかったが、その気のない相手に無理に話したところでお互い疲れるだけだろう。
気を取り直して零の方へと視線を戻すと、話が終わるのを待っていたのか彼女はゆっくりと机に腰掛け話の続きを始めた。
「さて、栄太君。先ほどの交際申し込みの件なのだが……受けてもいい」
「本当ですか!」
「正気ですか部長!」
歓喜する栄太に、わりと失礼なことを言いながら驚愕する美海。
二人の声が同時に部室の中を木霊する。
「ダメ、ダメ、ぜーったいにダメッ! 考え直してください部長! こんな奴と交際なんてしたら末代までの恥ですよ!」
「ひでぇ言われようだな、人のこと何だと思ってんだ。あと、人の恋路にうだうだ言うのはよくないと思うぞ」
「だまらっしゃい! あんたみたいなウマシカ男と、素直に交際する方がどうかしてるわよ」
「川池君、少し落ち着きたまえ」
零になだめられ、渋々矛を収める美海だったかが、納得はしていないらしく例の威嚇する猫の目で、栄太をにらみつけている。その内、フッー! とか言い出しそうだ。
「さて、話の続きなのだが、交際の件受けてもいいとは言ったが一つ条件がある」
「条件?」
怪訝な表情を浮かべ聞き返す栄太に対して、零はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「先ほど行ったとおり私の在籍する
不敵な笑みを浮かべたままで、やや芝居がかった口調と身振りで話をする零。
その様子が妙に様になって見えるのは、彼女の整った容姿のお陰か、はたまた人柄なのか。
「そしてここはその部室、ならばやることは一つだろう」
そこで零は先ほど起動させたゲーム機のコントローラー一つを手に取った。
「私にゲームで勝つこと、それが出来れば交際を受けよう、それでどうかな?」
手に取ったコントローラを栄太へ差し出しながら、零ははっきりとそういった。
初対面でいきなり告白したことをとやかく言えなくなりそうなくらい突飛な提案。
だがしかし、からかいや冗談ではなく彼女は本気で『私と付き合いたいのならゲームで勝って見せろ』と、そう言ったのだ。
ならば迷う必要など微塵もない。
「わかりました、受けて立ちましょう」
零から差し出されたコントローラーを手に取る。
「ただし、負けたからってやっぱりなしなんてことは認めませんよ」
「ふん、当然だな」
先ほどお返しと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる栄太、それに答える零。
一つのコントローラーを互いに握るその姿は、試合の前に互いの健闘を誓い握手を交わす競技者の様であった。
……ちなみにその横で、美海がノリについて行けず、一人頭を抱えていたのは余談である。
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