第12話

 美原に案内されて、体育館裏の倉庫のようなところまでやって来た。

「確認するよ。魔女の前に敵影は二人。魔女自身の戦闘力は皆無に等しい。従って私が敵二人を対処し、その間に突撃して魔女を殺す──それで大丈夫だね?」

 小早川さんの言葉に二人で頷く。

 中に入るのは、(魔術による洗脳アリだが)美原が許可を取っている。洗脳魔術は魔力が互いに共鳴、共振する性質を使っているそうだ。トカゲを使役できるだけあり、美原はこういうのも得意なのだろう。……この間の魔女の先読みも、同じ原理なのだろうか。

 その美原は、魔女を発見してからというもの、ずっと青い顔をして、どこか震えていた。……鬼が出るか蛇が出るか、警戒しておくに越したことはないだろう。

「……あそこだ」

 小早川さんが指し示す先には、黒いローブを纏ったいかにも魔術師と言わんばかりの姿をした二人が番をしている、古ぼけた倉庫があった。──けれど、わかる。あの中から、嫌悪感のようなものと、滲み出る黒いオーラを感じる。

 例の、肌が粟立つ感覚。言うまでもなく、魔女だ。本能の警鐘を無視して、俺は一歩歩みを進める。人間と魔女が一緒にいることに、どう説明をつければいい? あの人間たちは、魔女を飼い慣らしているのか? そう思考するのも束の間、小早川さんの反魔術で、呆気なく人間たちは拘束された。自害を防ぐためだろう、口の中にも同じ結界が詰められている。

「あれ、面白いもん持ってるじゃん」

「ちょ、おい!」

 不意に、小早川さんは拘束した人間たちのローブのポケットを漁ると、懐中時計のようなものをその中から取り出した。懐中時計にランプでもついているのか、それは黄色に光っている。

 まるで追い剥ぎだ。敵とはいえ、そういう行為はいかがなものだろう。そう思わずにはいられないが、同時に、彼女がわざわざ取り出すほどの"面白いもん"に対する興味もまた、拭えなかった。

「……それは?」

「貸してあげるよ」

 ポイ、と彼女が軽い調子で投げたのを受け取ると、その懐中時計についていた小さなランプが、赤く光った。

「危険値ってことだね。いつ魔女になってもおかしくない。……君に魔女になれるほどの魔力は無いと思うけど」

 揶揄うように笑いながら、小早川さんはそう言った。

「悪かったな魔力なくて!」

 俺は悪態をつきながら、彼女に時計を投げ返した。彼女がそれをスッと自分のポケットに入れると、魔術師達は猿轡をされているなりに、大声を上げた。

 舌を噛み切ることもできず、かと言って動くこともできない。そんな状態で地面に倒れ伏しながら、モゴモゴと何かを喋って抵抗しようとする二人の魔術師の目は、明らかに恐怖に怯えている。──俺はそのうちの片方の魔術師の眼前にしゃがみ、目を合わせた。

「お前らを見ている。妙な真似をしたら殺す──」

 別に口にはしていない。けれど、俺の意図が伝わったのかは不明だが、それだけで魔術師は押し黙ってしまった。

「…‥ヒュウ、やるねえ」

「何がだよ……」

 小早川さんは、そんな俺の様子に、どこか感心した様子だ。俺はなんのことかわからず、ため息を吐いた。

 美原は俺と小早川さんのそんなやりとりの最中も、ずっと黙っていた。その顔色は、魔女に近づくほどに青白くなっていっているようだ。……よっぽど今回の魔女は性質がよくないらしい。

 しょうがない。何かあれば俺が前に出よう。……敵が人間だろうと、やることは変わらない。魔女だって元は人間なのだ。

 そう腹を括って、扉を開けると──中では、赤ん坊が、磔になってそこにいた。

 正確には、赤ん坊の姿をした魔女だった。魔女は異形の姿をとるが、その魔女に特徴的なのは耳だった。

 うさぎの耳を頭に生やした、可愛らしい魔女が、虚な目をして、そこにいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る